ソフトテニス秋期地区大会 決勝戦
日の出丘高校 公古谷奈々/水戸静香(組)
秋日山高校 野々村真紀/葉山理恵(組)
理恵の前方から「ブーン」と風を切ってボウルが飛んできます。
その音は理恵が今まで聞いたことのない恐ろしい音でした。
日の出丘高校、公古谷奈々の放つ猛烈に回転をつけた破壊力を伴ったボールです。
理恵は今までそんな凄いボールに出会った経験はありません。
そのボールを初めて理恵がカットした時に、セーフになったものの
一瞬、握ったラケットが手から吹き飛ばされそになり、
理恵の体も後ずさりさせられる感じに思えました。
カットした右手首にしびれるような痛みを感じたのです。
スッゴイ!
これが、前年のシングルスの女王、公古谷奈々のボウルなんだ!
他の選手とは全く違う!
恐ろしいほど重くて破壊力のあるボールだわ!
ボールから離れていても音はコートいっぱいに鳴り響き、それが観客にも伝わり
奈々の1打1打に周囲からどよめきの声があがるのです。
「ブーン」
奈々の放つボールが理恵の右方ラインすれすれに飛んでいきます。
理恵からは距離があり手が届きません。
そのボウルを真紀先輩がバックハンドで「スパン」と鋭く打ち返します。
理恵の後方から先輩のボールが「シュー」っと高い音とともに
相手コート同ラインすれすれに返されます。
先輩の打つボールは刃物でスパッ!と何かを切るようなシャープな音が特徴です。
公古谷奈々は男子より豪快な力強い振りに対し、真紀先輩の振りはとても
コンパクトで素早い動作です。
二人のラケットの振り方には明らかに大きな違いがあり、放つボールの音も
全く違っているのです。
ゲームカウントは 3:2 で真紀/理恵組の劣勢です。
2ゲームをストレートに先取され、その後1ゲーム返し、
また1ゲーム取られ、粘って1ゲーム返し 3:2 で6ゲームが現在進行しています。
4ゲームを先取した方が勝ちです。
ゲームの流れとしては後衛の打ち合いといった感じに見える試合です。
理恵の失敗は1度ありました。
それは、やはり理恵の弱点があらわに出てしまった上半身の切り返しの
遅れによるカットの失敗です。
ラケットが間に合わずカットしようとしたボールがラケットの木枠の部分に当たり
アウトになってしまったのです。
もう少し早く動ければ間に合っていたのは間違いありません。
ですが、それが、理恵の弱点なのです。
ただ、失敗は今のところ1度だけです。
理恵は前衛としての役割を必死で果たそうとしています。
試合は多くの人が予想していた通りの流れとなり、
去年の因縁の二人の対決が繰り広げられている感じです。
ダブルスの試合であっても
コートの上ではまるでシングルスの試合が展開されているようにみえます。
皆が、そのように見てしまうからかもしれません。
ですが、実際には理恵の活躍も多くあり、カットも良くできているし、
サービスの失敗などありません。本当によく頑張っています。
それは、先方の前衛も同じことです。
ですが、今回のこの決勝戦は特別の意味があるのです。
昨年の女王とヒロインの決戦です。
誰もが、その決戦を見たがっているのです。
その期待通りのプレーが目の前で繰り広げられています。
特別の意味とは!
公古谷奈々/野々村真紀 の対決試合!
日の出丘高校/秋日山高校 の決戦試合!
高木圭三/水城サキ の決着試合!
なのです。
観客はどんどん膨れ上がっていきます。
勿論、ソフトテニスの決勝戦ですから当然のことなのでしょうが、
ですが、この試合に限っては特別の何かがあるのでしょう。
観客の多くは去年のいきさつを知っている人も多いはずです。
ですから、この雰囲気には何か計り知れない異様なものが
立ち込めている感じなのです。
おいおい、、すごい試合になってきたぞ~
俺が話した通りだろ~
こんな試合、テレビの試合でも見れないかもしれないぞ!
早くスマホでみんなも呼ぼうぜ、、、、急がなきゃ!
お前も呼んだ方がいいぞ!
所々で携帯で誰かを呼び寄せる様子が観客の中に見えます。
やっぱり公古谷かな、、、、?
いや~ 野々村だろう、、
イヤ 公古谷だろう、、、
俺、絶対に野々村真紀にかけるワ!
ねえ! 私たちあんな人たちと試合したんだね!
負けても仕方ないか~、、、? ストレート負け!
アホ! 私たちの練習が足らないだけじゃん!
もっとまじめに練習しろ!
このまま、野々村真紀は負けるのかな~あ、、、
イヤ!
野々村真紀がそう簡単にやられることなんてないわ!みてて!
でも、けっこうヤバクない?
日の出丘高校 公古谷奈々/水戸静香(組)
秋日山高校 野々村真紀/葉山理恵(組)
ゲームカウントは現在 3:2 で公古谷奈々/水戸静香(組)優性
6ゲーム目のポイントは現在 2:3 野々村真紀/葉山理恵(組)のアドバンテージです。
試合は壮絶なものとなりました。
理恵も前衛としての役割をしっかり果たしています。
あの公古谷奈々の強烈なボールを何度かカットしているのです。
相手側の前衛も活躍しています。
水戸静香の動きも軽やかでかなり練習を積んでいるなと理恵は内心感心しています。
敵ながら、スゴイ前衛だわ!私よりすごい!
私の弱点を相手は全て克服しているわ。
6ゲーム目のポイントは3:3となり、
現在、デュースアゲインが続いています。
試合内容は五分五分です。
ですが、秋日山高校にはあとがありません。
このゲームを落とせば負けてしまいます。
デュースごとに崖っぷちに立たされるのです。
ポイント1の失点で敗退です。
ですが、まだまだ勝敗の行方は全く分からりません。
それほど壮絶な戦いなのです。
いよいよ7回目のデュースでポイントは3:4 です。
秋日山高校、野々村真紀/葉山理恵(組)がアドバンテージです。
手に汗握る試合展開です。
多くの目がボールの行方を追います。
バシッ! ブーン! 奈々
スパン! シュー! 真紀
ボウルを打つたびにプレイヤーの体から汗が飛び散ります。
その様子から、いかにスマッシュに力がこもっているかが良く分かります。
何度も何度もボールが両チームのコートを往復します。
観客も息をたたずみ試合に熱中しています。
おい おい 俺 もう心臓が破裂しそうだわ!
これが高校生の試合かよ! 信じられないわ!
ホント! めちゃ うそみたい!
女子の観客の中には涙を浮かべている人もいます。
もう どちらも勝って!
どちらも負けないで! お願い! お願い!
スパン!
あっ!
野々村真紀の打ち返した強烈なボールがネットにはじかれました。
あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
ボールは「ポン!」とネットに当たって宙に舞い上がり、
右サイドのライン近くにストンと落ちていきました。
・・・
・・・
去年のあの時と全く同じだ!
今回と同じ、7回目のデュースの時、
野々村真紀の打ち返したボールがネットにはじかれた。
ボールは右ライン上に落ち、
判定はアウトだった!
そして今も全く同じ状況が再現されたのです。
こんなことってあるのでしょうか、、、
あの時も真紀のバックハンドでの打ち返しだった。
ネットに当たった箇所、
ボールがラインに落ちた場所、
全てがあの時と似ているのです。
この1球で試合が大きく変わってくる、、、いや、決まる! あの時も、今回も!
あああ、、、、、
観客が全員総立ちになりました。
一瞬、時間が止まります。
騒然としていた観客も関係者もプレイヤーも同時にピタッと動きが止まりました。
全く音のない静かな世界が急に訪れた感じです。
大変な状況が起きたことを皆が同時に悟ったのです。
口を開けたままの男子
両手を握りしめて祈るような女子
・・・
・・・
副審
無数の目が副審の握った旗に集中し、時間が止まっているのです。
全員が副審の判定を待っています。
・・・
・・・
さあどちらだ!?
その時、白旗がスーッと振り上げられセーフの声が聞こえました。
うわーーーーーーーーあ!
沈黙を破って観客のどよめきがコートいっぱいに広がります。
もう会場は大騒ぎです。
ゲームカウントは 3:3 の同点です。
相手方、日の出丘高校のタイム要請で試合は一時休憩です。
真紀と理恵の二人は直ぐに水城先生の元へ走り寄ります。
タオルをで汗をぬぐいながら水を口に含み少し飲みます。
真紀先輩は汗で体がびっしょりで、まるで頭からバケツで水を
一気にかけられたように見えました。
そして、体はガタガタ震えてて、激しい息使いが伝わってきて、
胸が破裂するかと思うくらい強烈に上下しているのです。
明らかに疲労の顔が出ていて表情にも余裕がありません。
理恵も死ぬほどしんどかったのですが、
真紀先輩のは理恵の比ではありません。そう思いました。
理恵は真紀のそんな姿は過去に1度も見たことがありません。
いかに真紀先輩が頑張っているかが分かります。
水城先生は両手で私たち二人を同時に引き寄せて一言だけいいました。
「負けなければいいのです」
真紀先輩は息で言葉が出ないのか、何度も首でうなずいていました。
その黒髪のカットの先から汗が何滴もぽとぽとと地面に落ちていきました。
真紀と理恵はベンチに座ってホイッスルを待ちます。
真紀先輩が、切れ切れの声で理恵に言いました。
「理恵! 相手は作戦を変更してくる!」
「次からはあなたを狙ってくるわ! 理恵! 負けないで!」
ホイッスルが鳴りコートチェンジで試合開始です。
さあ! いくよ! 理恵!
そう言うと真紀先輩はサッ!と立ち上がりコートに向かって全力疾走しました。
ああ! 待って! 真紀先輩!
すごい! 先輩はもう回復してる!
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