私はピーナツバターと別れて家に帰ってきました。
ただいまーーーーーーーーあ!
おかえりなさ~い!
台所の奥からお母さんの声がします。
私の服は汚れて土だらけです。
つい先ほど、ピーナツバターにお腹をパンチされた汚れです。
母が見ると心配します。
私は直ぐに階段をドタドタドタっと駆け上がり2階の
自分の部屋へ飛び込みました。
ハア~ もう安心だわ。。。
靴下を引っ張るようにして脱ぎます。
わ~ 汚ね~え、、、足の裏が泥で真っ黒じゃん! ポイ!
上着を脱ぎ捨てて、私は鏡の前に立ちました。
鏡の中の私を見ます。
私はキレイ?
ピーナツバターが私のことをキレイだと言いました。
自分の容姿は今までそんなに意識していませんでした。
お母さん似だから、まあ良い方かも、くらいにしか
思っていませんでした。
スタイルもそんな感じかな。。。
ただ、私はバカみたいに勉強をする、迷い多き普通の
高2の女の子です。
おしゃれとか男子とか無関心です。
恋愛なんて無縁の女の子。
でも、でも、うふふふ、、、
キレイって言われちゃった~
好きだなんて、、、、きゃあ~
そんなの言われちゃったのは、生まれて初めてじゃん、、、、うふっ!
手で頭をゴン! 痛て~え!
うぬぼれるんじゃね~、いい加減にしゃ~がれ!
鏡の中の自分に言いました。
あいつのお世辞に決まってる! 。。。 だてに年くってね~か!
汚れたスカートのホックを外します。。。脱ぎます。
スカートが両脚を ス~ッ と滑り、ストン! と足首に落ちます。
それを 足でポイ!
胸のリボンもついでにポイ!
白のブラウスのお腹の部分が丸く汚れています。
ピーナツバターのパンチの跡です。
ブラウスを無造作に脱いで、ポイ!
部屋の中央に私の衣服がポイ捨てで集まります。
私は鏡に映った自分の姿を見つめました。
下着姿の私が映っています。
下着まで汚れています。きたね~え!
裸になっちゃえ! パンティとブラを取ります。
私の全裸姿が鏡に映っています。
これが、私の生身の裸体!
腹部が赤くなっています。派手にやりゃがって!
ふ~ 、、、、、 それなりの見方をすれば、
私もイケてるかもな~? キレイかも?
色も白いし背もそこそこあるし、、、、
スタイルもいい! 多分?
胸が大きくなった~? あいつメ! スケベ野郎!
私のオッパイが大きくなったと感心してた。。。
確かに小5の時から比べるとかなり大きくなった。
いい匂いがする~? 意味不明、、、、、変態野郎!
・・・
人から見れば、
この体って、もう大人の女?
今まで美香ちゃんも私も精神年齢が
幼稚過ぎだったのかもしれないわ。
考えてみると、
美香ちゃんもキレイだし、スタイルだって抜群にいい。
ただ私たちは恋愛経験ゼロの処女娘2人。
私たちは、男子に縁のない飾りっ気なしの2個のイモか~
その時、私はふと思い出して机の奥の方から
ピンクの花模様の缶を取り出しました。
蓋を開けてみると2本のピンク色のリボンが入っていました。
あっ! これは、、、、今日ピーナツバターに
お腹を殴られた時、霧の中に現れた小5の私が付けていた
ツインテールのリボンだわ。。。。。
・・・
私は鏡の前でポニーテールをほどき、そのリボンで
ツインテールの髪型にしました。
・・・ と、その時です。
一瞬目まいがしてクラクラっと体が揺れました。
・・・ ? なに?
えっ!
鏡の中に小5のちっちゃい体の私がツインテール姿で
立っています。
同じピンクのリボンです。
体操服姿の少女が、はつらつとした顔で嬉しそうに
自分の体を鏡に映して見ているのです。
活き活きとして輝いた表情です。
あっ! 確か、6年前に小5の私は、ご飯の後にお兄ちゃんに
合気道を教えてもらうために、ここに立っていた。
この後、私は、
お兄ちゃんの部屋に行って合気道の「先」を教えてもらうんだわ!
そして、勇気と愛を教えてもらったんだ!
あっ! 思い出した!
ここが私の全ての出発点なんだ!
・・・ あの頃の私は活き活きとしていた。
・・・ あの頃の私は常に前に向かって走っていた。
・・・ あの頃の私は真っ赤な夕日のように輝いていた。
鏡の中の小5の私が長~いツインテールの高2の私に変わっていきます。
全裸です。
これが今の私。
セーラムーン
悪を正す正義味方、少女戦士、セーラムーン、野々村美沙
これから、一体、何が待っているというのだろう?
・・・
その時、下の階から母の声がしました。
美沙ーーーーーーーーーあ! ご飯ですよーーーーお!
その時、何故かくらくらと目まいがしましたが、
私は、
はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!
と返事をして、
慌てていつもの普段着を着て、脱ぎ捨てた制服を
まとめて掴んで階段を飛ぶように降りていきました。
途中でお風呂場の前の洗濯機の中に服をまとめて、 ポイ!
お父さんが新聞を広げています。
あ~ 美味しそうな匂い、、、、、今日は中華だ!
台所に入って行きました。
お父さん、おかえりなさ~い!
新聞を見ながら、ああ、、、美沙! お前もお帰り!
食卓にすっごい大きなお皿に中華風の野菜炒めが盛ってあります。
母がご飯をついで食卓に並べています。
うっわ~ 美味しそう!
あれ! お茶碗が、5人分?
お母さん~、2個多いいよ! お茶碗
父が新聞の中から言います。
健一が帰って来るんだ! 今しがた電話があってさ!
もうすぐ着くって言ってた!
前からその予定だ!
え~ お兄ちゃんが~ でも、お茶碗が 2個?
彼女と一緒だってさ、、、、、初めて連れて来るんだ。
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!
彼女ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーお!
お兄ちゃんが彼女を家に連れて来るのーーーーーーーーお!
ビックリ、、、ビックリ!
その時、玄関でチャイムが鳴りました。
え! お兄ちゃんと彼女!
私は、ダダダダダダダダダダダ、、、、と走って玄関先へ走りました。
超特急!
ツルッ!
ああああああああああああああああああああああああ、、、、
ドン! ドン! ドン! バッタン! ばったん、ばしゃん!
がらがらがらがらーーーーーーあ! 扉が開きました。
2人が立っている足元へ玄関マットを抱えて、
コロコロコロごろっ。。ゴン
お尻が3回床でバウンドして靴の上にお尻から着地しました。
痛------------------------い!
玄関の前で2人が、不思議そうに顔を見合わせています。
美沙! お前、何やってんだ!
お兄ちゃんが真上から私を見下ろしています。
その隣で女の人が私に微笑んでいます。
ヤバ~イ!
え? 私? あの、、、実は、、、いま、、、そうそう、、
高跳び! 走り高跳びの練習、、、、、そう、、高跳びだよ!
・・・ ふ~ん、、、、、随分と熱心なんだな~
いらっしゃいませ、、ようこそ、、お待ちしていました。
私は転んだままで、見上げて、そ~言いました。
あ~ もう最悪! お尻が痛~い、、、、、
・・・
5人はテーブルに着きました。
私は何故か、すっごい緊張しました。
お兄ちゃんの彼女って、すっごいキレイ!
私はこの女の人を知っています。
名前は坂田紀子さん、お兄ちゃんと同じ大学で
今井先生の元で、お兄ちゃんと一緒に合気道を習っていた。
でもあれは、確か私が小5の時の夢の中の出来事、、、、
一体、ど~なってるんだろう、、、、?
6年前の夢の中の人が目の前に居るなんて。。。
・・・
お兄ちゃんが彼女を紹介します。
父さん、母さん、美沙、こちらは坂田紀子さん。
同じ院生で大学時代から合気道を一緒にやっているんだ。
今も俺たちは一緒に先生を補助する形でやってる。
今回はこの近くで大学の合同大会があって先生のお手伝いで
一緒に来たんだ。
彼女がお土産を出して、
初めまして坂田です。
健一さんにはいつもお世話になっています。
どうぞよろしくお願いいたします。
と挨拶をして、みんなを見て頭を下げましたが、
あれれっ! 私を見つめたまま、、、ど~しちゃったの?
私の顔に何か付いてるの?
ねえ? 紀子さん 、、、、なに、なんなの?
紀子さんが、不思議そうに何かを考えているふうです?
ハッ! っと我に返って、、直ぐに笑顔になって、、
美沙さんって、
ツインテールが素敵なんですねっ!と言って、にっこりしました。
な~んだ、、、私のツインテールか~
一瞬、ドッキリしました。
大学の道場で会ったのを思い出しちゃったのかと思いました。
あれは夢の中の出来事。。なわけないか~、、、
お兄ちゃん! 今井先生はお元気ですか?
あ~ ますます元気にされてるよ。
元気すぎッて感じかな。。。
すっごい人だよ! 自分の道場を3つ持ってて、
大学の監督までやって、外人なんかにも人気があって、
いっぱい教えててさ。すっごいよ。。。まったく!
それに、
いつも熱心に何かに取り組んでてさ、何かを研究してるよ、、、、
紀子さんが言います。
あら、、美沙さんは今井先生をご存じなんですか?
そ~だ、美沙! お前、なんで今井先生を知ってんだよ?
お兄ちゃんが不思議そうに私の顔を見つめました。
え? ・・・ それは、、、、、、その~
紀子さんが私の顔を見つめています。
何だか変な感じだな~ ~そんな空気、、
お兄ちゃんが言ってたじゃない、すっごい先生が居るんだって。
今井先生って言うんだって、、、ず~っと昔だよ、、、
ふ~ん 、、、、 そ~だったかな~?
お父さんが言います。
まあ、まあ、、、食べながら話そうか、、、、、
・・・
いっただきま~す。
母が言います。
今日は特別なメニューじゃあないんですよ。
健一がいつも通りのメニューにして欲しいってことで、
これにしたんですよ。
どうぞご遠慮なく召し上がって下さいね。紀子さん!
紀子さんが母に丁重に頭を下げます。
なんだか上品で大人っぽいな~ 焼ける。。。
綺麗すぎるよ! 紀子さん、、、てか、女っぽ過ぎ!
それに比べ、私は、なんてガキなんだろう!
お兄ちゃんの彼女か~
それにしても、いつも通りのメニューって
なんでなの? ふ~む、、、何か意味があるのかな~?
気になっちゃう、、、、?
処で美沙! さっき高跳びの練習とか言ってたよな。(兄)
高跳びがど~したんだ~
私は高校の授業でのことを話しました。
夢に向かってジャンプしたらバーと一緒に
お尻から墜落した話です。
ワッハッハッハッハ 父が大笑いすると、
皆が一緒になってお腹を抱えて笑いました。
でも、その杉浦先生って、いい先生だよな!(兄)
夢に向かってジャンプしろか! いいね~ な、紀子!
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!
お兄ちゃんが、 紀子さんを呼び捨てにしてる、、、
まさか、まさか、
ひょっとして2人は、恋人同士?
どこまで進んでるの~ え~ まさか、まさか、、、
知りたいけど、聞けない、、、、
増々、焼けるな~ お兄ちゃんは素敵だし、
紀子さんは上品で綺麗だし、、、スタイル抜群だし、、、
それに比べ、トホホッ!
私は全く男子には無縁の、、色気ゼロ!
イヤ、待てよ!
あっ! 1人いるかも? 、、うっそ~ ピーナツバターの奴
あ~ もう最悪、、、、考えたくない、、、、
美沙さん!
そのツインテール、セーラムーンみたいですね!(紀子さん)
ドッキ! セーラムーン~?
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!
なんで、なんで、紀子さんがそんなこと言うの?
・・・ 何か意味があるの? 紀子さん、、、、心の中でそ~思いました。
・・・ 言っちゃえ!
あ、、はい、私、、セーラムーンなんです。
また、お父さんが、ワッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハハハハ と笑うと
みんなが口から食べ物を吹き出しそうになって
口に手を当てて笑いこけました。
お母さんが言います。
美沙は幾つになっても可愛いわね!
随分前にもそんなこと言って頑張ってたことあったわね。
思い出しますよ。あの頃の美沙を。。。。。。
確か、
小学校5年くらいだったかしらね~、ツインテールの髪型で
正義の味方なんだとか言ってね、張り切ってたみたいよ。
・・・
そ~だ、そ~だ、、思い出した。(兄)
美沙はいじめを無くするんだって頑張っていたよ。
それで合気道を教えてくれって、せがまれてさ、
お兄ちゃんが、お前に少し教えたことがあったぞ!
懐かしいな~ お前がまだ小学生で、ちっこかった時だ。
すっごく すばしこくってさ、
早逃げの天才だったよ、美沙は!
そ~言って、お兄ちゃんは笑いました。
私は野菜炒めをガブガブ食べながら、
お母さん! お代わり!
母が、え~ まだ食べるの~ これで5杯目ですよ!
いいからお代わり、セーラムーンはいっぱい食べちゃうのッ!
ガブガブガブガブガブ、、、あ~美味しい! がぶ!がぶ!
ふと目を上げると、
みんなが私の食べるのを見て呆れています。
あれれ? ヤバ
お兄ちゃんが言います。
美沙! お前! 明日、一緒に合気道の大会を見に来ないか?
こんな時じゃないと、中々お前と一緒に過ごす時間ないもんな。
見に来いよ!
えっ! 合気道の大会?
一瞬、箸が止まりました。
でも~ 私が居たら邪魔に、、、、、
そ~言って、私は紀子さんの方を見ました。
紀子さんが言いました。
ぜひ一緒に行きましょうよ!
合気道をやってる女子も多いんですよ。
男子より多いんです。
それに健一さんと私が組んで模範演技もするんです。
だから、ぜひ見に来てください。
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!
2人が模範演技ーーーーーーーーーーーーーーーーーい!
明日朝、お兄ちゃんの車で一緒に行こう!
ど~だ! 美沙!
・・・
私は今日の事を思い出しました。
ピーナツバターを投げ飛ばした技って、
あれは合気道?
今井先生がやってた技と同じような気がした。
ひょっとして今井先生にも会えるかもしれないわ。
もう1度、先生の技を見てみたい。
・・・
お兄ちゃんに言いました。
お兄ちゃん! 私の友達も一緒に行っていい?
ああ、、、勿論さ。 彼氏なんだな!
トホホッ、
彼氏か~ いねえ~、いねんだよ~ そんなの!(心で言いました)
男っ気なしの純粋高2の処女! だってば!
箸を持った手を横に振って、
ないない、、、彼氏なんて、いない、、、、女の子よ、親友なの!
そ~か、勿論、OKさ! よし決まりだ!
美香ちゃんが、朝早く私の家にやって来ました。
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ! うっそ~
セーラ服姿の美香ちゃんが、赤のリボンでツインテールの髪型です。
美香ちゃん! そのツインテール ど~しちゃったの~?
美香ちゃんの話では、
昨日、でっぷりパンダに家まで送ってもらう途中で
目覚めたんだと言いました。
美香ちゃんは、
自分がガブガブ噛みつきセーラムーンだと言いました。
小5の時の自分がよみがえったのだと言っています。
私の事もはっきりと思い出し、私たちが協力して、
いじめに立ち向かっていた姿を見たと言いました。
あの頃のように輝きたい!
アルバムの2ショット写真の私たちのように輝きたい!
そして、
未来に向けてジャンプしたいと、私にキッパリと言いました。
なんだか今までの美香ちゃんとは違う! そ~思いました。
美香ちゃんは両腕をめくって私に見せました。
えっ! えーーーーーーーーーーーーーえ!
美香ちゃん! これ ど~しちゃったのよ!?
ひっどい!
充血した歯形が、
手首から二の腕の付け根まであります。
真っ白な肌が痛々しい姿に変わり果てています。
全て、でっぷりパンダが噛んだ歯形だそうです。
美香ちゃんは、パンダに噛みつくように頼んだそうです。
死ぬ思いで我慢したそうですが、
その時に、小5の自分を見たそうです。
でっぷりパンダは俺はゾンビじゃないと泣きながら、
美香ちゃんの腕を噛んだそうです。
好きな女にこんなに酷いことをしたくないと言って、
涙を流したそうです。
私と全く同じことが帰る途中で、同じ頃に起きていたのです。
私はお腹を殴られ、美香ちゃんは腕を噛まれた。
体の場所や方法は違っていても、同じです。
私は制服をめくってお腹を見せました。
美香ちゃんが、私の腹部の紫色になっているのを
見て超ビックリしました。
そして私に言いました。
美沙ちゃん! あなた、セーラムーン?
私は、美香ちゃんに、頭を縦に振って、うなずきました。
私も美香ちゃんに昨日の帰りに起こった事を全て話しました。
で、美香ちゃん!
でっぷりパンダはど~なっちゃたの?
う、うん! 病院に行くって言ってた!
は~~~~あ?
顔に爪の引っ掻き傷と、腕と足と、それにお尻も、、、
いっぱい噛みついちゃったの、、、、、私が。。。
大丈夫?って聞いたら、青い顔で笑ってた。
ハンカチをあげたよ。
・・・
小5の時のセーラムーンが今2人復活したのです。
二人は強く抱き合いました。
頭の中に浮かんで来ました。。。。
美香ちゃんがと私が夕日に向かって走っています。
輝いています。
私の横で美香ちゃんが嬉しそうに言っています。。。
私はガブガブ噛みつきセーラムーンなんだよ~、、、、
—————— 大会会場 ———————
うっわ~ すっごい人だ~
多くの男子や女子が体育館の周りで行き来しています。
女子がすっごい多いわ!
外国の人も結構いる。外国の人にも人気があるんだ。
美香ちゃんと私は、目をパチパチさせて、
その雰囲気に圧倒されまくりました。
ここで、
お兄ちゃんと紀子さんが模範演技をするなんて、凄すぎだわ!
お兄ちゃんたちと別れて、
美香ちゃんと私は2階席で見学することになりました。
大会前の来賓の人の挨拶なんか終わって、
いよいよ模範演技の披露です。ドキドキ、、、
お兄ちゃんと、紀子さんが
黒いハカマ姿で四角な場所に出てきました。
美香ちゃんが私の腕を掴んで引き寄せます。
私、ドキドキしてる。。。。美香ちゃんが言います。
・・・ なんでなん? 美香ちゃん!
その言葉って私が言うやつじゃん!
私は2人の動きに気を合わせます。
2人は向き合って距離を確認しています。
お兄ちゃんが紀子さんに手の刀で振りかざします。
紀子さんは、スッと身をかわし流れるように手首をつかんで
お兄ちゃんを投げ飛ばしました。
柔らかで、美しい、優美な自然の流れです。
お兄ちゃんは何度も何度も起き上がって、紀子さんを
色んな方向から攻めていきますが、
柔らかくて流れるような体の捌きで、
お兄ちゃんの体は投げ飛ばされてしまいます。
うあ~ っという感激のこもった歓声が上がります。
自然に拍手が会場に沸き上がります。
・・・
攻撃が変わって、お兄ちゃんが技を披露します。
紀子さんが、手を振りかざしたかと思うと既に
攻撃の線からスッ!と外れ一瞬にして紀子さんの体は
宙を回って投げ飛ばされました。
早い!
完全に相手の先を読んでいる。そう思いました。
お兄ちゃん、、、、、、
私は胸の中に、じ~んと熱いものが込み上げて来ました。
6年前、小5のちっちゃな私に
お兄ちゃんが自分の部屋で私に初めて教えてくれた合気道の先!
頭の中にその時の状景が浮かんで来ます。
———– 体操服姿の私がお兄ちゃんの部屋に居ます。
お兄ちゃんが言いました。
美沙! 軽く目を閉じてごらん!
美沙! 何が見える?
お兄ちゃんの顔が優しく微笑んでいる姿が見えるよ。
じゃあ、そのまま目を閉じて、
お兄ちゃんの姿を追ってみるんだぞ。
……………
今も、お兄ちゃんの姿が見えるか? うん!
美沙!
目を閉じてても、お兄ちゃんの姿が見えただろう。
不思議だろう。何故だかわかるか?
う~ん? ??
人間は目を閉じていても相手が見えたり、目を開けていても
相手が見えないことがあるんだ。
目を閉じて相手を見ることは超能力なんかじゃないんだ。
相手の微かな動きで、その音や空気の流れを耳や肌で感じて、
相手の状態を想像して、あたかも見えている様に感じるんだ。
今、美沙もお兄ちゃんの姿が見えただろう。
これを相手の気を読むって言うんだ。
美沙には、少し言葉が難しいかもしれないな。
合気道と言うのは、
相手の気を読んで相手の動きに合わす護身術なんだ。
合気という、言葉が表す意味の通りなんだよ。
……………
エイ!
こんっ! 痛いーーーーーーーい!
もう一度、エイ!
ゴン! 痛いーーーーーーーーーーーーい!
もう一度、エイ!
ゴーーーン! 痛いーーーーーーーーい!
・・・
ゴン! 痛いーーーーーーーーーーーーい!
こんっ! 痛いーーーーーーーい!
・・・ゴツン 痛い、、、こん! 痛い、、エイ! ゴン! 痛っ!
・・・
お兄ちゃん、目が回るよ! 頭がくらくらしてる。
・・・
わかんない? 痛いよ~ 頭が痛いよ、お兄ちゃん!
何故なの、、、なんでかわせないの?
……………
美沙!
気を読むってことは相手の手を見ることじゃあないんだ!
手だけ見てても気は読めないんだ!
手だけを見るんじゃなくて、相手の動作の全体を見るんだ。
、、、、、、、、、
小5の時、お兄ちゃんと2人で過ごした、あの日あの時の
姿が浮かんできます。
そしてあの頃見た、不思議な夢も思い出します。
お兄ちゃんの大学の部活に連れて行ってもらった夢です。
今井先生の技を見て、
お兄ちゃんが、私の隣で、めちゃめちゃ喜んで体を振って
得意げに、大きな拍手をしています。
見たか! 美沙! 今の! すっごいだろう!
これが合気道なんだ!
お兄ちゃんも、早くあんなすっごい技が出来るようになりたいって
いつも思っているんだ。
———————– あれから6年
お兄ちゃん、すっごい!
胸の中がじ~んとして、目に涙が潤んで来ました。
完全に相手の先を読んでいる。
ここまで来るのに兄ちゃんがどれだけ努力を重ねたんだろう。
きっと並大抵の練習じゃあないわ。。。
紀子さんだってそ~だ、
2人は間違いなく想像をはるかに超える練習と努力で、
ここまで来たんだわ。
そして、合気道を通じて2人の心は硬く結ばれている。
あ~ いいな~ 素敵だな~
合気道は人と人の心を結び、愛情まで生み出すんだ。
焼けちゃうけど、紀子さん! 認めないわけにいかないな~
私も紀子さんのようになりたい。。。。
そして、
お兄ちゃんのような素敵な彼氏と巡り合いたい。。。
……………
会場から大きな拍手が沸き上がります。
私も美香ちゃんも大喜びで拍手しました。
お兄ちゃん!紀子さん!
本当にすっごい! 素敵だわ! すごすぎよ! 感激だわ!
その時、場内にアナウンスがありました。
続きまして、次は
本日の特別模範演技を披露していただきます。
今回のこの技は、かつて1度として披露されたことはありません。
事前の打ち合わせなしの、実戦形式で行われます。
・・・ し~ん
会場に緊迫した空気が流れます。
・・・ し~ん
披露するのは、今井重徳師範です。
7人の大きな体格の男子が、木刀を持って列をなして出て来ます。
その少し後から、小柄の男の人が現れます。
小柄な男の人を中央にして、木刀の男たちが囲み全員が座りました。
あっ! 今井先生だ!
私は思わず小さな声を出てしまいました。
え! 美沙ちゃん、あの先生を知ってるの?
う、、、、、、うん、、、、、まぁ、、、、
知ってるの? 私、知らない!
は~? 美香ちゃんが私の頭を、パッチン! あ痛!
・・・
私はその流れに気を合わせます。
全員がその場で、す~っと立ち上がったかと思うと
木刀の1人が猛烈な勢いで先生に殴りかかっていきます。
ビューン! バシッ!
今井先生は一寸の合間で木刀をかわし
平手で木刀の男子の腹部を打ちました。
木刀の男子が変な恰好で先生の足元に崩れ落ちます。
……………
わあーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ! すっごい!
会場がどよめきます。
残りの木刀男が一斉に木刀を振り、今井先生に襲い掛かります。
打ち合わせの演技ではありません。
直ぐに分かりました。
先生は、大きく飛び上がって1人の相手の肩を踏み台にして
上方から色んな角度で足で反撃し、あっという間に
全員を倒してしまいました。
わあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
嘘だろう、、、
ど~なってんだよ、、、見たか~?
速すぎて、、、
あり得ない、、、
あれが合気道、、、素敵だわ~
速くて見えね~
すっげえ~ すごすぎだ!
あんなの今まで見たことないわ、、、、
あれが、、噂の今井師範!
初めてだ、、、見たことない!
あんなすっごい技!
めちゃめちゃすっごい!
……………
会場が騒然となっていきます。
みんなが信じられない物を目にして戸惑っているのです。
あまりの驚きで、拍手が起こりません。
と、その時です。
何を思ったのか、今井先生が会場の2階に目をやり、
ゆっくりと顔を回します。
そして、やがて私たち方に視線が向いて来て、止まりました。
え! ・・・ こっちを見てるの? なんで?
なに? 今井先生?
どこを見ているの? まさかの、まさかですよね、、、
……………
まさか、私を? でも、なんで?
あれは夢だったんでしょう。。。。
先生が私を知ってる訳ないですよね! 。。。 でも、、、、
先生が私を見つめている! 今井先生!
と、その時です。
ドン!
という大きな衝撃が私のお腹に打ち付けて、
私は両足を広げて後ろに吹き飛ばされました。
痛-----------------い!
美香ちゃんが、
美沙ちゃん! 1人で何やってんの?
スカートからパンツ見えちゃたよ! みっともない!
遊んでないで見なよ!
頭がくるくる回って一瞬、目の焦点が合いません。
なにが起きちゃったの?
私は何がど~なってるのか分からないまま
なんとか起き上がり、今井先生を見ました。
先生が私を見つめたままです。
え! もしかして、
今井先生! 今のは先生が私に送ったの?
そ~なの? きっとそ~なんだ!
じゃあ私も送り返しちゃう!
私は、先生を グッ! と睨んで 心の中で
ウッ! っと気合を入れました。
すると、何と言うことでしょう、、、、、
先生の体が枯葉のように宙に回ってコート場外の
審判席の机の上まで吹き飛んでしまいました。
ドッカン! と大きな音がして、
先生の体は机にバウンドして跳ね返り、
2m先のフロアーに両足で着地して立ちました。
……………
わあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
すっごーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!
…………… なんだ~ あの技!
信じられねーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!
皆の目の前で目を疑うことが起きてしまったのです。
・・・
会場の皆が総立ちになって、一斉に大きな拍手が沸き上がりました。
美香ちゃんが立って嬉しそうに拍手しています。
とても嬉しそうです。大喜びです。
ねえ、ねえ、美沙ちゃん、今の見た! すっごいわ!
私あんなの初めて見たよ! もう感激しちゃった!
私も、
あ~ 合気道やりたーーーーーーーーーーーーーい!
私は、
あ~ お尻が痛た--------------い!
と美香ちゃんに言いました。
いったい何がど~なっちゃの? よくわかんない?
・・・
大会の競技が開始されました。
色んな所で男子や女子が技をやり合っています。
私はそれを、じ~っと眺めていました。
これが合気道!
私は合気道の技をあまり知りません。
だからコートでやってる人たちの技を、じ~っと
眺めていました。。。。。。
な~るほど、色んな技があるんだな~、、、、、
相手の先を読んで、相手の力を利用するんだわ。。。
自分の力なんて、いらない。。気を合わすってこれなんだ。
美香ちゃんも目を丸くして、
黙ったままで一生懸命に見ています。
美香ちゃんは、
時々その場で立って、コートでやってるのを真似して
手足や体を動かしています。
こうかな~? こ~だ、エイ! ヤア!
美香ちゃん! 熱心だね!
うん! すっごい面白いわ!
技って相手が来る前にやるんだ! エイ! ヤア!
え! 美香ちゃん! もう「先」が分かってるの? すっごい!
は~? 先? なんだそれ?
よ~し、じゃあ、美香ちゃん! 私が攻撃よ!
エイ! 私は手の刀で美香ちゃんを叩きました。
スッ!と美香ちゃんが体をかわして私の手首を掴み
回転しました。
痛い~ いたたたたたたた、、、、、、、まいったー!
美香ちゃん! すっごい! 天才じゃん!
ケラケラケラケラケラ、、、、、、、
時間が経つのを忘れて、お昼前まで、2人は競技を見ながら、
その場で真似をしていました。
と、その時です。
お兄ちゃんと、紀子さんが2階の私たちの処へやって来ました。
おい、美沙! 待たせたな。
一緒に行こうか! さあ、美香ちゃん、行こう、、
昼ご飯だ! 弁当はちゃんと用意してあるからな!
デザートのケーキもあるぞ!
え!
ケーキーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイ!
2人は顔を見合わせて、
やったーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
あははは、、、、
やっぱし子供だな~ 美沙も、美香ちゃんも、、、
今井先生に2人を紹介するよ。
ギョッ!
ええええええええ、、、、、、ええええ、、
今井先生に私たちを紹介!
美香ちゃんも私もビックリです。
ドキ、、、! ドキドキ、、、!
怖~~~~~~~~~い! めちゃ緊張!
……………
私たちはそろって
1階の来賓控室と書いている部屋の前にやって来ました。
お兄ちゃんがノックし中に入りました。
先生! 紹介します。
私は、一瞬、ドキッ! としました。
これは僕の妹の美沙です。
それに、こちらは、その親友の美香さんです。
二人とも今高2です。
私たちは頭をペコッ! と下げてあいさつしました。
美香ちゃんが私に小声で言いました。
こそこそ、、、
近づいちゃダメ! 投げられちゃう!
うん!
とても優しい顔をした先生が、私たちに向かって微笑みました。
今井です。
よく来てくれたね。さあ、座ってください。
美香ちゃんも、私もすっごい緊張しています。
私、緊張しすぎちゃって体がガチガチだわ。(美香ちゃん)
ひょっとして、こんなすっごい先生と一緒に弁当を食べるの?
弁当が喉を通らないかも!
でもケーキは、、どんなケーキかな~?
生クリームと苺パウダーを絡めたやつだったらいいのにな~、、、
でも、そんな勝手な注文きくわけないか~
……………
先生と私は初対面なんだわ、そ~よ、あれは夢の中だもん。(私)
先生が私の事知ってるはずない。
でも不思議だわ。私が一方的に先生を知ってるなんて?
やっぱし、緊張するな~、、、
それに会場でのこと、あれって何だったんだろう?
弁当が喉を通らないかも!
でもケーキは、、どんなケーキかな~?
クリームスフレチーズケーキだったらいいのにな~、、、
でも、そんなのあるわけないか~ 都合よすぎるもんね~
、、、
先生が私たちに言います。
さあ、じゃあみんなで一緒に弁当を食べよう。。。
それとね、
私は食後にいつもケーキを食べるんだよ。
それも2つね。
1つは、生クリームと苺パウダーを絡めた苺ケーキ
もう1つは、クリームスフレチーズケーキなんだよ。
もしよかったら一緒に食べようじゃないか。ど~だね?
はい、はい、はい、勿論、絶対に、はい、食べます。食べちゃいます。
そ~か、、、それは良かった! うまいんだ~!
もう、めちゃめちゃうまい!
私はね、このケーキに目がないんだよ。
紀子さんが言いました。
先生! ご用意していますよ! 楽しみですね!
そ~か~ いや~ いつも悪いね! ありがたい。。
先生が子供のような笑顔で言います。
いや~ 私はね、
ケーキを食べてる時が一番幸せを感じるんだ!
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ! うっそ~
合気道の達人はケーキが大好きか~
ケーキを食べてる時が一番幸せ! きゃは~ おもしろ~い!
……………
ケラケラケラケラケラ、、、、、、一気に緊張がほぐれました。
パクパク、、、パクパク、、、パクパクパク、、、お弁当が美味しい~
弁当が余っているとのことで、美香ちゃんと私は2個づつ食べました。
美沙君! このエビ、食べるかね? ハイ! いただきま~す。
美香君! この唐揚げ上手いぞ! ほれ! 食べなさい! やったー
兄が見かねて、
おい! おい! 美沙も美香ちゃんも、少しは遠慮とか、、、、、
いいじゃないか! 健一君! 若い子は食欲旺盛でいいんだよ!
遠慮なんていらないよ!
はあ、、、、済みません、、、、ど~も、、(兄)
紀子さんが、
先生はね! 若い女の子には特別に優しいんですよ。クスクス!
先生が言います。
よ~し!
じゃあ、ケーキを食べようか~あ、、、、、!
やった~ 大賛成ーーーーーーーーーーーーい!
先生を少しでも身近に感じたかったで、
美香ちゃんと私は場所を移動して、今井先生を挟んで座り
ケーキを食べました。
パクパク、、、パクパク、、、パクパクパク、、、
今井先生が言います。
な~ うまいだろう~ 人生でこんなに幸せな時ってないよ!
今日は特にうまい! 今までで一番だ! 君たちに囲まれてね!
うまいなーーーーーーーーーーーーーーーーーあ! パクパクパク!
今井先生は本当に美味しそうにケーキを食べました。
あっ! 先生! ほっぺにクリームが、、、そ~言って私は
人差し指で先生のほっぺのクリームを、ちょい!と取って
ハンカチで指を拭こうとしました。
すると先生が、
あ~ 待った~あ! もったいない、、、そ~言って
私の指のクリームを指ごと ぺろりと舐めちゃいました。
ケラケラケラケラ、、、、、私は噴き出して笑ってしまいました。
すると、美香ちゃんも、じゃあ、私も、と言って、
先生の鼻の先のクリームを人差し指で、ちょい!
また先生が、美香ちゃんの指をぺろりと舐めました。
ケラケラケラケラケラケラ、、、、、みんなで大笑いです。
模範演技で見た今井師範が、
こんなにも朗らかで明るくて柔らかい人柄だなんて
美香ちゃんも私も、めちゃめちゃ予想外で
強烈に引き付けられました。
側にいるだけで温かい。
みんなを幸せな気持ちにしてくれるのです。
この滲みだす優しさはいったい何だろう?
この人柄の中に合気道の精神が宿っているのかもしれない!
これが、皆に尊敬される噂の、今井重徳師範
そして、これが、合気道!
美香ちゃんが、スプーンで先生の口にケーキを運んでいます。
あれだけ緊張して警戒していた美香ちゃんが
こんなにも心を開いて、自分から先生に寄り添っている。
美香ちゃんのケーキを大きなお口を開けて、
先生がパクリ!と口で食べます。
私も同じように運びます、、、、、
うまーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!
自然に私たちは先生の両側にぴったりとくっ付いて先生の腕に
しっかりと腕を絡めて放しませんでした。
お兄ちゃんと紀子さんが書類を見ながら何か話しています。
健一君! 紀子君! なにか問題でもあるのかね?
あ、はい!
進行人員が2名不足との連絡がありまして、それで少し打ち合わせを
していました。
2名か~ 急にど~したんだね?
はあ、はっきりした理由は分かりませんが、係が急用と言うことで
午後から欠席しました。
そ~か、、仕方ないな!
みんなで掛け持ちで埋め合わせ仕事でやるしかないだろう!
はい!
私と美香ちゃんは顔を見合わせうなずきました。
私が言います。
あの~ お兄ちゃん! そのお仕事って私たちにも出来そう?
あーーーーーーーーーーあ! お前たちが居たんだ!
ちょうど2名、美沙と美香ちゃん!
出来る! 出来るよ! 絶対できる!
1人は審判席で審判の先生方と一緒に座って点数を集計する係だ!
美香ちゃん! やってくれるか? はい! 喜んで!
やった~ 技が目の前で見えちゃう、嬉しい~
もう1人は今井先生の付き人だ!
先生のそばに居て、先生の言う用事を何でもするんだ!
美沙! お前! やってくれるか? うん! いいよ、お兄ちゃん!
よ~し 決まりだ! 助かったよ、直ぐに会場の方へ連絡する!
・・・
よし、じゃあ、支度もあるし、そろそろ行こうか。
美香ちゃんは
じゃあね~ また後で、、、そ~言って、
嬉しそうにツインテールを握って、
兄と紀子さんと一緒に部屋を出ていきました。
じゃあ、私たちもそろそろ行こうか。
はい!
私は今井先生の後について歩きました。
私は今井先生の付き人です。
付き人って何なんだろう?
くっ付いてるから、付き人なんだ!
ぴったりと離れずに歩きました。
すれ違う多くの人たち全てが、先生に深々と一礼していきます。
走って先を急いでいる人も、立ち止まって礼儀正しく礼をします。
いかに先生が多くの人に尊敬されているのかが分かります。
誰もが認める合気道の達人、今井重徳師範
何処へいくんだろう? 会場から離れていく、、、、
やがて小さい体育館のような建物の前に到着し横開きの
引き戸を開けて中に入っていきます。
後の扉が閉められます。
床は木張りのフロアーです。
何かの武道がされている場所のようです。
そんな微かな匂いがします。
ですが、室内には誰も居ません。
とても静かな空気が流れています。
え~ 、、、、 何だか、変な感じだな~
先生はそのまま部屋の中央へ歩いて行きます。
私は靴を脱いで入口付近で立ち止まってしまいました。
私は先生の付き人だわ!
先生から離れてはいけないのかな~?
でも、、、なんだか、、、、変だな~?
先生が部屋の中央で足を止め背中を向けたまま、
じ~っと黙って立っています。
・・・ ?
私は先生の背中を見つめました。
穏やかで優しい温かい気が伝わってきます。
その時、先生が背中越しに言いました。
セーラムーン! やっと会えて嬉しいよ!
・・・
・・・ ?
・・・ セーラムーン?
・・・ やっと会えてうれしい?
・・・ ????????
ど~言うことなの?
私を知っているってこと?
私がセーラムーンだと知ってるの?
以前に会った?
あれは夢の中での出来事じゃないの?
なんで、なんで? ど~なってるの? わかんない?
……………
でも私は先生のことを以前から知ってた。
大切なことを教えてもらった。
でも、それって全て私が見た夢の中です。
先生は言いました。
6年前、君は小5で健一君と大学の部活にやってきた
そして私は君の「先」に触れた。
大きな衝撃だっやよ!
合気道の技とは思えなかったが、見事に先を読んでいた。
…………… 私は思いました。
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!
6年前に、先生と私が、、、、、、、、会った~?
それって夢の中じゃあないの?
言ってることが分かんない?
でも私は先生を間違いなく知っている。
そして先生も私を知っている。
じゃあ、実際に会ったってことなの?
ど~ 理解したらいいの?
……………
私はあれから今まで、ず~っと修行を続け、
君の先に近づこうと必死で頑張ってきたんだよ。
今日、大会前に披露した模範演技は君が小5の時に私の前で
見せてくれた技を真似たものだ!
やっと、
あの時の君の技に到達することが出来たんだよ!
そして、
その修行の過程である大きなことに気付いたんだ。
え! 大きなこと?
それは、なんですか? 教えてください!
・・・
それは、、、
・・・
波動だ!
・・・ ?
波動? 何ですか? 言われていることがよく分かりません。
今日、模範演技の時に、私が君に送ったものだよ!
え! あの時、先生の視線で私は後ろに飛ばされました。
そ~だよ、それが、波動だ! 波動の術だ!
波動の術? それは何ですか?
先生が言います。
合気道の昔の文献にそれを使う者がいたと記されている。
だがそれを、
誰も見た者は居ないし、現代科学では証明できないために、
信じる者は誰1人として居ないんだよ。
迷信だと思われている。
だが、私は君に会って直感したんだよ。
その存在の真実を!
合気道の究極の極意をね!
何も手を下さずして相手を制する技! 波動の術!
存在するかもしれないと思ったんだ!
君の動きには重力を無視したものがある。
私はあれから、悩み続け、その原理を追求し続け、修行に励み
時には大自然の中で1人で修行を積んで来た。
そして、やっと見つけたんだよ。
この空間にあるエネルギーの存在をね。
我々が気付いていないだけで、この空間には
大きなエネルギーが常に存在しているんだ。
目に見えないから、だれも意識なんてしないし、
その存在に気が付かない。
分かり易く言えば重力もその1つだ。
あの~ 先生! 私には難し過ぎてよく分かりません。
今言われていることと合気道と、
どんな関係があるのでしょうか、、、、、?
そうだね! 難しいかもしれないね!
つまり、先を読むことに大きく関係しているんだ。
先を読むってことは、
相手の時間と自分の時間の流れる速さが
変わってくると言うことなんだよ。
だから先が読めれば、一瞬の事でも、相手の動きが
スローモーションのように感じられる。
相手はその逆だ! 見えない!
君も勿論、経験している通りだ!
先を読むとは、
時の流れを読み、同時に時差を起こさせていることになる。
・・・
ここまでは分かるかい?
は~ 、、、 なんとなくですが、
分かるような、分からないような、、、?
でも確かに、
相手の動きがスローモーションの様に見えます。
いつも、なんでかな~って思っていました。
そ~か それでいい、、、
ただ、ここからが、大切なことなんだよ!
・・・ え?
同じ空間で時差が出来るということは
その接点には巨大な力が発生する。
もし、
その力を自分の体に取り込んで、
自由にコントロール出来ればど~なる?
信じられない現象が生まれるんだよ!
つまり、そのエネルギーで重力を無視できる。
そして君は小5の時に、それを既にやっていたんだ。
私は6年前にそれに触れたんだよ。
重力を無視するだけじゃあない!
体に取り込んだ巨大なエネルギーを放出することさえ出来る。
それが、波動だよ!
相手をその波動で容易に制圧出来るってことになるんだ。
技を使わなくてもだ。
今日、私は、
模範演技の場で会場に君の気を感じ君の存在に気付いた。
そして、これまで私が会得した波動を君に送った。
私の波動術はあれが精一杯だ!
だが君は、それを何倍もの力で跳ね返してきた。
驚いたよ!
おそらく私の何十倍、いやもっとかもしれない?
波動とは、
相手の気と先を読むことから生じる時差のエネルギーを
体に取り込み放出する事だ!
何故、君がそんな能力を持ち合わせているのか
私には分かるはずもない。
君でさえ、まだ気が付いていないかもしれないが、
君の腹部から何かのエネルギーが出ているように思える。
あれから、6年か~、、、君も大きく成長した。
あの時の小5の君が、こんなに大人になったなんて
信じられないよ。
体だけじゃない! 気と先を読む能力も格段に
成長している。
更に今後進化を遂げていくに違いないと確信しているよ。
今日、輝くような姿で再び私の前に姿を表してくれたこと
本当に嬉しいよ!
本当に会えてよかった!
ありがとう! セーラムーン
きっと多くの人が君を待っているはずだよ!
君の親友も天才的に有能だよ! 一目見て分かった。
2人で協力して、より多くの人に温もりを与えるんだ。
先を読むことは人生そのものなんだよ!
ケーキだよ! ケーキ! あの味を忘れない様にするんだ!
いいね!
あっ! 先生! あのケーキ、
あれは、、あれは、つまり
先生は、私たちの先を読んで、気を合わせたってことですか、、、?
アッハハハハハッ、、、、、
健一君と紀子君にね、この地で大会を開いてもらうように
お願いしたんだよ。
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!
それって、
そ~すれば、こんなふうに私と先生が会うって事の、、、先を?
そして私が先生から「波動の術」を教わるって事の、、、先を?
・・・
私は先生に聞きました。
今井先生!
今、私たちは夢の中なんですか? これって単なる夢?
それが、ど~したっていうんだね?
君の言うようにこれが仮に夢だとしても、
頭に残っていれば、夢でも現実でも関係ないじゃないか。
大切なことは君自身がど~思うかってことだよ!
現実の物でも、いずれは目の前から消えていく。
頭に残っているものは、夢でも現実でも同じものなんだよ。
波動は君の中にある!
先生が、振り向いて笑顔で私に言いました。
ピンクのリボンのツインテール、
君はあの時も、今と同じツインテールだったよ!
キレイだよ! 君は美しいセーラムーンだ!
先生! 今井先生----------え!
もっと色々話を聞かせてください。待ってくださ~い。
美沙ーーーーーーーーーあ! ご飯ですよーーーーお!
私は、ふと、我に返りました。
一瞬目まいがしてクラクラっと体が揺れました。
え? 私ど~したの?
クッシュン! あ~ 冷えちゃう!
鏡に裸の私が写っています。お腹をポンポン!
あ~ お腹空いちゃった~
美沙ーーあ! ご飯ですよーーお!
何してるの~ 早く降りていらっしゃ~い!
私は、
はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!
と返事をして、
慌てていつもの普段着を着て脱ぎ捨てた
制服をまとめて掴んで階段を飛ぶように降りていきました。
途中でお風呂場の前の洗濯機の中に服をまとめて、 ポイ!
お父さんが新聞を広げています。
あ~ 美味しそうな匂い、、、、、今日は中華だ!
台所に入って行きました。
お父さん、おかえりなさ~い!
新聞を見ながら、ああ、、、美沙! お前もお帰り!
食卓に大きなお皿に中華風の野菜炒めが盛ってあります。
母がご飯をついで食卓に並べています。
うっわ~ 美味しそう!
父が新聞を折りたたんで私を見つめています。
美沙! お前! 髪形変えたのか、、、、?
お母さんが、ご飯をついで私の前に置いて、
あらっ! 美沙! ツインテールね。懐かしいわ~
小学校の時にしていた髪形ねえ。。。可愛わよ。
あれっ! お茶碗が 3つ
ねえ、お父さん!
お兄ちゃんが今日帰って来るんじゃあないの?
健一が帰ってくる~?
そ~よ お兄ちゃんが彼女を連れて帰って来るって
お父さんが言ってたんじゃない?
はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
健一が彼女を連れて帰ってくるーーーーーーーーーーう!
いつ! いつなんだ?
いつって、今日これから帰るって! お父さんが!
・・・
お父さんとお母さんが互いに顔を見合わせています。
お父さんがお母さんに目で合図します。
お母さんが直ぐに体温計を持ってきて
無理やり私の口の中に押し込みました。
ピピ ピピ ピピ 音がして、お母さんが
数値を見ています。
お父さんが心配そうに、お母さんの顔を見つめます。
ど~なんだ? お母さん?
大丈夫! 熱は無いわ!
お父さんは安心したように息を吐いて、美沙!
気分は悪くないか? どこか具合いが悪いとか
何でも言ってみろ! なっ! ど~なんだ?
私は言いました。
お腹が空いたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
いっただきま~す。。。
ガブガブガブガブ、、、、、ガブガブ、、、、
お母さん! お代わりーーーーーーーーーーーーい!
夢と幻想の森