(前回ストーリー)森での出来事 転校生(8)教室で(高2の小5)
はい! 野々村さん。
立って質問してください。
お方様はゆっくりとその場に立って、
先生を真っすぐに見て言いました。
そなたは何者か?
え?(先生)
そなたは何者かと聞いておる。
は?(先生)
乱世の世を面白いとは何事じゃ!
しかも、そなたの申す事は真ではないぞ!
勝家殿もわらわも百姓に追い込まれて腹を切ったのではない!
猿は我が兄、信長に仕える身分高き武将ぞ!
憎き猿ではあるが、奴は生まれも育ちも百姓ではない!
偽りを申すと承知せぬぞ!
無礼者!
・・・
それだけ言うと、ス~っと席に着きました。
・・・
し~ん
・・・
・・・
—————————–(前回 ↑ )———————–
え、 今の何、、、、(女子生徒)
こりゃいい!(男子生徒)
・・・
おもしろ~。。。やるじゃん。。。と言うと、
男子の何人かがケラケラと笑い出しました。
それが広がって、色んなところでクスクス、ケラケラと
教室が変な笑いで埋まりました。
それに連れられて、先生も苦笑いをしました。
ですが、
明らかに、
先生とお市様の視線は激しくぶつかり合い
閃光が飛び散りました。
・・・
お、お方様!
ここはど~か我慢してくだされ!
お願いです。
冷や汗を流しながら、小声でお方様を必死でなだめました。
缶コーヒー!
申し訳ない!
つい感情が出てしまった。許せ!
俺は、
お方様にそれ以上喋らないように、目立たないようになだめました。
わかった。そ~であったな、
そなたの申すよう、おとなしくしておる。
それ以降の授業では、
私は、
ムシ子殿ともう一人の美沙の記憶の整理に努めました。
と同時に、日本史の授業での感情の高まりを反省し、
二度とそのようなことにならぬようにしよう思いました。
5時限目の終わりに、山口美香から私に小さな文が届きました。
授業が終わって二人で話がしたいので
食堂前に来て欲しいとの内容でした。
私は缶コーヒーにそのことを話しました。
すると、
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!
山口美香?
・・・ ?
お方様!
それはダメです。
そんなことすると、バレてしまいます。
危険です!
お方様が、お市様だと悟られてしまいます。
絶対に二人だけになるなんていけません。
缶コーヒー!
何故じゃ!
何故に、わらわが お市だと悟られるのがダメなのじゃ?
あの娘は賢い!
わらわが、美沙でないとの正体を既に見抜いておるわ!
朝一番に会った時からな。
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!
お方様! 山口美香って誰なんですか?
缶コーヒー、
わらわの話をよ~く聞くのじゃ。
わらわは、お市であり、そなたの知っているムシ子じゃ。
じゃが、そなたの知らぬ内に、
もう一人の美沙が生まれたようなのじゃ。
え~ もう一人の美沙?(缶コーヒー)
今朝、そなたと別れた後に、
わらわの体に急に生まれてしまったらしい。
今、わらわも困惑している処じゃが、これは真じゃ!
そのもう一人の美沙は、ムシ子殿とは別の世界で
この世に存在しており、
山口美香は幼い時から、そのもう一人の美沙と
心を許し合える親しい友なのじゃ。
時が重なっているようじゃ。
・・・
時が重なっている?(缶コーヒー)
・・・ ?
そ~じゃ!
わらわを含め三人の生きて来た時が重なっているのじゃ、、
・・・
そのもう一人の美沙にはな、幼い頃より親しき友がおって、
それが、山口美香なのじゃ。
その美香が、わらわのことを心配して
二人で話がしたいと申しておるのじゃ。
会わぬわけにはいかぬではないか!
決して危険な相手ではない。
そなたにも近いうちに改めて山口美香を
引き合わせするつもりじゃ。
お方様!
一体、何を申されているのか、俺にはさっぱり分かりません。
もう一人の美沙って誰です?
どんな人間なんです?
何故そんなことが起きるのです?
俺の頭では理解できません。
・・・
缶コーヒー、
わらわの体の中には、
お市、ムシ子殿、もう一人の美沙の3人が居るようなのじゃ。
その訳は わらわに分かるはずはあるまい。
じゃが、実際にいるのじゃ。。。
今、ムシ子殿と、もう一人の美沙の記憶を整理しておる。
まことに厄介な事態じゃ。
・・・
慣れぬうちは、わらわとて区別し難いが
懸命に記憶の整理を進めている処じゃ。
じゃから、ど~か わらわの護衛役として、
これまで通り陰から見守ってくれぬか。
・・・
(缶コーヒーがなんとも言えぬ顔で、わらわを見つめています。)
・・・
勿論です。
俺はお方様を命に代えてお守りする所存です。
ですが、、、お方様~、、、、
何ともふびんな、お方様なんでしょう。。。
別世界に来られただけでなく、
更に別の2人の人格をお持ちになるなんて、、、
この缶コーヒーの心は締め付けられるように痛とうございます。
缶コーヒー、そなた このお市に恋をしたか?
ムシ子殿が嫉妬しているぞ。
え?
・・・
ただ俺は、
お方様が心配で心配で、居ても立ってもいられません。
出来れば、山口美香と二人っ切りになるのは
避けていただきたいと思います。
心配するでない!
缶コーヒー、そなたの思いは、このお市よ~く分かっておる。
わらわは そなた無しでは生きられぬことも分かっておるのじゃ。
じゃが、避けられぬ道もまたあると言うことじゃ。
進まねば道は開けぬ。
分かってくれぬか。
・・・
いずれ、そなたにも、もう一人の美沙とも会わせてつかわす。
今しばし待っておるがよい。
・・・
・・・
ですが、、、、、やはり心配です。
缶コーヒー、
そなたに聞いても良いか。
もし、わらわがムシ子殿なら、ど~すると思う?
・・・
・・・ え? ムシ子なら、、、
・・・
ムシ子なら。。。。
・・・ (あいつなら、、、行くに決まってるか~)
・・・
・・・
そ~ですか、分かりました。
お方様!
しかし、
くれぐれも無謀なお振る舞いだけはお避け下され。
よろしいですか。絶対ですよ。
約束してください。
・・・
わかっておる。
缶コーヒー、そんなに心配そうな顔をするでない。
ムシ子殿が見ておるぞ!
え?
こらー! 缶コーヒー!
あんたね、心配しすぎじゃん!
ノー天気のあなたらしくないわよ!
それとも、あんた、
お市様に気があるんじゃない?
お市様は戦国一の美女だもんね!
仕方ないっか!
ちょっぴり焼けちゃうけどさ、まあいっかぁ~
クスクス!
あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
ムシ子! お前!
居るのか? 出てこいよ! ムシ子!
きゃは、缶コーヒー、
私だよ!
あんたね、頭、悪いから今の状況理解できないかもしれないけどさ。
お市様は今大変なんだからね。
今回の事、行かせてやりなよ!
当たって砕けろってことわざあるでしょう。
足踏みしてちゃダメ! 進むのよ! わかった~
だけどね、
あんたがしっかりと守ってあげなきゃダメだよ!
缶コーヒー、お市様は、あんただけが頼りなんだからね!
いい! わかった! 返事は?
・・・
ああ、、、分かってるさ!
俺だって大変なんだからさ、
でもお市様は絶対に守ってみせる!
お前に言われなくても分かってるさ! ムシ子!
・・・
かたじけない! 缶コーヒー!
今の話は わらわじゃ。
少し会話に慣れて来たようじゃ!
え、えーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!
今の会話は、、お方様~ 。。。。?
そ~じゃ、
じゃが、ムシ子殿とて同じ思いぞ。
心配はいらぬ。
記憶の整理で、わらわの会話術も進んでおるのじゃ。
上手くたち舞うので安心せ~
よいな!
はっ!
—————————————— 放課後です。
(校内の食堂前で山口美香と待ち合わせです。)
・・・
私は記憶にある風景を、実際の目できょろきょろと
見回しながら待ち合わせの場所へ歩いて行きました。
校庭の渡り廊下を進んだ先が食堂になっているはずです。
殺風景な中庭には芝生があって花が咲いています。
あっ、 花?
花か~ 、、、、、、赤いボタンの花、、、奇麗じゃ。
向こうのは何じゃ?
わらわの時代にはない花じゃな。。。。デイジー
あれはデイジー。。。青色のデイジーじゃ。
その向こうの花は紫のサフランか。
知るはずのない花の名が、頭の中に浮かんで来ます。
ムシ子殿は花が好きなんじゃな。
・・・
花を愛するムシ子殿か、、、
いや待てよ、もう一人の美沙も
花が好きじゃ!
・・・ 二人とも花を愛しているのか~
戦乱の無いこのよき時代で、2人は伴に花を愛して
幸せな暮らしを過ごしているのじゃな。
花は、わらわとて、この上のう好きじゃ。
武将どもの合戦の中で、茶の湯と花だけが
わらわの心のより所になっておった。
目に映る花に心惹かれ、茶の湯で体が癒された。。。
一輪挿しの花を愛でてみたいものじゃ。。。
、、、利休の茶が懐かしい。。。
・・・
この庭に咲く花も戦乱の世に咲く花もみな同じに美しい。
じゃが、人の心は時代によって違って咲くというのか。
・・・
と、その時、後ろから声がしました。
美沙ちゃん!
相変わらずなんだね。
お花に見とれちゃって、いつもと同じなんだね。。。
・・・
美沙ちゃん! 覚えてる?
私たちが小5の時の事?
え? 小5の時?
山口美香が、私の顔を覗き込むように見つめます。
何かを探っています。
その鋭い洞察力はただ者ではありません。
私の言葉1つで全てを読み取られそうです。
美沙の記憶を慌てて読み起こしていきます。
・・・
なんと、驚いたことに高2の美沙が小5の美香と出会い、
弱い者いじめに2人で立ち向かって来たのです。
そして、そのことで2人は硬い友情で結ばれているのです。
その辺りの美沙の記憶は、未だまとまっていません。
・・・
私の頭は混乱してしまいました。
美沙は、この時代で時を6年も過去にさかのぼって、
小5の山口美香と出会っているのか。。。
何と言うことじゃ?
そんなことがあり得るのか?
ですが、
今の自分の状況を考えれば納得せずにはいられません。
四百年以上の年月を超え私がこの時代に居るのですから。
・・・
あ~ じゃが一体、ど~対処すればいいんじゃ?
もう一人の美沙の秘密を持ったまま、
わらわはど~する?
この美香でさえ知らぬ、色んな記憶が次々と蘇ってきます。
ど~したらいいんじゃろ。
それを話すわけにはいかない。
頭が混乱していく、、、、、 目まいがする。。。
・・・
一瞬、言葉が出ず困惑した顔になってしまいました。
・・・
・・・
山口美香が無言で遠くを見つめています。
この娘!
わらわの正体を見抜くために呼び出したに違いあるまい!
それは元より、わらわにも分かってたことじゃ、、、
・・・
山口美香は遠くの空を見つめながら、
そして振り向かず、
小さな声で静かに言います。
・・・
美沙はどこ?
・・・
・・・
え? (私)
・・・
・・・
美沙は?
・・・
・・・
・・・ 見破られた。。。
・・・
・・・
お願い、教えて、
・・・
・・・
・・・
美沙はどこ?
・・・
・・・ まずい、、
・・・ もう一人の美沙の記憶を、必死に呼び出します。
・・・ 小5の時代に美沙が6年過去にさかのぼってた記憶。。。
・・・ あ~ これじゃ、
み~ちゃん、
あなた、何言ってんの?
私は花ちゃんじゃん。
小5の時の花ちゃん。
美香ちゃんは、ガブガブ噛みつきセーラムーン
いじめに向かって2人で頑張ったじゃん!
なつかしいね~ 角竜との対決!
夕日に向かって走るぞ~って! ね!
・・・
・・・ あ~ 間に合った。。。
・・・
山口美香はゆっくりと振り向き、
じ~っと私を見つめています。
・・・ まだ、疑っているのか?
わらわを見つめる、その澄み切った瞳から
涙が滲んで来ます、、、
・・・
その輝く瞳から涙が揺れて筋となって、こぼれていきます。
・・・
そして急に、ドサッ! と、
私の体に両腕で抱きついて来ました。
・・・
美沙ちゃ~~~~~ん
、、、、良かった~
・・・
も~ なによ、抱きついちゃったりして、
ち、ちょっと、み、美香ちゃん!
止めなよ~
こらー 美香ちゃん!
私はそんな趣味ないんだからね!
皆が見てるよ、放せーーーーーえ!
・・・
こら~ セーラムーン!
やめろ~ってば!
・・・
その言葉に、山口美香の両腕に増々力が入ります。
あ~ 美沙ちゃんの匂いがする。クンクン
美沙ちゃんに間違いない。。。クンクン
山口美香が、わらわの服に顔を埋め
大きく息を吸い込んでいます。
こら~ 変態~ 放せーーーーーえ!
止めろ~ もう~ ち、ちょっと
美香ちゃん、
いい加減にしろーーーーお!
イカレ変態女! ぶっ飛ばすぞ!
・・・
その言葉に尚喜んで、
山口美香は、やっと腕を放しました。
そして、嬉しそうな顔をして言いました。
あ~ よかった!
相変わらず口がめちゃ悪いね! 美沙ちゃん
でも美沙ちゃんが、美沙ちゃんで本当に良かった~
あ~ 嬉しい。。。
・・・
は~? 美香ちゃん、
あんた何言ってんの?
バッカじゃない! どこで頭打ったのよ?
狂っちゃったの?
全く手のかかる奴だね~え 。。。もう~
・・・
処で、美香ちゃん、
話って何なの?
言ってよ
う、うん、もういい。
話は特にないの、もう済んだから。
・・・
はあ~ 美香ちゃん、
話ないのに手紙で呼び出しちゃったの~?
てめーーーーえ! やっぱ、ぶっ殺すーーーー!
きゃ~
美香ちゃんは、嬉しそうに渡り廊下を走って行きました。
片手で涙をぬぐっているのがわかりました。
そんな美香ちゃんを私は追いかけて走りました。
私には美香ちゃんの気持ちが分かっていました。
・・・
こら~ 美香~ ぶん殴る~
・・・
美香ちゃん、
申し訳ない! 今はこれで良いのじゃ!
そなたの心を傷付けたくはない!
許せ!
・・・
美沙には、こんなに良い友が居るのじゃな。
美しく純粋で賢い友じゃ。
山口美香は、わらわの中のもう一人の美沙を心より慕い、
美沙も絶対的に美香を信頼している。
それに、
もう一人の美沙の記憶では、
美沙は想像もつかない程の勇敢な戦士の様じゃ。
その勇敢さと正義感によって、
多くの者が美沙を愛し集まっている。
・・・
美香ちゃんと私は、校舎の裏の運動場の見える階段の処に
並んで座りました。
ここはいつか、
美香と美沙が杉浦先生と話をした場所です。
杉浦先生が二人に何かを問いかけている光景が浮かんで来ます。
セーラムーン。。。美香と美沙が困惑しています。
杉浦先生の顔が失望していきます。。。
色んな記憶が、どんどんと沸き上がってきます。
美香ちゃんが言います。
美沙ちゃん。。。
・・・
あなた、、、、?
・・・
・・・
な~に
・・・
、、やっぱし、なんでもな~い。
・・・
・・・
は~?
なによ? 言わないと、ぶん殴る!
・・・
・・・
あのね、美沙ちゃん!
・・・
だからなに?
・・・
・・・
隠さなくてもいいのよ
・・・
は~?
・・・
・・・
あなた、好きな人いる?
・・・
は~ぁ、、、、?
・・・
この娘、一体、何を申してるのじゃ?
・・・
・・・ そ~か、、、やはり
今朝の事じゃな、、、
確かに、わらわは、缶コーヒーの存在を必死で確認したかった。
缶コーヒーを教室に見て、わらわは涙した。
あの時のわらわは、完全にムシ子殿であった。
あれはムシ子殿の思いが、そ~させたのに違いない。
ムシ子殿は缶コーヒーを慕っている。
あれは正しく、恋の成せる術じゃ。
この洞察力の鋭い娘は、それを読み取っているのだろう。
美沙ちゃん、
美沙ちゃんの隣の席にいる転校生。。。
昨日転校して来ちゃった、、、
あの男子ど~思う?
え?
・・・ やはり そこか、、、
ど~思うって、、、それど~言う意味?
・・・
・・・ 鋭い娘じゃ、何かを感じている。。。
・・・
授業中にね、あの転校生はいつも美沙ちゃんのことばっか
気付かってる。。。。
てか、必死で美沙ちゃんをね、、、、何だろう、、、
守るって言うか、、、いたわるっているか、、、
大切に思うって言うか。。。。そんな感じかな~
美沙ちゃんを包み込もうとしているわ。
・・・
は~ 私を包み込む~
なんだそれ?
私は物なんかじゃないよ、美香ちゃん!
・・・
それにさ、
美沙ちゃんだって そ~、
だって、、、
なんだか変だよ、、、
・・・
美沙ちゃん、
いいんだよ、隠さなくって、、、
一目ぼれしちゃったんでしょう?
・・・
は~?
一目ぼれーーーーーーーーーーーーーーーえ!
・・・
きゃはーーーーーーーーーーーーーあ!
ナイナイ!
・・・
ムシ子殿は確かに恋している。
だから見抜かれたのか。
じゃが、
もう一人の美沙と缶コーヒーは、そんなんじゃない。
もう一人の美沙は、缶コーヒーに会ってもいないのじゃから、
一目ぼれなんて実際にあり得ない。無実じゃ。
・・・
じゃが、
それが、今の わらわの心の中での区別しがたい処なのじゃ。
一体、ど~対処すればいいんじゃ?
美香ちゃんが、私を見つめています。
・・・
美香ちゃん、
はっきり言っておくね。
私はね、美香ちゃんと同じように男子からは持てないし
彼氏とかには全然、縁がないの。
美香ちゃんと同じ、もうあきらめちゃってるし、
一目ぼれなんて、あり得ないわ。
・・・
あーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
言ってくれるじゃん、美沙ちゃん、
ど~せ私は、彼氏には縁がないもんね~
でも、
でも、なに?
あの転校生、美沙ちゃんに気があるよ、きっと!
は~ 私に~?
なんで~?
私の席は廊下側の前の方で、美沙ちゃんとは
かなり離れてるけどね、ず~っと見てたんだ~。。。
ず~っと見てたって?
ど~やって?
鏡に映して、先生に見つからないように1日中見てた。
ドキ!
こやつ、なんという娘じゃ!
恐ろしい奴!
美沙ちゃんは、無視してたけど、
あいつ、一生懸命に美沙ちゃんに話しかけてた。
何を話してたの? あの転校生。
何って、、、、、
転校して来たばっかしだから、
学校の事とかさ、先生の事とかさ、自分の事も言ってたかな~
自己紹介とかさ、好きな食べ物とかさ、趣味とかさ、、
一方的に話掛かられちゃっただけ。
私のタイプじゃないし、無視しちゃってたけどさ、
うざいから頭に来ちゃってさ、
血が上って、先生に変なこと言っちゃった!
・・・
そっか~ それでなんだね。
日本史の授業の時って、美沙ちゃん、めちゃ飛んじゃってたもんね。
きゃは、ケラケラケラ、、、、
・・・
そっか~、
やっぱ私たち2人は、彼氏には縁がないのか~
私たちって平凡過ぎる芋娘だもんね!
持てるはずもないし、目立たないし、、、
でも良かった~。
・・・
そ~言うと、
美香ちゃんは嬉しそうな顔になって、元気に立ち上がりました。
・・・
さ~ 美沙ちゃん、
空手部の文化祭での披露に向けて、練習を頑張らなくっちゃね。
・・・
・・・ ?
・・・
空手?
空手とはなんじゃ?
文化祭か、、、
練習とは?
・・・ え~っと、、、、、
そ~じゃ、美沙は、この時代で武術をやっている。
空手とは武術のことか。。。
しかも美沙はその達人? いや待てよ!
美沙も美香も空手部に入って間がないようじゃ。
2人の特技は本来は空手じゃない?
・・・
じゃあ、なんじゃ?
・・・
・・・
・・・ え~っと、、、、、
・・・
・・・ 思い出すのじゃ、、、、え~っと、、、、、?
・・・
合気道
・・・
合気道?
合気道なるものは、、なんじゃ?
もう一人の美沙は、合気道をやるのか?
そして、この娘も合気道をたしなむのか。
美沙、教えてくれ!
そなたの記憶の中にある、その合気道とは何か? 早う!
・・・
必死で、もう一人の美沙の記憶を辿ります。
ふ~む、、、、
少しづつ鮮明になりつつあるぞ!
合気道について、そして空手についての記憶が蘇ってきます。。。
おそらくは、裏で、
美沙が必死で、わらわに記憶を思い出させてくれてるのじゃろうな!
かたじけない!
・・・
じゃが、記憶は単なる記憶に過ぎない。
そんな術を、わらわが成せるとは思えぬわ。
しかも美沙は信じられぬ術を使う達人のようじゃ。
この時代に、それほどの戦士が居るとは信じがたいが
もう一人の美沙の記憶の中には存在しているようじゃ。
それが真なら、
まったく恐ろしい女じゃ。野々村美沙
・・・
「波動の術」?
・・・
じゃが、それは、いかなる術ぞ?
記憶の中の、その術は真に存在するのか?
信じられぬ! そんな術がこの世にあるとは思えぬ!
あり得ぬ!
・・・
・・・
美沙ちゃん、少し早いけど、空手の練習に行くよ!
う、うん!
二人は武道場に向かって歩いて行きました。
途中に大きな建物が有って、多くの男女の気合が聞こえてきます。
低い窓から、身をかがめ、ちらっと覗くと、
変な鎧を付けて棒を持って殴り合いをしています。
(あれはなんじゃ?)
美香ちゃんが言います。
剣道部は女子も多くて、みんな頑張ってるな~
空手部とは違って、県大会でも毎年何人かが優勝しているし、
人気もあるしな~
空手部の女子は、美沙ちゃんと私の2人だけだもんね!
・・・
美香ちゃん、
ちょっと覗いてみない?
え~ 剣道部に?
(不思議そうに、わらわを見つめます。)
・・・
うん!
・・・
わらわには、大いに興味がありました。
一瞬、心の中で思いました。
剣道?
剣道とは何じゃ?
剣術のことか?
この時代でも剣術を修練しているのか、一目見てみたい。
流派はなんじゃろ~?
真剣なのか木刀なのか?
わらわは、幼い頃より男に交じって、北斗一刀流を修練してきた。
じゃから剣術と聞けば無性に心惹かれる。
この時代の剣術を、ぜひ見てみたい。
出来れば、立ち合いもしてみたいものじゃ。
・・・
美香ちゃんの手を引っ張って、広い道場へ入って行きました。
記憶ではここは体育館という処です。
靴置き場のある入口で立って見学しました。
・・・
わらわはしばし、剣道の練習を見つめていました。
あれはなんじゃ? 何をしているのじゃろう?
戯れているのか?
それとも、あれがまさか、この時代の剣術と申すのか?
外れている!
・・・
美香ちゃんが言います。
美沙ちゃん、剣道にも興味あるの?
う、うん。
私ね、幼い頃から剣術をやってたの。
4歳の時から真剣で修行してた。
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ、嘘!
美香ちゃんは、心底、驚いた様子でした。
美沙ちゃん!
私、そんなの初めて聞いちゃったけど、もち嘘でしょう!
冗談きついよ! 行こう!
・・・
待って! 美香ちゃん、
私ね、剣術を試しちゃう。
やってみたいのよ!
だから、少しここで待ってて!
もう~、美沙ちゃんたら、なんにでも挑戦したがる悪い癖が
治らないんだから。
美沙ちゃんなら、棒を使わなくても相手を倒せちゃうでしょう。。。
相手には美沙ちゃんの姿が見えないんだから。。。
剣道で倒さなくってもいいじゃん。。。
でもさ、空を飛んだり、あれは使っちゃだめだよ!
特にあれだけは絶対にダメ。。。いい!
・・・ ?
美香ちゃんが、
一体何を言っているのか理解できませんでした。
相手に姿が見えない? 空を飛ぶ? あれを?
わからん?
・・・
美香ちゃん、とにかく、行ってくるね。
やめた方が良いと思うけどな~
・・・
でもさ、
時間もあるし、まあいっか~
わらわは指導者らしき先生の所に行き、
丁寧に挨拶をしました。
・・・
あの~ 突然にすみません、
私は2年C組の野々村美沙と申します。
剣術のお相手をさせてください。
は~?
・・・ ?
・・・
君ね~ 何を言っているのかね?
私には君が言ってることが、よく分からんのだが。
ですから、
お手合わせをさせて下さいませんか。
手合わせ?
君が剣道をやるというのかね?
はい、この道場の練習ぶりに興味が沸いてきましたので、
ぜひとも、私とお手合わせをさせて下さい。
・・・ ?
君は剣道をやっているのかね?
・・・
私は、剣術をやります。
・・・ ?
・・・
冗談を言うのは止めてくれ!
今は大事な練習時間なんだ。
ここにいる剣道部員以外は部外者だ!
部外者に怪我などさせられんだろう。
先生!
私は怪我などしません。
何故なら、
ここで練習している全員が剣の修行から外れています。
これは剣術の戯れです。
そんな剣で、私が怪我をする訳がありません。
は~~~~~あ、、、
なんだと~!
君は、この剣道部を侮辱するつもりかね!
実にけしからん奴だ!
我が剣道部は県大会で毎年のように優勝しているんだぞ!
戯れとは何だね!
言葉に気を付けたまえ!
それに、
私は君に怪我をされたら困るから言ってるんだよ。
そんなことがあると、県大会に出場出来なくなるからね。
先生!
戯れの剣術など、私の敵ではありません。
そんなもの、いくらやっても意味がありません。
若者たちの剣を磨くために、私が手合わせをして差し上げます。
ここに居る剣士たちのためにです。
どこからか、声が聞こえてきます。
おい、おい、あれ
あれを見てみろ、、、おい、、、あそこ
野々村美沙じゃんか。。。。
ほんとだ、 野々村だ! 野々村美沙だ!
なんで、ここに居るんだ。。。なんで~ 、、、
まさか剣道部に入部するのか~ え~ そ~なのか?
だといいがな~ 下見してんのかな~?
監督と何を話してんだ。。。。いつ見ても可愛い~
キラキラ輝いて見えるな~ 見ているだけで興奮する。ば~っか!
俺、あのタイプめちゃめちゃ好きなんだ!
お前だけじゃね~の バカ!
俺、バラしちゃうけどさ、彼女に入れたんだよ! 彼女に1票!
俺もさ、奇麗だよな~ 顔もいいし、スタイルいいし、、、、
清潔感に満ち溢れててさ、
あのウエスト見てみろ! 細~ 胸もいい、、
彼女の体、ど~なってるん
おい、見ろ!
あそこ、入口の処!
あれって、ひょっとして山口美香!
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!
山口美香だってーーーーーえ!
わが校の可愛いコンテストNo.1が2人揃ってる! 嘘だろう!
あの2人ダントツで票を稼いでるもんな~
空手部の奴らに2人共取られて、めちゃ悔しいけどさ!
なんであの2人が空手部なんよ? わけわからん。
でもさ、空手部ってうらやましいよな~
毎日あの2人と一緒に練習できるなんてさ。ほんとだ!
・・・
ここに居るってことは、空手部止めて剣道部に来るつもりなのか?
そ~なのか~ だといいがな~
・・・
なんだか監督と野々村美沙が、真剣な顔をしているぞ!
真剣な顔の野々村って俺的には、たまらんわ!
野々村と剣道を一緒に出来たら俺、死ぬ!
彼女になら、めちゃめちゃやられてもいいな~
俺的には、彼女をめちゃめちゃにしてやりて~よ。。。
あ~ なんで、こんなにも引き付けられるのかな~
彼女ってさ、特有の魅力があるな。。。全てがいい
・・・
女子の剣道部員が男子たちの様子を、冷ややかな目で見ています。
自然に練習が中断されていきます。
気合も打ち付ける竹刀の音も止まりました。
皆が頭の鎧を脱いで顔を見せ始めました。
何事かといった顔をしています。
監督がその様子を見て、みんなに言いました。
よ~し、みんな~ 、、、その場に座って聞いてほしい。
・・・ 皆が監督に集中します。
実は、
ここに居るのは2年C組の野々村美沙君だ!
男子生徒が言います。
先生! みんな彼女の事は良く知っています。
現在、空手部に所属していますよ。
あそこにいる山口美香もです。
みなが入口方向を見ます。
美香ちゃんが、バツ悪そうな顔でにっこりしました。
・・・
(え? ここに居る男どもは、わらわ達を知っているのか? 何故じゃ?)
・・・
監督が言います。
そ~か、知っているのなら話は早い!
実は、野々村君が言うには、
君たちのやっている剣道は戯れだと言っている。
いくらやっても意味がないそうだ。。。
更に、
戯れの剣術など、私の敵ではないとも言っている。
え~~~~ ・・・ ざわざわざわ、、、、、
・・・ おい、いくら野々村美沙だからと言ってもさ、、、、
それは、、、言い過ぎじゃん。 嘘だろ~、、
彼女がそんなこと言うはずがありません。。。
そ~だ、そ~だ、彼女に限ってそんな、、、
剣道部員が互いに顔を見合わせ話をしています。
・・・
・・・
更にだ、
皆の剣を磨くために手合わせをしたいと申し出ている。
はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
嘘だろうーーーーーーーーーーーーーーーーーう!
そんなバカげたことを野々村美沙が言うはずないです!
野々村は俺たちの、、、俺たちの、、、
野々村美沙! 嘘だろう! 嘘だよな。。。
いくらお前だからと言って、
俺たちを侮辱するようなことは言わないよな!
嘘だと言ってくれ!
・・・
頼む。。。野々村、、、、美沙。。。
・・・
わらわは、首を横に振りました。
・・・
嘘~ 信じない、、、
でも、、、、お前の性格って、本当にそれかよ!
・・・
そ~なのか?
・・・ わらわは無言で静かに皆を見つめました。
・・・
そ~か そ~なのか、、、、
・・・
・・・
だったら、だったら、
お前、 性格悪すぎ!
・・・
監督が言います。
野々村君、もう出て行った方が良いと思うがね。
みんなの気持ちを傷つけるだけだぞ!
さ~ ど~する?
・・・
先生!
本当にすみません。ですが、少しだけ私に時間を下さい。
少しでいいです。
・・・
ふ~む、、、君ね~
そんなに嫌われたいのか、、、
・・・
じゃあ、君の口から何かを言ってやれ。
少しだけだぞ!
・・・
皆さん、私の話を少しだけ聞いてください。
私は皆さんの剣道を、生まれて初めて今見ました。
何故、私が皆さんの剣を戯れだと言っているのか
分かりますか?
・・・ ザワザワザワ、、、、
、、、、
考えてみて下さい。
もし皆さんの剣が、真剣ならど~なると思いますか?
その剣さばきで敵を切れますか?
・・・ 何言ってる。あいつ?
・・・
今の皆さんの剣さばきでは、
敵を打てても、切ることは出来ません!
戦場では敵は甲冑を付けています。
剣で打つことで幾らかの効果があっても、
敵は切れません! 殺せません!
すなわち、切れない剣さばきの修行は
剣術ではありません。
相手を切らなければ切られて殺されます。
刀は敵を切るため、殺すためにあります。
やるか、やられるかなんです。
生きるか、死ぬかのどちらかなんです。
剣の修行とは、
その生死を分ける刀の使い方の真剣勝負の業なのです。
剣は命です。
皆さんの剣には命が込められていません。
だから
皆さんの剣は、戯れだと言っているのです。
・・・
・・・ ザワザワザワ、、、、何を言ってるんだあいつ、、、
だけど、言ってることは当たってる。
・・・
刀は刃で人を切るための物です。
皆さんの剣さばきは殆どが相打ちです。
相打ちは負けを意味します。
例え敵を殺せても、自らも深い怪我をするか、死にます。
死ねば負けです。
怪我をしても、すぐさま他の敵によって容易く殺されます。
・・・
皆さんの剣は、
ハッキリ言って、剣術ではありません。
・・・
真の勝ちとは、無傷で敵の首をはねることです。
皆さんの剣はそれには程遠いです。
それが、戯れの剣だと言う由縁です。
皆さんの剣を、いくら練習しても剣に磨きはかかりません。
剣術は死ぬか生きるか2つに1つを分ける
心身伴に過酷な修練法方で成り立っています。
・・・ ザワザワザワ、、、、ザワザワ
座っている男女が互いに顔を見合わせて、小声で話しています。
・・・ その中の男子の一人が言います。
じゃあ、野々村、お前にそれが出来るのか?
お前が、それを見せてくれるのか?
・・・
先生が許可してくださるなら
私が皆さんに、お見せします。
私は、
皆さんの剣を少しでも磨くために
手合わせをしたいと申し出ているのです。
・・・
監督! 本堂監督!
やらせてください!
我々にもメンツがあります。
あそこまで言われて、
このまま引き下がるわけにはいきません。
知らんぷりは出来ません!
やらせてください。
彼女に怪我などさせません。寸止めします!
剣道を知らない素人の女子にバカにされたまま
引き下がることなんて我慢できません。
いくら、人気者だと言っても、話は別です!
・・・
・・・ ふ~む、、、
先生! 本堂監督!
先生、 監督、、先生!
・・・
野々村君、
君がど~言うつもりかは知らんが、止めた方がいいぞ!
冗談のつもりなら、今なら、まだ笑いごとで済むからな!
君は学校の人気者らしいじゃないか。
そこまでして、人気を取る必要があるのかね?
・・・ は~?
私が人気者? それは何のことですか?
先程から、皆が私を知っているとか。。。何のことですか?
意味が良く分かりません?
私は、ただ、
ここに居る若者たちの、剣使いの誤りを正したいだけです。
見るに見かねて申しているだけです。
君にそこまで言われるとはな!
君のそのスリムな体で
ここに居る部員達とやり合うというんだね。
全く正気の沙汰じゃない!
先生!
剣に体の大きさは無関係です。
そ~かね、く~、、、、
じゃあ、見せてもらおうか!
但し、怪我だけはしないでくれ!
危ないと感じたら、遠慮なくストップしてくれたまえ!
こちらからもストップをかけさせてもらうぞ!
いいな!
・・・
はい! 本堂監督。
・・・
かたじけない!
では、ごめん!
・・・ ?
剣道部の男子が1人鎧を付けて、
道場の真ん中に膝を立て中腰で座っています。
私は変な竹でできた軽い棒を握って、
鎧の男子の前に座りました。
本堂監督が叫びます。
野々村君!
防具は! 防具はど~した? 防具を付けなさい!
・・・ ザワザワザワ、、、、ザワザワ
防具は必要ありません。
・・・ ザワザワザワ、、、、ザワザワ
男子の目が鎧の中から、私を睨んでいるのが分かります。
私はその鎧の中の目を冷静に見つめました。
視線で相手の心の奥に入って行きます。
こやつ、何を考えているのか。
自分が女に負けるはずないと目が語っておる。。。
なかなかの自信家であるな。。。良いことじゃ。
じゃがな、その自信が命取りになるのじゃ
裏付けのない自信は、即、死を意味するのじゃ
狙いは、わらわの腹か。 腹を打ってくる!
腹は打っても死なぬぞ、はらわたまで切らねばな!
わらわは、これよりそなたを真の敵と見なす。
そなたの首、もらった。
・・・
北斗一刀流、野々村美沙である。
・・・
そ~言って、
わらわは、ゆっくりと立ち上がり、竹刀を前に構えました。
・・・
その男子は、
構えたまま前に出ようとするのですが、
何故か出て来ません。
竹刀の先をぐるぐる回し続け、踏み込んで来ません。
わらわは自然体で剣を ピタッ!と静止させ。
瞬きもせず敵を見つめます。
・・・
おい! 佐桑! 何やってる!
踏み込まんかーーーーーーあ!
ど~した? お前らしくないぞ! 行くんだ~!
周囲の男子から声が掛かります。
相手が野々村美沙だからと言って遠慮はいらね~
躊躇すんじゃね~
行くんだ~! やれ~!
・・・
佐桑の体が、肩が、大きな息使いで乱れ始めました。
鎧の中の瞳に恐怖が滲みだし、汗が流れているのが見えます。
結局、
佐桑という男子は、何故かその場にヘタレ込んでしまいました。
・・・
ダメだ! 俺の相手ではない! 強すぎる!
俺の負けだ!
・・・
何言ってんだバカ!
お前、全然戦ってないだろうが!
何もしないのに負けたっていうのか アホウ!
いや! 俺はもういい!
止めておく、
お前がやってくれ、お前は県大会の優勝者だ!
お前が、やるのいい! 俺には出来ね~
お前に任せる!
・・・
お前な~
お前は野々村のファンだから、やれないんだろ~
分かってるさ!
仕方ね~ 俺だって彼女のファンだけどさ
だからやってやるさ! 容赦はしね~!
・・・
佐桑に代わって、もう一人の大柄の男子が現れました。
木戸です。
野々村さん、僕が佐桑に代わって相手をします。
僕は県大会で優勝しています。
全国大会にも出場して、予選を通過したこともあります。
お手合わせよろしくお願いいたします。
・・・ この男、何を申しておるのじゃ、意味不明じゃ、、
・・・
北斗一刀流、野々村美沙じゃ。遠慮なく来るがよい。
わらわは、静かに立ち上がり、竹刀を前に構えました。
・・・
私は鎧の中の瞳を見つめました。
少しは出来るのか。じゃが甘いの~
構えで何度も瞬きをしおって、、、
1度の瞬きが命取りになることも知らぬのか。
・・・
木戸は佐桑と同じく全く踏み込んで来ません。
ただ、竹刀を揺らしているだけです。
ど~した木戸? 来るがよい!
そんなに命が惜しいのか?
・・・
そなたの命は、今このお市の手中にあるぞ!
そなたが一歩踏み込めば、間違いなく首は飛ぶ!
さあ、勝負ぞ!
来るがよい! これが、乱世の剣ぞ!
・・・
・・・
木戸の肩が上下に左右に動き始めます。
その体はやがて揺れるごとく、ぶれ始めます。
大きな体が震えています。
息が荒く乱れ、
困惑したその目に恐怖が滲みだしてきます。
わらわは、木戸に目で語りました。
殺す!
と、その時です、
止め―――――――――――――――――――――え!
本郷監督の大きな声が響き渡り、と同時に木戸は
その場にヘタリ込んでしまいました。
おい! 木戸! 何やってんだ?
なんで戦わないんだよ!
一体、お前までもが、ど~したって言うんだ?
信じられね~ 今度は俺が行く!
・・・
木戸が体を震わせて言います。
やめろ!
・・・
止めるんだ!
・・・
木戸がその男子の腕を強く引っ張って引き止めます。
やめろ!
あいつは俺たちのかなう相手ではない!
お前! 本当に殺されるぞ! 止めろ!
いいな。。。止めろ!
俺たちが何人かかっても、かなう相手じゃね~
皆殺しにされる。本当に殺されるぞ!
竹刀でも殺される。
いいか! やめろ!
は~?
彼女は可愛くてキレイな学校1の人気者なんだぜ!
そんな子が、そんなはずね~じゃんか。。。
容姿なんて関係ね~ そんなんじゃね~
あいつは、
本物の剣の使い手だ! 強すぎる!
・・・
恐ろしい相手だ!
・・・
本堂監督が私に言いました。
野々村美沙君、
確か君は、北斗一刀流とか言ってたな。
・・・
それは、もしかして、戦国時代の剣術なのかね?
はい、そ~ですが、それが何か?
それは合戦の時に鎧ものとも首をはねると言われている
斬首抹殺剣の事かね?
古い文献で読んだことがあるんだがね。
そんな恐ろしい剣が本当に存在するのかね?
そして君は、その剣を使うってことかね?
・・・
まあ、そ~言うことかもしれません。
私は普段の剣の修行には木刀か真剣を使います。
この軽い竹刀では、やりにくい気がしました。
先生が言われる通り、北斗一刀流は斬首抹殺剣です。
それも、
合戦の中にあって、一度に数人の敵を一瞬にして殺します。
・・・
・・・
ほほ~お、、、正に殺人剣だな!
・・・
いえ、本人から見れば活人剣です。
この剣術で自分の命は助かりますから。
な~るほど、そ~か、活人剣ね~
ふ~む。。。
野々村君、
君に頼みがあるんだが。。。
何でしょう?
私と手合わせをしてくれないだろうか。
え? 先生とですか?
そ~だ、君の剣をぜひとも見てみたい!
先生?
先生は人を切り殺したことはありますか?
・・・
おいおい、物騒なことを言わんでくれ。
いくらなんでも、無いよ、そんなこと!
じゃあ、先生は私には勝てません!
いくら先生が強くても、私に勝つことは無理です。
剣の半分は心です。
心とは人を切り殺した数で決まります。
先生は戦う前から、すでに心で私に負けています。
いくら剣の術が優れていても、心がなければ死にます。
北斗一刀流は生き残った者だけが使う秘伝の術です。
・・・
それでも私と手合わせしますか?
本当に死にますよ!
・・・
野々村君、頼む!
私と手合わせをしてくれ!
分かりました。受けて立ちます。
みんな~ 聞いてくれ!
これから、先生と野々村君が手合わせをする。
皆は良~く見ておくように。
・・・
おいおい、、、ザワザワザワ、、、、なんで先生が、、
・・・
おいおい、大変なことになって来たぞ!
本郷先生と野々村美沙との戦いだってさ!
一体、ど~なっているんだ。
美沙がいくら強くても
本郷先生は、社会人の毎年の全国大会の覇者だぞ!
剣道の世界では有名人だ!
本郷先生を知らない者はいね~
その本郷先生が野々村美沙と戦うのか?
おい、おい、、見ろよ!
え---------------っ! 嘘!
まさか、あれって、
木刀じゃんか。。。。。
嘘だろう!
先生は野々村を殺す気なんだ!
俺、しらね~ぞ! もったいない! 美沙を殺すなんて!
心配するなって!
寸止めに決まってるじゃん! 殺したりしてみろ!
先生は身の破滅じゃん!
でも、奇麗だよな~ 野々村美沙って!
セーラ服の剣士か~ しびれるな~
・・・
美香ちゃんが心配そうに入口の処で私を見つめています。
・・・
道場の中央に膝を立て向かい合います。
防具は付けていません。
白のカッターシャツと黒のズボン姿とセーラ服姿の二人が
挨拶します。
・・・
柳生新陰流、本堂信一郎です。いざ!
北斗一刀流、野々村美沙じゃ。いざ!
・・・
ゆっくりと二人は立ち上がり、木刀を構えます。
ほほ~ この時代に、これほどの剣の使い手がおるとはな。。。
出来る。
この構えは、正しく柳生新陰流じゃ。。。
宗厳殿の新陰流が、この時代で生きておったか。。。
な~るほど、しかも、、、これは尾張柳生の構えじゃな
よくこの剣とも立ち合いをしてきたものじゃ。
今となっては懐かしいの~
・・・
だが、こやつ、
新陰流の極意をどこまで熟知しておるのじゃろ?
一太刀目は上段振り下ろし、わらわが かわした太刀を振り離し
わらわの腹を切る。
私は自然体のまま、真っすぐに剣を前に出し静止しました。
さあ、わらわの腹が切れるかな。。。
踏み込めるのか。上段振り下ろし。。。ど~する本堂。
瞬きせずに本堂を見つめます。
・・・
・・・
こ、これは。。。。
この構え、剣先が全く動かない。
人間が剣を握れば剣先はいくらか揺れるはずだ。
ど~なっている? 微動だにも動かない!
静止のまま。
しかも、あの瞳の輝きは何んだ?
一度として瞬きすらしないで俺を見つめている。
まさか、俺の全てを見透かしているのか?
動けない!
踏み出すことが出来ない。
上段振り下ろしで踏み出せば、間合いが相手に近づき
相手の剣先が一直線に俺の喉を貫く、すかさず剣は抜かれ
二の太刀で首が跳ねられる。
・・・
かと言って相手の剣先を払えば、俺の踏み込みが一瞬遅れ、
先を取られて、一太刀で俺の首は飛ぶ。
少しでも動けば首を跳ねられるというのか?
後に引けば踏み込まれ、真っすぐに剣先が首に刺さる。
逃げることすらできないのか。
一旦、構えれば、二度と戻れない。死あるのみか!
恐ろしい剣だ!
俺は今まで、こんな剣に出会ったことはない。
これが斬首抹殺剣。
合戦中の鎧の弱点の首に剣を刺し、二の太刀で次々に相手の
首をはねていく斬首剣!
それも一瞬にして何人もの首を跳ねる!
なんと恐ろしい剣だ! 死がすぐそこにある。
彼女の眼差しは本物だ、剣に命が宿っている。
一切手抜きなどしない。
まさに真剣勝負だ!
俺は今、この場で死ぬ!
あっ! こ、これは、、、
体が、俺の体が、震えている。。。
・・・
野々村は言った。
本当に死にますよ! と。
嘘ではない!
俺は本当に殺される!
・・・
さあ、本郷どうする?
踏み込むか? 木刀とて容赦はせぬぞ!
いくらそなたとて、死ぬのは怖かろう!
この怖さを知らずして、剣術の指南役なぞ勤まるまい!
来ぬなら、わらわからまいるぞ!
・・・
・・・ と、その時です。
・・・
・・・
美沙ちゃん、もう行こ~よ~
練習、遅れちゃうよ~
・・・
入口の方から、美香ちゃんの声が聞こえました。
・・・
その声で
私は後ろに下がり、膝を落として丁重に本郷先生に
頭を下げました。
本郷先生、
練習中に突然に押しかけて、本当にすみませんでした。
とてもいい経験をさせていただきました。
ど~も有難うございました。
皆さん、
練習のお邪魔をしてしまってすみませんでした。
本当に有難うございました。
そ~言って私は皆に、にっこりと笑いかけました。
・・・
きゃわいい~
やっぱ俺、次も野々村に1票入れるわ!
ああ、俺もだ!
あの真剣な顔の野々村も魅力的だもんな。
それにしても空手部の奴らいいな~
でも何故、
あの二人が空手部なんかに入部したんだ? わからん!
・・・
美香ちゃんの処に歩いて行く途中で
本堂先生が近づいてきて言いました。
ちょっと待ってくれ、野々村、
教えてくれないか?
もし、あのまま続いていたら俺はど~なっていた?
はい!
先生は2度、瞬きをされました。
1度目の瞬きで、先生の首は飛んでいました。
そ~か。やはりな。。。
新陰流の奥義の一つは相手を動かすことです。
ですが、先生は私を動かすことが出来ませんでした。
そ~だな。。。
で、野々村は、その剣術を誰に教わったのだね?
宗厳殿から直接教わりました。
・・・ ?
宗厳?
はい、
宗厳殿から兵法と剣術を直に教わりました。
私の北斗一刀流は元は先生と同じ新陰流ですが、
それを宗厳殿が合戦時に鋭く立ち回れるように、
改良されたものです。
そ~か。。。。?
先生は知らなかったよ。。。そ~だったんだね。
処で、野々村君、、、聞きたいことが、、、
あっ、先生、
友達が待っていますので、すみません。
あっ そ~だったね! じゃあ、、、
・・・
失礼いたします。
・・・
・・・
宗厳か~ 誰なんだ?
俺の知らない監督が居るのか~
どこの高校の監督だろ~。。。
社会人剣道部の人か? ふ~む。。。
・・・
宗厳?
・・・
・・・ 北斗一刀流は元は新陰流なのか。。。
う~む、、、、どこの監督なんだ。。。
・・・
・・・ こんな剣道を教えている人がいるとは、、、
・・・
宗厳か~あ、、、?
・・・ ?
・・・ どこかで聞いた名のような。。。。?
・・・ ?
・・・ ふ~む、、、
・・・ 待てよ、、、、、、
宗厳と言えば。。。
まさか。。。。柳生宗厳か!
そんなバカな。。。
・・・
・・・
柳生宗厳 又の名を 柳生石舟斎
・・・
柳生石舟斎!
・・・
野々村-----------!
お前は、柳生石舟斎に剣を習ったのか?
・・・
はい、そ~ですが、それが何か?
すみません先生、失礼しま~~~す。
・・・
・・・
お、お~~~~~~~~~い! の、野々村~
待ってくれ~
・・・
・・・
夢と幻想の森