前回関連ストーリー⇒ 森での出来事(16)中2の私


私は野々村美沙。

本当の私は高2、
でも今私は、幼稚でのんきで、成績赤点の中2の体に入っています。
森で中2の私を助けちゃったら、何故かそ~なっちゃいました。

中2の私は合気道とは無縁ですが、歌がめちゃ上手でビックリ!

とってもショックな事は、こっちの世界で、私の親友の美香ちゃんが
川での事故で、何故か私を憎んでいるってことです。
とっても辛いな~!

私には、その時の記憶は無いのですが、両親からの説明で、
それなりの事情は分かりました。

美香ちゃんは、私を憎んでいるせいか、
缶コーヒーも巻き添えになっちゃって、私たち2人は今、
ひどい目に合わされています。

でも私は、美香ちゃんが大好きだし、合気道なんかで勝負しようなんて
思っていません。それは絶対に封印です。

でもその代わり、次の中間テスト全科目総合点で美香ちゃんに、
タイマンを申し込んじゃいました。

最近の、今の私の数学の点数は、36点と、9点の赤点です。

中間テストタイマンです。



———————– 自分の部屋で


私は、今日、下校時に缶コーヒーから、
3年前の美香ちゃんと私の川での事故について聞かされ、
あまりのショックで半狂乱になって気絶しちゃいました。
それ程ショックだったのです。

ですが、川での事故の記憶は私には全くありません。
記憶が飛んでるのです。

だから、私は両親に、その事故で何があったのかを聞きました。
その説明で、
少しずつ今の中2の自分のおかれてる状況が分かってきました。

今の美香ちゃんが私を裏切り女として憎む原因が
そこにあるのは間違いありません。

小5の川での事は、美香ちゃんと私に取って大きな事です。
私のせいで、
今の美香ちゃんが生まれてしまったのかもしれません。
美香ちゃんと私は以前は幼友達で仲良しだった、
でも、美香ちゃんは
あの事故の事で、私が裏切ったと思い込んでるんだわ!

のんきで幼稚な中2の私だと思っていましたが、
実際には色んな悩みを抱えていたんだな~って思いました。

・・・

・・・ 頭をまとめようとしました。

私は高2で中2の1学期に、向こうの世界から飛んできた。
そして、
美香ちゃんは、私を恨んでる中1の美香ちゃんの体の中に
向こうから飛んで来て入っちゃったのかもしれない。
だとしたら、
多分、私より1年前にこっちへ来てるんだわ!

そして、こっちの美香ちゃんは向こうでの合気道流空手の能力を
そのまま引き継いでいる。
イヤ、正確にはその能力は数倍強化されてると思える。

今まで美香ちゃんは、私にだけは手を出さなかったって
缶コーヒーが言ってたわ。

何故だろう? 何か理由があるのだろうか?
でも、
最近になって美香ちゃんは、私をいじめ始めた。何故?
川の事故は3年前、憎しみは以前からのはずなのに、
なんで、その間、私をいじめなかったの?

分かんない?

缶コーヒーは、
1年生の途中で転校して来たと言っていた。
てことは、もし彼が向こうから飛んできたなら、
美香ちゃんの少し後ってことになるわ。でも約1年前か~

・・・

缶コーヒーか~ う~む、、、、?
あいつは、本当に向こうから飛んできたのだろうか、、?
向こうからじゃないかも?
だったら、何故に私を必死で守ろうとするんだろう?
やはり、ムシ子やお市様の線があるためだろうか?
とすると、やっぱ向こうから飛んで来ちゃったのか~

・・・

あ~
同道巡り、、、試行錯誤で頭が混乱して来ます。

考えれば考える程、大きな疑問も湧いてきますが
事情はそれなりに見えてきました。

1つ言えることは、
美香ちゃんも缶コーヒーも、
自分が向こうから飛んで来ちゃってることを知らない。
能力は向こうの物を引き継いでいても、性格はこちらの
自分に支配されてるってことだわ。

それに比べ、私の場合は、その逆なんだ!
向こうの世界の高2の私がこちらの中2を支配している。

でも、歌はめちゃ上手だから、こちらの中2の私も
表に出ちゃってるのか~ 
直ぐに大声で、わ~ん わ~んって泣いちゃうのも、こっちの私なんだ!
混ざっちゃってるんだわ!

あ~ 複雑よね~ やっかいだわ

・・・

まあ、そのことを悩んでいても仕方ありません。
前に進むしか道はないもんね~
今は、

勉強です。

私は中間テストに向けて必死で勉強をしました。
中2の科目は私にとっては簡単です。
ですが、相手は何と言っても秀才の美香ちゃんです。
子分どもが自慢するくらいの優秀さなんだ、恐らく
どの教科も満点を取ってるんだわ!

私も力の限り頑張らなくっちゃ!
負けるわけにはいきません! 
いくら相手が秀才だと言っても、
高2の私が中2に負けるなんて、絶対に出来ません!

缶コーヒーのためにもです。
あいつに、これ以上痛い思いをさせる訳にはいきません。

私は、
今日の下校時の土手の坂でのタンポポの事を思い出していました。
缶コーヒーの、あったか~手の温もりで、
胸の中がじ~んと疼きました。
あの温もりは、あいつの胸の温もりなんだわ、、、

、、、

あっ! いけないわ! ムシ子に悪い!

・・・

中間テストタイマンでの対決が目の前に迫っています。

私は、必死で勉強に集中しました。
勉強は、思う以上にどんどん進んで行きます。
中2の科目なのですから当然の事です。
何度も反復して教科書を読み、教科書の例題を解きました。
中2の私が持ってる各科目の薄いドリルも全てやり抜きます。
勉強が加速されて行くのが分かります。
最終的には、目で追うだけの作業になって行きました。
それが、私の勉強方法なのです。

・・・・

校内で美香ちゃんグループが缶コーヒーや私に
手を出すことはありませんでした。
私の思った通りです。

クラス内で見る美香ちゃんは、キレイで可愛い
ごく普通の女子中学生です。

クラスの女子に囲まれて、
その中で、ひと際キラリと輝き、清純さに満ち溢れた
その姿からは、冷酷で非道で不良女番長とか魔女なんて呼ばれる
イメージは全くありません。

みんな美香ちゃんを恐れて
わざとそのような素振りをしているのでしょうか?
そんな風には、ど~しても見えないのです。
私が、そ~思いたいからなんでしょうか、、、

・・・

朝、廊下で私とすれ違っても、
私に優しい笑みを浮かべて、おはよ~ と挨拶をしてくれます。

おはよう、美香ちゃん

美香ちゃんの、あの恐ろしい気は全く感じられません。
美香ちゃんの笑顔が輝いています。

私は本当の美香ちゃんが、そこに居る様で嬉しくなりました。
私が美香ちゃんに寄せる思いは特別でした。
美香ちゃんのためなら、どんなことでも出来るって思っています。

いつだって、
どんなに苦しい時だって、固く信じあい、助け合って
苦労を伴にし、一緒に喜びあって来た美香ちゃんです。
私たちは2人は勇気と愛で強く結ばれた親友なのですから。

学校ではいつも冗談を言い合い、
手を繋ぎ合ってじゃれていました。

それが、美香ちゃんなのです。

私が、廊下を歩いていると、
優しい笑顔の美香ちゃんとすれ違いました。

つい、私は、

美香ちゃん、わたし、美沙だよ!

そ~言って美香ちゃんの腕を掴みました。

美香ちゃんが、優しく私に微笑んでくれました。
あ~ やっぱり美香ちゃんだわ! よかった~

でも、その時、いつのまにか、
私のお腹の奥深くに、強烈な力が掛かっていることに気が付きました。
美香ちゃんの手が私の内臓を鷲掴みにしています。
半端な力ではありません。

美香ちゃん! いつのまに?

美香ちゃんは、私に優しく微笑んだままで言いました。

美沙!
てめ~の汚ね~内臓を引きずり出すか? 引きちぎるか? どっちだ?
薄汚ね~手で私に触るんじゃね~!
今、仕掛けたのそっちだ! いいか! 離しゃがれ!

私はサッ!と美香ちゃんの腕を離しました。
腹部の内臓は解放されていました。

美香ちゃんは、私に優しく微笑んだまま、
じゃあ、又ね! 美沙ちゃん!

そ~言って、廊下を歩いて行きました。

直ぐ近くに居たクラスメートで
そんな私たちに気付く者はだれ1人と居ません!
傍からはクラスメートが廊下で何かを話し合っただけ、
それだけにしか見えなかったはずです。

私は、去っていく美香ちゃんの後姿を見つめていました。
スリムで清々しい普通の女子中学生です。

でも、やっぱり、美香ちゃんじゃない。

大きな体の不良ぽい男子がその向こうに5~6人戯れています。
美香ちゃんが近づくと、男たちは直ぐに左右に道を開け
美香ちゃんは、その間を悠々と歩き抜けます。
男たちは目立たないように必ず頭を下げています。

まさに、女番長です。

・・・

中間テストタイマンの掲示がどんどん増えて行き、
何処を見てもベタベタと貼られています。
学校での話題は今そのことで持ちっきりです。

信じられない事ですが、
ホームルームの時間で先生までもが、それを話題に出しました。

中年の男の近藤先生が言います。
何処にでも張り付けるのは問題だがな~
中間テストで勉強する意識が高まるのは良い事かも知れんな。
全く信じられません。担任の先生の言葉とは思えません、、、

クラスでも色んな意見が出ました。

タイマンって何ですか?(女子)
男子が言います。1対1の決闘のことじゃん!(男子)
負けるって分かってて、決闘するなんてバカじゃん。ケラケラ(男子)
何事も挑戦する事に意味があるんじゃないの(女子)
成績の悪い人が勉強意識を上げればいいんじゃない。。(女子)
自分のみじめさを晒すだけじゃん。。(男子)
自分が勉強に向いてないって分かればそれだけで成長だと思うわ。(女子)
どん底を味わえば人って強くなれると思います。(女子)
テストの結果が人生の全てじゃないもんな~(男子)
無謀って言葉を知らない人も世の中には居るんだね。(女子)
試験で対決なんてロマンチックだわ~(女子)
お前、アホか?(男子)

缶コーヒーが言いました。
結果を見なきゃ分からんだろう!
みんな、野々村が負けるって決めつけんなよ!

・・・ ジロ~

一斉に、皆が缶コーヒーを凝視しました。

美香ちゃんは、何も言わず沈黙です。
私も下を向いていました。

近藤先生が言います。
とに角だ、
今回の中間テストは、学年を問わず皆の意識は今まで以上に上がってる。
みんな、しっかり頑張ってくれ! いいな!



————————– 放課後


私が校舎から出て自転車置き場に歩いていると、缶コーヒーが
後ろから追っかけてきました。

1人ではダメだ!
何が起こるか分かったもんじゃね~
油断禁物だぞ!
俺が送ってやる。

マサキ君!
今日私ね、これから市役所に行くの!
だから今日はあなたは帰って!

イヤ、ダメだ!
俺も一緒に行く! いいな!
ダメだと言っても付いて行くからな!

自転車置き場には相変わらず美香ちゃんの子分たちが
ニタニタと気持ち悪い笑いを浮かべて待っていました。

あれ見ろよ! な~ 美沙、物騒だろう~
あいつら何をひでかすか分かんないぞ!
俺は、ストーカーって言われても、今はお前から離れん!
そのつもりでいてくれ! いいか!

ありがとう、マサキ君!


———————— 市役所で


私は市役所の事業課を訪ねました。

3年前の川での事故の監視員の人に会うためです。

当時の事故の様子を直に聞きたかったのです。
何人かの職員が出てきて、人が変わる毎に私は何度も
同じ話を繰り返しました。

・・・ 必死でした。。。

あ~ それなら、きっと片山さんが良く知ってるな、、、
片山さんが、あの時の監視員で責任者だったからね。。

ですが、
その片山さんと言う当時の監視員の人は非番で居ませんでした。
一生懸命に事情を話し、係の人にお願いして、
自宅の方へ電話してもらいました。
奥さんが出られて主人は今出かけているとの事でしたが
30分程すると帰って来るとのことでした。

役所の係員の人に、特別に住所を教えてもらいました。

片山さんは市役所から、そ~遠く離れていませんでした。

私は聞いた道と控えた住所を辿って、
缶コーヒーと2人で、片山さんの家に向かいました。

・・・ 胸が打っています、、、

・・・ 自転車を乗ったり下りたり キョロキョロ

おい、美沙、
今更、当時の事故を聞いて一体、なんになるってんだよ!
もう3年も前の事だぞ!
済んでしまったことを掘り起こしてど~なるんだよ!
忘れろよ! 
辛い思いをするだけかもしれんぞ!

・・・

マサキ君!
これは私の出発点なの!
ど~しても、真実を確かめておきたいの!
私の両親からは聞いたわ、
でも両親はその場所にはいなかったのよ!
両親を信じないわけじゃないの!
でも両親である以上、私が傷付くことは決して言わないわ!
それに両親だって股聞きの話なんだよ!
微妙に実際とは違っているかもしれないじゃない。
だから、直接にそこに居た人の話を聞かないとダメなの。
そ~でなきゃ、納得できないの、私。

・・・

ふ~む、、、、それは、そ~かもしれんが、、、

・・・ 私は、缶コーヒーを見つめました。

そっか~ よし、分かった
俺も一緒に聞いてもいいか?

うん!

あなたにも聞いてほしい



———————— 監視員の片山さんの自宅で


私たち2人は片山さんという、
当時の監視員をしていた自宅を訪問しました。

ピンポーン 上品で優しそうな女の人が玄関に出てきました。

片山さんの奥さんでした。
私たち2人は丁重に中へ案内されました。

さ~ さ~ どうぞ、役場からの電話を聞きました。
散らかっていますが、どうぞお楽にしてください。

感じのいい、40歳代の女性です。
もうすぐ主人も帰って来ると思いますので、
しばらくお待ちください。
そ~言って応接室に案内されコーヒーが出されました。

こじんまりした応接室の壁には海で撮ったと思われる
3人の写真が壁に掛けてありました。
1人はさっきの奥さんです。
それに水着姿の小学生の女の子と一人の日焼けした
がっちりした健康そうな男の人が写っています。
少女を挟んで3人はみんな楽しそうに白い歯で笑っています。

え、この女の子、、、

一体、何処の海岸だろう、、、?
片山さんの家族なんだと思いました。
家族連れで夏に何処かの海岸に旅行をした時に撮った
写真だろな~ とっても幸せそうな家族です。

キョロキョロ、、、

窓のカーテン手前の壁に沿ってピアノが置いてあります。
そのピアノに古いギターが立てかけられています。
音楽か~ いいな~

・・・

写真の男の人が、片山さんで当時の監視員さんだろうか?
きっとそ~なんだと思いました。

15分程待った時に、

玄関の方から男の人の声が聞こえました。
奥さんが何かを話しているようです。

男の人が応接室に入って来ました。
思った通り、写真の中の人です。片山さんです。
刈り上げの大きな体の優しそうな人でした。

私は直ぐに立ち上がり、深く頭を下げて挨拶しました。

・・・ ドキドキ

あ、あの、、、、私、突然お邪魔してすみません。

私はかなり緊張しました。

あ、あの、

3年前に川の事故で、助けて下さって本当に有難うございました。
今日はそのお礼に参りました。

・・・

君は確か野々村さんだったよね。

はい、野々村美沙です。今、市立中学の2年生です。
こちらは私のクラス友達の新藤マサキ君です。
缶コーヒーがペコっと頭を下げました。

まあまあ、2人伴、そ~硬くならなくていいよ!
楽にしなさい! さ~ 座って、座って、

はい、では、失礼します。

君があの時の女の子か~ 随分立派になったね!
本当に、よかった!
君も、もう一人の子も助かって良かったよ。
あの時は本当に危なかった!

本当にご迷惑をお掛け致して、すみませんでした。
おじさんは私の命の恩人です。
本当に有難うございました。

いやいや、い~んだよ、そんなに言われると
おじさんの方が恐縮してしまうからね。

・・・

おじさん! 早速なんですが、
実は私はあの時の記憶が無いんです。
ですが、
昨日、ここにいるマサキ君から偶然に
3年前の事故の事を聞きました。
両親からも昨日夜、事故の説明はしてもらいました。
でも、みんなその場所に居ない人の話です。
ですから、あの時、何があったのかお聞かせてください。

私には全く記憶がありません。

・・・

そ~らしいね~ 可哀そうに、、、君が記憶を失ったってことは
それとなく聞いてはいんだがね!

君に取っては、とてもつらい記憶なんだろう!
おじさんは、
君の心の中の事は分からないんだがね
あの時の事を知らないと、
きっと君は前に進めないんだろうね。。。

・・・・

はい!

私は、おじさんの顔をじ~っと見つめました。

そうか、分かったよ、
じゃあ、私が見たままを話そう!

・・・

あの時、君はもう一人の女の子と浅瀬で遊んでいた。
きっと仲良しの友達なんだろう!楽しそうだったよ。
私も君たち2人を、
この目で確かに確認していた。監視員だからね。

でも、あの時は慌てたよ。
本流との境界線となる石垣の上を、
君たち2人が手を繋いで歩いていたんだからね。

おじさんは、驚いて、危ない! 降りろー!って叫んだ!
すると、君は浅瀬の方に、もう一人は本流に飛び込んだ!

でも君は直ぐに石垣を登って行き、もう一人のお友達を追って
本流に飛び込んだ!

おじさんはビックリして、自分が持っていた浮き輪を持って
河辺に沿って走って行き、
君たちの方に浮き輪を思いっきり投げたんだよ!
浮き輪は君の近くに落ちて君は浮き輪に掴まって
流されて行った。

君の友達はもっと先に流されて君に手を振って
何かを叫んでいた。

おじさんは、
河辺を走りながら君に向かって、浮き輪を放すなーって叫んだよ!

でも何故か
君は途中で浮き輪を放して溺れてしまった。
君の友達も下流200m程流されて溺れた。

・・・ し~ん

おじさんは、必死で水に沈んだ君を引き上げて
河原で人工呼吸をやり続けたよ。
その甲斐があってか、
君は口から水を大量に吐き出し意識を取り戻したが、
救急車で病院へ運ばれて行った。

これは後で、その時の救急隊員に聞いた話なんだが、
救急車の中で、君は友達の名前を叫び続けて
狂った様に泣きじゃくっていたらしいよ。

君の友達も別の監視員によって引き上げられ河辺の
人工呼吸と病院の処置で助かった。
意識不明で君と同じく救急車で運ばれたがね。

・・・ し~ん

・・・ 私の目から涙が流れて止まりませんでした。

・・・ 胸が締め付けられる思いでした。

・・・ 美香ちゃん

おじさんが言いました。

君はあの時、お友達を助けようと無謀にも本流に飛び込んだ。
浮き輪を投げても、それを放して友達に譲ろうとした。

おじさんには、そ~見えたね。

・・・

おじさんの話は、私の記憶ない物でしたが、
生々しいものでした。

。。。

私は、特に質問はしませんでした。
充分でした。

私は、立って
おじさんに丁寧に頭を下げてお礼を言いました。

おじさん、ど~も有難うございました。
おじさんに助けてもらったこの命、大切にいたします。

そ~言って帰ろうとしました。 すると、

ちょっと待ちなさい、
そ~言って一旦、部屋から出て行き、直ぐに戻ってきました。

・・・

これをもらってはくれないだろうか!

・・・ ?

そ~言って私の手に何かを握らせました。
私は手を広げて中を見ました。 これは、、、
小指の先位の大きさで、透明に輝くカットがキラキラとした
奇麗な物に銀色のチェーンが付いています

え? これは、
おじさんと一緒に写ってる女の子がしているネックレスでは?

そ~なんだ! 私の娘なんだ!
でも4年前11歳で亡くなってね!
だから君に使ってもらいたいんだ!

・・・

私は少しうろたえました。

で、でも、そんな大切な物を私が頂くわけにはいきません。
これは娘さんとの思い出が、、、
そんな大切な物を、、、私なんかが、、、

そこへ奥さんが出てきました。
話を聞いていたのでしょう。

ど~かもらってやって下さいませんか。
実は、主人は、この3年間あなたが訪ねて来て下さるのを
ず~っと待っていたんです。

え~ 私がここへおじゃまするのをですか~?

・・・ ?

そのネックレスは、私たちの大切な娘の形見なんです。
11歳の時の誕生日に、私たちが娘に贈った水晶のネックレスです。
高価な物じゃありませんが、
娘はとっても喜んでくれましてね、大切にしていました。
大切な物だからこそ、美沙さんに使ってもらいたいんです。

・・・

でも、、、わたし
私は躊躇しました。。。

・・・

こんなこと言うのって、ご迷惑かもしれませんが、
私たちに取っては、あなたが娘の生まれ変わりに思えて
仕方ないんです。
娘はあの写真で写ってる、あの海で、あの時、海で溺れて
主人の必死の人工呼吸の甲斐なく、あの世へ行ってしまいました。
それから1年後の夏に、美沙さんの事故があったんです。
あなたが11歳の時です。
偶然でしょうけど、私たちの娘と同じ歳です。

おじさんが言います。
だからあの時、私は何としても君を救いたかった。
私は、1年前の娘に人工呼吸をしてたんだ!・・・君に!
私たちの娘の小百合は戻らなかったが、
でも君はあの時、私の息に応えて戻ってきてくれた。
嬉しかったよ!

・・・

私の目から1筋の涙がこぼれました。

おじさん、本当に有難うございました。

私はおじさんに、言葉でしてかお礼を言うことしか出来ません。
ですが、1つだけ、
もしよろしければ、私の歌を聞いてください。

歌?

・・・

おじさんとおばさんが、顔を見合わせて言います。

勿論、君の歌を聞きたいよ!
聞かせてくれるかい!

はい、
あそこのピアノも使ってもいいですか?

。。。

ああ、勿論だよ、、、
あれは娘がよく弾いていたピアノだよ。
さあ、美沙さん、自由に使っていいよ。

私は、水晶のネックレスを首に掛けました。

・・・

ピアノの前にゆっくりと座り、蓋を開けました。
懐かしい鍵盤の匂いがします。

大きく深呼吸をしました。

私は目を閉じました。

そして、ゆっくりと指を動かしていきます。
心を込めて歌いました。

真っ白な 雪道に 春風香る
私は懐かしい あの街を思い出す
叶えたい夢もあった
変わりたい自分もいた
いまはただなつかしい
あの人を思い出す
誰かの歌が聞こえる
誰かを励ましてる
誰かの笑顔が見える
悲しみの向こう側に
花は 花は 花は咲く
いつか生まれる君に
花は 花は 花は咲く
私は何を残しただろう ・・・・

・・・

透き通った美しい声がピアノの音色に
合わせて響きます。

自分でもビックリです。
歌だけではありません。
勝手に手が動いてピアノを弾いています。
こっちの中2の私ってすっご~い。

私の横で微かにすすり泣く声が聞こえてきます。
片山さん夫婦が泣いているのでしょうか。。。

途中から、ギターの音色が聞こえてきました。
おじさんが弾いています。

きっと、娘さんが生きていた時、こうして、
この部屋で3人仲良く歌を奏でていたのかもしれません。
私は自分が本当に片山さんの娘さんの
生まれ変わりかも知れないって思いました。

・・・

歌が終わり、静かにピアノの伴奏も止まりました。

すると、
おじさんとおばさんが私に抱き着くようにして
涙をこぼしています。

私はじ~っとそのままでいました。2人の温もりが伝わってきます。

二人の肩が揺れています。

その時、急に私の目から涙が噴き出して、
私はおじさんとおばさんに自分から抱き着いて、

わ~ん わ~ん わ~ん と大きな声で泣きました。

後ろで缶コーヒーが泣く声が聞こえました。

私は言いました。
娘さんを思い出させちゃってゴメンなさい!

美沙さん、
本当に、ありがとう、嬉しいよ!

これで、私たち夫婦も新たな出発が出来る!
君には、本当に感謝しているよ、ありがとう、、、

・・・

私は胸のネックレスに手を当てて、
きっと大切にします。と言って
涙の笑顔でおじさんとおばさんに微笑みました。

あ~ 良く似合ってる。 キレイだよ!

おじさんが、言いました。
美沙君、
君はあの時、勇敢で優しかったよ。本当だ!

・・・

よかったら、また2人で遊びに来なさい。

内の家内はケーキ作りの名人なんだ!
良かったら一緒に食べよう!

急に缶コーヒーが後ろから、
ホントですかーーーーーーーーーーーーーあ!
来ます。 来ます。
こいつスッゴイ大食いなんです。
昼の弁当箱の大きさってビックリです。
僕の2倍以上は食ってます。
それにいつも言ってるんですよ。
学校に弁当を食べに来てるんだって!
食べてる時が一番幸せなんだって。
だから直ぐに又2人で来ます。

バシッ! 痛てーーーーーーーーーーーーーーーえ!

・・・

みんなで、大きな声で笑いました。

・・・

私たちは家路に着きました。

土手道のいつもの処に自転車を停めて2人は
並んで座りました。

マサキ君、
付いてきてくれてありがとう。
片山さんに直接話を聞けて本当によかったわ。
実際に現場に居た人の話って実感が沸くわね!

私はあの時、本当に危なかったんだ。
もし片山さんがいなかったら、私は死んでたんだわ。
あのおじさんが、私に息を吹き込んでくれたんだね。
間違いなく、私の命の恩人なんだ!

でもおじさんの娘さん、本当に気の毒だわ~
あの写真の女の子が娘さんだったんだ。
そして、
その娘さんの形見がこのネックレスなんだ。

私ね、写真を見た時、一瞬ビックリしちゃった。

 

え? ビックリした?
何をだよ?

あの写真の中の女の子って、私かと思ったの!
私にそっくりだった!
私って、
あの写真の女の子の生まれ変わりかも知れない、、、

え、えーーーーーーーーーえ!

おい、おい、やめろよ、、、気持ち悪~
俺、その手の話ってダメなんだ、、ゾクゾク、、、

。。。

お化け~ 幽霊だ~~~~~あ!

わーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ! 止めろ~

缶コーヒーは飛び上がって
ビックリして坂から転げそうになりました。

キャ、キャ、キャハ、、、冗談だってば、、おもしろ~
あんた結構、肝っ玉ちっちゃいね。ケラケラ、、、

・・・

それにしても驚いた。。。
美沙、お前ってピアノ弾けるんだ!
歌も上手い!
この前も屋上でそ~だったけど、今日はめちゃ感心したよ。

お前の奇麗な声って、、何ていうのかな~
人の心の中にじ~んと染み込んで来るっていうか、
胸の奥が熱くなってくるような、、、
心が何かで突き刺されるようだったよ。。。

心が何かで突き刺される?
あの~ それってど~言う意味なの?

悪い意味じゃないさ! ほめてんだ!
人の心を強く打つってことだよ!

ふ~ん、、、染み込む 突きか~ 打つか~ 

・・・

ど~したんだ、、、?
いえ、別に、、、
変な奴!

・・・

お前、歌の天才だよ! ピアノもな!

美沙、片山さんの話で分かったじゃないか。
3年前の水の事故は美香の誤解だってことがな。
さっきの話で、納得出来ただろう?
お前は美香を命がけで助けようとしたんだ!
本流に美香を助けに飛び込んだし、自分の浮き輪を
美香に譲ったんだぞ!

もしあの事故で美香がお前の事を憎んでいるなら
お門違いじゃないか。美香の一方的な誤解だろ。

それはそ~かもしれないけどね、
おじさんの話では、
美香ちゃんと私の2人が、
石垣の上に手を繋いで歩いていたって言ってたでしょう。
私も一緒に石垣の上に居たんだよ!
何故?

それに、何故
美香ちゃんは本流に飛び込んで
私は浅瀬に飛び込んじゃったの?

お前、まだ納得いかないのか?

美沙、お前な~ 考えすぎだよ!
事故だったんだ!

そ~ね、
考えても分かんないわね。
これは美香ちゃんだけにしか分かんない事かもね。

よし、もう帰ろっか~

今日も缶コーヒーは家の近くまで私を送ってくれました。

マサキ君!
なんだ?

・・・ 私は缶コーヒーの顔を見つめました。

ありがとう!

・・・ モジモジ 頭をかいています、、、

マサキ君って意外に恥ずかしがり屋? クスクス

その、以外って、ね~だろ~ 俺はさ、、、ただ、、

ただ、、何なのよ? ジロ~

私今、勉強を頑張ってるから、あなたも頑張ってよ!

分かってるさ、、、今回の中間で俺、すっげ~勉強してる。
親もビックリしててさ。

じゃあ、お互いに勉強、頑張りましょうね。

・・・・

私が今日片山のおじさんの処に行ったことは
両親には話しませんでした。
又、機会を見て話そうと思いました。
水晶のネックレスは真ん中の机の引き出しの
うさちゃんの柄の付いた金属のボックスの中にしまいました。
その中には元々幼稚な感じの、女の子の装飾品が入っていました。
ピンク色のネックレスもありました。

よし、やろう!

私は勉強に集中しました。

夜の11時です。

トントンとノックの音が聞こえました。
お母さんよ、入っていいかしら、、、?

いいわよ~ 入って~

母が紅茶を持って来てくれました。
美沙ちゃん、一体、ど~したんですか、
そんなにお勉強をすると体に毒ですよ!

はあ~~~~~~~~~~~~~~あ?

ちょっと、お母さん、娘が勉強を頑張ってるって言うのに
それは、ないでしょう。。。

私、赤点なんだよ!
もっと勉強しなさいって、叱ってよ~

あれあれ、、、叱って欲しいなんて、甘えん坊だ事、、、
紅茶、ここに置いておきますよ、、、

そ~言って、にっこり笑って母は直ぐに出て行きました。

一体、内の親ってど~なってんのよ、
勉強をすると体に毒だなんて、 信じられない!
めちゃめちゃじゃん、、、こんなんじゃ、赤点も当たり前だわ!

私は今タイマン張ってんだからね!
試験は2日後、中間テストタイマンだ!
美香ちゃんには絶対に負けられない!

よ~し、やるぞ~

繰り返し繰り返し、何度も教科書を中心に勉強しました。
どの科目もそ~です。
教科書の内容は全部暗記しました。
1学期で返してもらった答案用紙の問題も何度も
やりました。
こちら側の中2の私はひどい点数です。
全く信じられません。
これでは皆にバカにされちゃうのも当然です。

私は全教科満点を目指しました。
今の私のレベルを自己採点するなら、ミスさえしなければ
満点は取れると自負しています。

ただ美香ちゃんが満点を取れば、
このタイマンは五分五分で、
その場合は、きっと私の負けです。
今回の場合は、勝たなければ意味が無いのです。
そのためには絶対にミスは許されません。
英語の分かってるようなスペルのミスやコンマ、など
数学の中2のやり方で解いていく方法など、漢字の
ハネなど、選択問題のひっかけや、逆質問など、
気を付けなければなりません。

試験には要領があります。
何を質問しているのか、何をさせようとしているのかの
問題をしっかりと最初に読み取らねばなりません。
問題から先生の性格も読み取れます。
それが早めにわかれば、問題も解きやすくなってきます。

素直な先生と、意地悪な先生で用心度も変わってきます。
ですが、中2の中間テストで果たしてそこまでは
考えなくてよいかもしれません。

それはテストの問題を見れば一目で分かりますから、
それに対応して行けばいいだけです。

結局、その日は2:00AMまで勉強をしました。
全ての教科と、今までの試験の内容を全て済ませました。
頭の中に全内容が漏れなくインプットされています。

今日の勉強は終了!

母が1階で起きているのが分かりました。
お母さん、こんなに遅くまで、ゴメンなさい!
おやすみなさ~い。お母さん! そしてありがとう!

私はベットの中で、
缶コーヒーがホームルームの時に言った言葉を
思い出していました。

みんな、野々村が負けるって決めつけるなよ!

学校で今の私の見方は、缶コーヒーだけです。
もしこのタイマンで勝てば、その缶コーヒーだけは
守れる!

いつの間にか眠っていました。


———————– 2日後


試験当日です。
私は、筆記用具の予備を一式内ポケットに入れて登校しました。
念のためです。

美香ちゃんは、絶対にやらないと信じていますが、
子分たちの妨害を想定しての事です。

いよいよ、中間テストタイマンの開始です。

「中間テストタイマン」
美沙vs美香、
バカと秀才の対決!

 

夢と幻想の森