お前の腹! ヤバイ!
は~あ、、、、私のお腹、、、、、?
缶コーヒーに、そう言われてムシ子は、
自分の腹部に目をやりました。
太い枝がウエストのスカートの処に深く刺さっています。
明らかに内臓深くまで達しているに違いありません。
男の子を救った時に、
男の子と一緒に折れて落ちて来た枝が、ムシ子の腹部に、
刺さったのです。それも深く食い込んでいます。
缶コーヒーは男の子を、両腕で受け止めたのですが、
私は折れた枝を、お腹で受け止めたようです。
そんな~あ、、、、、、
嘘でしょう~!
ねえ! 缶コーヒー!
私、ここで死んじゃうの?
・・・
ゆっくりとムシ子が、その場に膝を落としていきます。
それを、缶コーヒーが支えるように抱き抱えます。
こ、これが、現実なの? ねえ?
これが、私の最後なの、、、、?
私、ま、まだ、、、、
・・・ まだ、わたし、、
勝家とお市に会っていない、、、、、、
私の独りよがりだったってこと?
ね~ まだ会ってないのよ、、、、それなのに、
・・・
分かっているよ、分かってる! ムシ子!
・・・
缶コーヒー!
私って何のためにこの世界にやって来たの?
私たち、何故ここに居るの、、、、?
・・・
そんな事、俺にはわかんないよ!
お前に分かんないことが、なんで俺にわかるんだよ!
ムシ子! 死ぬな!
死なないでくれ、、、、
ゴメンなムシ子! 俺がお前を守ってやるとか言ってさ、
許してくれ、俺ってお前のために何もできなかった。
本当にゴメンな!
結局、約束を守れなかった。
ゴメン! ごめんな、ムシ子!
そう言って缶コーヒーはムシ子を強く強く抱きしめました。
そして耳元でムシ子にささやきました。
ムシ子!
俺! お前のこと、好きだ。
口が超悪いし行動がめちゃめちゃだけどさ、
でも、大好きだ!
そんなお前を好きになった、、
こんな気持ちは生まれて初めてだ。
今ハッキリと分かったんだよ。
俺にとって、お前は何よりも大切な人なんだって。
離したくない!
頼むから死なないでくれ。
俺から離れないでくれ。
お前が死んだら、俺は生きていけないよ!
この世界で俺1人でど~しろって言うんだ!
か、缶コーヒー!
私も、あなたが好き!
こんな気持ちは初めてよ!
胸が!
熱くなるほど好きだよ!
あなたのこと超特急で好きになったんだよ!
そそっかしくてバカみたいだけど、それでも、
あなたと一緒で楽しかった!
短い間だったけど幸せだったわ!
缶コーヒー!
私が、
ず~っと求めていたものが今やっと分かった気がする。
それは、あなただっだのかもしれないわ!
・・・
ムシ子の綺麗な瞳に涙が浮かび、やがて、
その白い頬に涙が光る筋となって流れました。
・・・
おい! ムシ子!
しっかりしろ!
頼むから、死なないでくれ!
これから先、俺一人でど~しろってんだよ?
お前が居ない世界なんて考えられないよ~。
今のお前は俺の希望なんだ!
お前なしでは生きられないよ!
あ~ 一体どうしたらいいんだ、、、、
この時代の全ての神様!
どうか、お願いします。
ムシ子をお助け下さい!
なんでもいたします。どうか、この子をお助けてください。
お願いします。お願いします。お願いします。
そう言って、
俺は、いっぱい涙を流しながら、
ムシ子の体を両手で引き寄せ、強く強く
しっかりと胸に抱きしめました。
ムシ子の匂いが伝わってきます。
長い黒髪の香りと、
真っ白なうなじの肌の匂いでした。
これが、ムシ子の匂い、、最初で最後になるのか、、そんな、、
こんな別れが待ってるなんて、あまりにも残酷過ぎる。
やっと見つけた大切な人なのに!
愛おしいムシ子、、、、死ぬな、頼むから死なないでくれ!
・・・ 頼む~、、、、、、
・・・
う~ぅ、、、、、、クッ、、クッ、、クッ、
缶コーヒー、、、、、クッ、、クッ、
く、苦しいよ! 痛い~! い、い、息が、、、出来ない!
腹が痛むのか?
無理もない! こんなに深く刺さってるもんな!
でも、俺にはどうしてやることも出来ない!
ムシ子! ゴメン!
本当にゴメン! 無力な俺を許してくれ!
ムシ子の体を少しずらして顔を見ました。
痛い! 痛い! 痛い! 痛い!
苦しいよ! 苦しいよ! 苦しいよ!
息が出来ない! 息が出来ない! 息が出来ない!
も、もう我慢できない! クッ! クッ!
ムシ子は腹の激痛に耐えてか、もがき苦しんでいます。
せめて強く抱きしめてやろう、、、、、ぎゅーーーーっ!
クッ! クッ! か、 こ、 かん、、クッ!
か、 かん、缶、、、コーヒー!
なんだ?
なんでも言ってみろ! 出来る限りのことはしてやる。
なんだ? さあ、、、、言ってみろ。ぎゅーーーーう!
い、い、い、、、た、、、、
そ、そ、その腕!
その腕、は、は、放し、、、、、て! い、い、、、た、、
・・・ ?
・・・ クッ! クッ!
え? 何が言いたいんだ、ムシ子?
・・・ そ、はな、、、せ、、、い、息が、、で、出、、来ない!
・・・ ク、ク、クルシイ、、、! クッ! クッ!
・・・ ?
・・・ クッ! クッ! ク、ク、
ゴツン!
ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
放せってば!
ムシ子のオデコが俺のオデコに当たりました!
石より硬い石頭!
俺は、目から火が飛び出して、
後ろに吹っ飛んで、尻もちをついてしまいました。
はーーーーーーーーーーーーーーーーあ?
なにすんだよ? 急に!
こらーーーーあ! 缶コーヒー! あんたね~
あんた、私を呼吸困難で殺す気!
ムシ子が肩を上下に激しく動かしています。
ハアハアハアハア、、、(激しい息)あ~ 苦し!
死ぬかと思った!
我慢してたんだけど、もう限界だわ!
窒息死するとこだった。あ~ 苦し!
俺は、何が起こったのか分からないまま
あっけらかんとした顔でムシ子の顔を見つめました。
・・・ あっけらかん
・・・ ?
すると、ムシ子は、その場で急に立ち上がって、
こらー! 缶コーヒー!
H、すけべ、変態! どスケベH
はあ~ 、、、、、、?
いつまで私の体に抱きついてるのよ!
・・・ ?
ムシ子! お前! ど~したんだ!
そんな体で、、、、、?
腹に刺さった木の枝! ど~なってるんだ?
すると、ムシ子が言います。
あっ! これね。
こんなもの、何でもないわ!
そう言って、両手で木の枝を、いとも簡単に、
「スッ!」と抜いて、
「ポイ!」と横の岩に投げました。
鋭利に尖った太い枝がムシ子の腹から抜けて、
足元の岩に当たってポンポンと跳ねました。
その様子を見ていた多くの村人がビックリして
次第に、ざわめき始めました。
目の前で起こった信じられない出来事に
うろたえているのかもしれません。
ムシ子は何もなかったかのように、
ピンピンしてて、死ぬどころか前よりも元気そうに、
ニコニコ笑顔で、
谷底の岩をピョンピョンと跳ねて見せました。
一体何が起こったんだ?
それには、俺もビックリです。
俺の願いを、神様がかなえてくれたんだと思いました。
あ~ やっぱし、神は存在していた。
俺は強く確信しました。
ムシ子!
お前、腹は大丈夫なのか?
腹?
全然、大丈夫だよ、缶コーヒー殿。
一体、ど~なっているんだよ、ムシ子?
缶コーヒー殿! 説明は後で!
とにかく、ここは村の人を安心させなくっちゃね!
・・・
・・・ そっか! 分かった!
そう言って、2人が村人の方を見ると、
えーーーーーえ! なに? ど~なってるの?
なに~これ! ビックリです。
何が起こっちゃったの? 缶コーヒー?
みんなど~しちゃったの?
20人以上の全員が谷の岩床に座って、
深々と頭を岩にくっ付けています。
2人は顔を見合わせました。
・・・ ? え?
缶コーヒー、これって何かで見たことない、、、?
あ、あぁ、、、、確か、テレビで、、、、、
水戸黄門!
そうだ、子供の時にやってた水戸黄門だわ!
でも、あれって江戸時代じゃない?
その時、村長が、頭を岩にくっ付けたままで
言いました。
は、はーーーーーーーーーーーあ、、、、神様!
・・・
・・・
・・・ ?
神様? (2人は同時に声を上げてしまいました。)
2人は顔を見合わせます。
・・・ ?
あの、あの、あの、、、、
缶コーヒー! 今確かに神様って言ったよね。
ああ、、、、そう聞こえたけど、、、
神様って、だれ? どこにいるの、そんなの?
俺に聞くわけ~?
聞く相手が違ってると思うけどさ、
・・・ でもさ、、、
この状況からしてだな、、、
お前の事みたい、、、、
お前以外考えられないじゃん、、、、、、
だってさ、
俺だって、お前の事、一瞬、そう思ったくらいだからな!
一体、お前の体って、ど~なってるんだよ?
お前の腹だよ!
お前の腹はど~なってるんだ?
もう痛くないのかよ?
ど~なんだよ、、、、、、腹だよ?
え! 私のお腹?
全然なんともないわ! 痛くもかゆくもない。
はあ~、、じゃあ、
いつ治っちまったんだ?
・・・
え~っと、、、、
初めっから何ともなかったみたい。
はあーーーーーーーーーーーーーーあ!
初めっからーーーーーーーあ!
で、でもさ、
あんな大きな木の枝が突き刺さってじゃないか。
それも、相当深くまで食い込んでたぞ!
そだね!
確かに刺さってた。
でも全然痛くなかったし。。。。。本当だよ!
だって、
自分でも刺さってるの知らなかったもん。
じゃあなぜ、死にそうな振りしてたんだ!
あれって嘘だったのか?
だって、缶コーヒー!あんたが
死ぬな、死ぬなって何度も言っちゃうから、
私は、
もうダメなのかな~って思ちゃって、、、、
は~、、、、? 全くあきれた奴だ!
心配して損したじゃん!
缶コーヒー!
この件は後で話さない、今はとにかく、
村の人を何とかしなくっちゃ、、、、、!
私、神社の一番奥のちっこい木の家みたいなのに
閉じ込められたくないもん!
分かった、でも
みんな、お前の事を神様だと信じてるぞ!
一体、どうするんだ?
私だけを神様だと思っていなみたい。
・・・ ?
あんたもよ!
はーーーーーーーーーーーあ! 俺もかよ。
私たち2人を神と思っているはずよ!
で、ど~するんだ?
時を超えて未来からやって来たなんて話しても
絶体。。。。信じないだろうし。。。
神様か~
この人たちから見れば私たちは神様的な要素も
確かにあるかもね。。。
超能力がある様に思われてるのかもしれない。
これは、やっかいだわね。。。
どう説明したらていいのか、、、、?
村長が言います。
神様とは知らず、大変にご無礼いたしました。
村を代表してお詫び申し上げます。
又、私どもをお助け下さり誠にありがとうございます。
本当に感謝しております。
は、はーーーーーあ~
(2人の前に村人たちが、またまたひれ伏します。)
・・・
ムシ子が言います。
村長さん! 村の皆さん!
頭をお上げください。 どうかこちらを見てください。
私たちは神様ではありません。
ムシ子が手を横に振って、何とか説明しようとします。
私は、ムシ子と言います。
そして、こちらが、
缶コーヒーです。
私たちは、旅の途中で偶然に菊ちゃんと出会い、
この村に立ち寄りました。
今、ご親切な村長さんのお家でお世話になっております。
私たちは決して神様ではありません。
皆さんと同じ人間です。
ただ、偶然にですが、
未来からやって来ました。
私たちは普通の高校生です。
みんなが、ぽか~んと口を開けています。
やっぱり、無理か~
そりゃそうだ! 仕方ないさ!
菊ちゃんが、
お姉ちゃんとお兄ちゃんは未来から来ちゃった~
そ~言って、ケラケラと笑いました。
理解しているのは菊ちゃん1人か~
——————————-
村長の家に戻りました。
ムシ子が言います。
村長さん、私たちを特別扱いしないでください。
私たちは普通の人間です。
みなさんと同じなんです。
どうか、分かってください。
村長は、言います。
もったいないお言葉です。
分かりました。
ムシ子様が、そ~おっしゃられるのならその様に致します。
村長さん、
少し質問をさせていただいてもよろしいでしょうか?
ムシ子は、ず~っと何かを気にしている様子です。
ムシ子が村長に聞きます。
今は、何年の何月何日でしょうか?
村長は、一瞬、言葉を失います。
・・・ え?
・・・ 村長が不思議な顔をしてムシ子を見返します。
あの~?
ムシ子様、、、、、
お聞きの意味がよく分からないのですが、、、、、
ムシ子は、それでも聞きます。
今は、いつなんでしょうか? 暦です。
年代のことです。今の年を何と呼んでいますか?
あ~、はい。 天正です。
天正の何年でしょう?
11年ですが、、、、
何月何日でしょうか?
4月21日です。
おい! ムシ子、お前が想像してんのと時期が違ってるじゃんか!
缶コーヒー! 少し黙ってて!
はい! はい!
今、私たちの居る、ここはどこなのでしょうか?
え! 場所ですか? 勿論、越前の国ですが。
北ノ庄城はこの近くですか。
はい、ここから5里程離れたところにあります、、、、
有難うございます。一旦ここで休みます。
奥から、村長の奥さんがお茶を入れなおしてくれました。
あ~ 奥さん! 手の怪我はど~ですか?
缶コーヒーが聞きます。
奥さんはニッコリ笑って言います。
あれから少しすると、
丸で嘘のように痛みが消えてしまいました。
信じられない程です。
本当にありがとうございました。
今、かゆを作っています。
もう少し待ってください。
そう言って、
笑顔で丁重におじきして炊事場に戻っていきました。
実に感じのいい奥さんでした。
村長が言います。
缶コーヒー様のおかげで女房も本当に喜んでいます。
やはり、あなたは神様です。
本当にありがとうございました。
いや~ まいっちゃうな~
俺!大したことしてないんだけどさ、、、
缶コーヒー!
大変だわ!
え? 大変って何が?
いい!
今日は天正11年の4月21日なのよ。
ああ、さっき聞いたけど、、、、安心じゃんか!
お前が思ってる時期と違っててホッとしたよ!
そうじゃあないの!
天正11年4月21日は、この時代のカレンダーよ。
はあ~?
お前、何言ってんだ? もっと分かり易く言え!
あのね。
今、計算しちゃったんだけど、天正11年の4月21日は
私たちのカレンダーのグレゴリオ暦でいうと、
1583年6月11日なの。
缶コーヒーが何か考えているようです。
・・・ え!
だったら!
現在、合戦の最中じゃん。
もうすぐ2人の自害だろ!
おい! ムシ子! ど~する?
急がないとだめじゃん!
ムシ子がお茶を1口飲んで言います。
そうだね、
勝家とお市の自害は3日後か~あ、、、、
自害は夕刻午後5時頃だと書いてあった。
今頃は、きっと、
賤ヶ岳で激しい争いが繰り広げられているはずだわ。
そしてお市は勝家の帰りを北ノ庄城で3人の娘達と待っているんだわ。
もし、
この戦いで、勝家が勝てば、歴史が大きく変わって来る。
秀吉が負けると豊臣秀吉の天下は無くなっちゃうわけだから。。
私たちは今、
スッゴイ時代に居ることは確かだわ。。。。
その時です。
村長が私たちの話を聞きながら、
恐る恐る話に入ってきました。
あの~、、、
ムシ子様は御領主様をご存じでいらっしゃいますか?
はい!
私は直接には会ったことはありませんが、
本で読んだことがありますので、少しは知っています。
ですが、これから、
私たちは勝家やお市に会いに行こうと思っています。
そのために、この時代にやって来ました。多分ですが、、、、
・・・
一瞬、村長の顔が引きつって、手がブルブルと震え始めました。
そして、急に姿勢を正して頭を床に付けてしまいました。
村長は、ムシ子の言っている内容が理解できないまま、
領主を知って、会いに行くという言葉に驚いた様子でした。
勿論、それは無理もありません。
この時代の領主の存在は絶大なものだからです。
きっと、恐怖心を与えてしまったのかもしれません。
ムシ子!
お前! 少しは言葉に気を付けろ!
この時代の人の気持ちを少しは考えてみろ!
そ~だね! ごめんなさい!
あ、すみません! どうか頭をお上げてください。
驚かせて本当にすみませんでした。
安心してください、私たちは偉い人でもお侍さんでもありません。
ごくごく普通の人です。
どうか信じてください。お願いいたします。
村長さんたちの優しい思いやりには本当に感謝しています。
村長さん、
賤ヶ岳という場所はご存知でしょうか?
は、はい!
随分と離れた処で、ここからですと東方30里以上ありますが。。。
120km以上離れているのかあ~
それでこの村は合戦の直接の影響は今のところ
無いのかもしれません!
村長さん、
最近この当たりで変わったことはありませんでしょうか?
変わったこと?
そうですね、
お城のお侍さんが度々まいりまして、
食料を差し出すようにと言われます。
今までも、
わずかに残った食料も持っていかれ、
この村の村人たちも本当に困っているところです。
何とかみんなで協力しあって食べ繋いでいますが、
それももう限界にきております。
私が、村長ですので、
お侍さんには、私が必死に村の状況を話しているですが、
中々理解してもらえません。
外に干している野菜も、お城に献上するためのものです。
こういった状況ですので、
娘の菊も、わらびやゼンマイを土手の方まで採りに
行っていたのだと思います。
この近くのものは採り尽くしていますので。
先程、助けてもらった男の子も、
木になっている残った実を獲りたかったんだと思います。
その時、奥さんが、かゆらしきものを運んで来ました。
奥さんが、、
どうぞ、お召し上がりください。と丁重に言って
2人の膝元にかゆを置きました。
木製のお椀には溢れるばかりの水っぽいかゆが、
湯気を出して入っています。
缶コーヒーが、うわ~
良い匂いだ! うまそ~う!
俺! 腹がペコペコで倒れそう!
じゃ、いっただきま~す。と、言って
手を伸ばそうとしました。
パチン!っと
素早くムシ子が缶コーヒーの手を叩きました。
イテッ!
何すんだよ、ムシ子!
せっかく奥さんが作ってくれた、かゆだぞ!
食べないと失礼じゃないか!
村長さん!
みなさんのお食事は、、、、、?
・・・
もしよろしければ、
家族の皆さんとご一緒に食べたいのですが。
・・・
いえ、いえ、私どもは後でとります。
どうぞ、ご遠慮なされず、
お先にお召し上がりください。
・・・
村長さん!
・・・
このかゆは奥様とお子様、ご家族のみなさんでお召し上がりください。
村長さんの、お気持ちは十分に頂きました。
そのお気持ちだけで私たちは十分に満たされました。
ね! 缶コーヒー殿!
・・・ うぅ、、、、まあ、、、
そ~うだな!
俺! 何だか急に腹がいっぱいになってきたぞ!
わっ!、はっ! はっ! は、は、ははは、、、とほほ、、、
その時、ムシ子のお腹が、
ぐ~っと鳴りました。
すると、それに連れられて缶コーヒーのお腹も、
ぐ~っと更に大きくなりました。
またまた、お腹の音が、ぐ~、ぐ~っと聞こえました。
村長と、奥さんのお腹の音でした。
一瞬、みながバツが悪そうに互いの顔を見合わせましたが、
側にいた菊ちゃんが、ケラケラ笑ったので、こらえ切れず
皆一斉に空きっ腹を抱えて笑いこけてしまいました。
奥さんは直ぐにお椀を下げて、少しして
人数分のお椀に、かゆをついでイロリの側に並べました。
奥さんが言います、
先程のかゆを目いっぱい薄めて、お芋を少し増やして
みなのを作りました。
味は薄まって美味しくないかもしれませんが、
暖かいうちだったら食べられると思います。
大根葉のお漬物も少しですがあります。
どうぞ、お召し上がりください。
みんな全員がイロリを囲んで、両手を合わせて、
いっただきま~す!
缶コーヒーが一番に言いました。
めちゃめちゃ、うめ~じゃん!
こんなうっめえ おかゆさん 俺 初めて!
ご飯粒は全く入っていませんでした。
知らない野菜の汁に芋が幾らか入っているだけの
おかゆとは名ばかりの物でした。
それでも、缶コーヒーが言う通り
味はとても美味しい物でした。
菊ちゃんも、わ~ 今日はごちそうだ~
嬉しい~っと言って、缶コーヒーの膝の上で大喜びでした。
やっぱし、みんなで一緒に楽しく食事するのが
一番の幸せだと、この時代でつくずく感じさせられたのでした。
又、御馳走が美味しいなんて間違ってると思いました。
皆で一緒に楽しく食べる食事が何よりも美味しくて
最高なんだと思いました。
横から缶コーヒーが、私に言います。
おい! ムシ子! 俺の勝だな!
うっふふふ、、、、、、!
楽しみだ! ふふふ、、、、!
なによ? キモイ奴!
その時、
村長が言います。
缶コーヒー様、ムシ子様!
ご一緒に食事をさせて頂けること、本当に嬉しく思います。
私は、今まで何度も神様に願い事をしてきました。
そして、この世に本当に神様がいらっしゃるのかどうか
疑う日々でございました。
今朝も実を申しますと、この近くの神社で神様に
お祈りをしてまいりました。
願い事をいたしました。
もし、この世に神様がいらっしゃるというなら
私たちの目の前に、お姿を表して下さり、
この苦しい生活を見て頂いた上で、
私たちの願いをかなえて下さるようにお願いいたしました。
今、はっきりと分かりました。
この世には、神様は本当にいらっしゃる。
あなた様お2人のような心優しい神様が、現実にいらっしゃる。
本当にありがたいことです。
私の願いは、家族や村人の安泰と村の平和だけです。
豊かな暮らしなど望んでいません。
ただ、人の心がすさんでしまわない最低の暮らしを
願っているだけです。
缶コーヒー様、ムシ子様!
どうか私たちの願いを叶えてください。
お願いいたします。
—————————————-
缶コーヒーとムシ子は、
居間に接する小さな部屋に案内されました。
そこには、2セットの薄い布団がくっ付いて敷かれていました。
今夜2人は、この部屋で一緒に寝ることになりそうです。
季節がら布団を掛けなくても、そう寒くはなく、
窓から月の光が差し込んで部屋はとても明るく感じました。
電気のない夜の世界です。
戦国時代の夜。
ムシ子が部屋に入るなり、くっ付いた布団を素早く引っ張って
両壁側に2つを引き離しました。
そして、その少ししかない板場の真ん中にカバンを
立てて境界線を作って言いました。
こっちが私の領地で、そっちが缶コーヒーの領地よ!
もし、入ってきたら、ぶっ殺す! ここは戦国時代!
いい! わかった?
わかってるさ!
奥さんが風呂の用意できたと扉の外で言っています。
え!
お風呂?
お風呂に入れちゃうの?
やったー!
ムシ子は意外そうに、その目を輝かせました。
缶コーヒー様からお入りください。
いえいえ! 私から入ります。
それが、
私たちの世界の絶対的な決まりなんです。
と、ムシ子が直ぐに応えました。
え! そ~なの?(缶コーヒー)
・・・ ?
そうですか、じゃあ、ムシ子様! どうぞ!
結局、私は菊ちゃんと一緒に入りました。
とても狭い空間ですが、プライバシーは守られていました。
きっと、このお風呂だけが、この時代の人にとって、
日頃の疲れを癒す、
最高の時間なのかもしれないなと思いました。
おねえちゃん、お腹、大丈夫?
もう痛くないの?
菊にそう言われて、忘れていた自分の腹部をじっくりと
眺めながら、指で摩ってみました。
枝の木が刺さった跡形は、全くありません。
勿論、痛みなどありません。
菊ちゃん!
おねえちゃんのお腹、ほら見て!
なんでもないでしょう、、、ね!
本当だ! キレイなつるつるお腹だ~、、、、!
そう言って菊は嬉しそうに笑いました。
風呂から上がっても、菊は、歌を歌っていました。
お姉ちゃんのお腹は~♪ つるつるお腹、、♪
つるつるお腹、、♪ キレイなつるつるお腹、、♪
ムシ子が入った後、缶コーヒーも風呂を済ませ、
二人の部屋に戻ってきました。
え! ムシ子! 居ない!
何処に行った、ムシ子!
イロリの側にいた村長に聞くと、先ほど浴衣のままで
外に出たとのことでした。
ムシ子様は間違いなく女神さまです。
・・・ ?
ムシ子の後を追って俺も外に出てみました。
・・・
庭先の少し離れた処に1人の女性が立っています。
え! うそ! だれ?
だれ? って 決まっています。
ムシ子の浴衣姿がそこにありました。
一瞬、俺は、ドキン!と衝撃を受けました。
何という、美しい姿なのでしょう。。。。
憂い漂う姿です。
女神さまか~
地味で薄手の浴衣姿の女性が月を見ています。
しっとりと濡れた長い髪が揺れています。
月夜の光を跳ね返すような真っ白な襟足の肌の色。
帯で結ばれた極端にくびれたウエスト。
こ、これが、あのムシ子だっていうのか?
まるで別人です。
村長が女神だと言ったのは嘘ではありません。
まるで天使のように美しく輝いています。
俺は、
こんなに美しい女性を今まで見たことがあるだろうか?
絶対に、無い!
そこには本当の戦国時代のしとやかな女性が
立ってるように思えました。
俺はその姿に、ただただ見とれていました。
ドン!
いてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!
小さな木の枝がオデコに当たりました。
俺の目から火花が飛び散り、
体が地面に吹っ飛んで尻もちをついてしまいました。
こらーーーーーーーーーーーあ! 缶コーヒー!
私の体を、Hな目で見るなーーーーーーーーあ!
ああぁ、、、、、、、やっぱし、ムシ子だ!
俺が、甘かったか、、、、、?
ムシ子? 何見てるんだよ!
月よ!
月はどの時代にあっても変わらないんだな~って、、、
見てたの!
見てよ!
月があんなにキレイに輝いているわ!
何て綺麗なんでしょう。。。。。
そこには満月に近い月が輝いていました。
ムシ子!
お前は、あの月よりもっと綺麗だよ!絶対だよ!
そ~言おうと思ったのですが、
実際には、
お前も頑張って、あの月みたいになれや!無理か~
そう言ってしまいました。(俺はバカか!)
悪かったわね!
どうせ私は綺麗じゃないもん! くそ~!
お前! ぶっ殺す!
2人は用意してくれた地味で薄手の浴衣姿で外を
歩きました。
菊ちゃんが2人の処にやってきました。
おねえちゃん、おにいちゃん、あっちに行こう、、、
蛍が見えるんだよ!
行こう!行こう! そう言って2人の手を引いて村はずれの
川の近くまでやってきました。
うわ~
缶コーヒー! 見て!見て!
スッゴイ! 何これ? これが蛍なの?
めちゃめちゃ多いじゃん!
私、こんなの見るの初めてだわ!
こんなにいっぱい蛍が居るなんて、信じられない!
感動しちゃう!
ああ、全くだ、蛍の大群だ!
まるで帯のように流れてるな。
俺たちの世界では、こんなの想像もできない光景だよ、すっげー!
向こうの方から男の子が、おにいちゃ~んと叫びながら
走ってきます。
側にいた、菊ちゃんが、次郎ちゃ~んと言って手を振ります。
今日助けた次郎と言う男の子です。
次郎が俺に向かって走って来て来ます。
おにいちゃん~
そ~言って飛びついて来ました。
おにいちゃん今日はありがとう。
少しして、次郎の両親や家族もやってきました。
めちゃめちゃ質素な姿です。
丁重に俺たちに何度も頭を下げて礼を言いました。
とても礼儀正しい人たちです。
村の人はみんなそうでした。
他の家族も子ずれでやって来ているようです。
そして、村長家族もみんなで出てきました。
こんなに幸せな、ひと時が他にあるでしょうか?
貧しいのはみんな一緒です。ですが、だからこそ、
このひと時を大切にしているのだと思いました。
ムシ子! やっと、ゆっくり出来たようだな!
今日は本当に色んなことがあった。
これが、戦国時代の村人の生活なんだな。
生活が、苦しくても、みなが心ひとつにして何とか
協力して暮らしていこうとしている。
みんな、良い人たちなんだな~
家族が1つになり、村が1つになり、支え合って生きている。
村長は本当に村のことを考えている人だし、
みんなも村長を尊敬し頼りにしているのがよく分る。
今まで、俺たちの世界で意識もしていなかったことが、
この時代ではハッキリと見せつけられるな~。。。。
そして、
村長や村人たちの思いは、ただ、
この小さな幸せを守りたいだけなんだよな。
小さいようで本当は1番大切で一番大きなものなんだ。
でも、農民が作った食料は、
侍の権力争いのために取り上げられてしまう。
自分たちで作った作物を自分たちで思うように食べれない。
子供に食べさせてやれない。
侍たちは、互いに殺し合うために必要な食料を
農民から奪っていくだけなんだ。
この農民たちが居なければ、
結局は食糧難で侍も全滅してしまうのに。
それにもかかわらず、農民たちを苦しめている。
そして、この農民たちは、どの歴史にも決して出てこない。
俺たちが習った歴史の背景には、いつだって、
この農民たちがいるはずなのに。。。
そのことは誰も知らないし、それは習わない。
あ~、、何という矛盾だ。間違っている。
合戦になれば、多くの農民達も犠牲になるかもしれない。
田畑や開墾地も荒らされて荒廃してしまうかもしれない。
ただ、最低限の平和を望む農民が犠牲になってしまうんだ。。。
つらいよ、俺! 悲しいな~
侍たちは、農民たちをどう思っているのだろう?
人が作った農作物を、
当たり前のように根こそぎ取り上げてしまうだけじゃないか!
侍って、なんて身勝手で悪人なんだろう!
村長の家に帰って私たちの部屋へ戻りました。
ムシ子は窓の外の月を見ています。
缶コーヒー!
村の人たちってみんな良い人ばっかしだね!
なんだか私、悲しくなって来ちゃった。
私たちには何も出来ない。
歴史を動かすなんて出来っこないし、村の人たちに
何もしてあげられない。。。。この虚しさは何だろうね?
そんな私たちを、神様のように思ってくれてるなんて。
私たちは世間知らずの高校生なんだよ。
悲しいな~
ムシ子!
お前もそ~思ってたのか、、、俺も同じ思いだ!
悔しいけど、俺たちにはど~にもならない!
ただ、
この村人たちのことは、決して忘れない様にしような!
そうだね!
ところで、缶コーヒー!
話は変わっちゃうけど、
あなた、初めて私との賭けに勝っちゃったね!
おかゆ食べれたじゃない!
で、勝ったら、
私に頼みがあるとか言ってなかった?
頼みって、 な~に?
・・・ うっ!
・・・
・・・ ないの? だったらいいけど、、、、
・・・ いや!
・・・
・・・ なによ? 早く言え!
・・・ その~、、、
・・・ だから、なによ? 時間切れだーーーーーあ~!
・・・ まてまて、 言うからさ!
・・・ ?
・・・ ムシ子がじ~っと俺を見ています。
・・・ ?
・・・ お前の腹を直に見たい! できれば、ちょっぴり触れるとか、、、、
・・・
・・・ しまった、、、言ってしまった。(ムシ子に殺される!)
・・・ ムシ子は俺を見つめたままじ~っと立っています。
・・・ ? (ムシ子! 今何考えてるんだ。)
次の、瞬間、スッゴイ勢いで
ムシ子が真ん中にある仕切りのカバンを
飛び越えて俺に向かって走ってきました。
あああああ、、、、、、、、、、、、、、、、あ~ やっぱ
殺される~!
間違いなくぶん殴られる!
俺は、一瞬、
両腕で頭を抱え込み、その場にしゃがみ込みました。
・・・ ヤバイ!
でも、仕方ないか! 俺は目を閉じて覚悟しました。
・・・
・・・ ?
え? ど~したんだ? ムシ子?
しゃがんだままで、そっと目だけを開けると
ムシ子の裸足が目の前にありました。
・・・ ?
・・・ 少しだけだからね。
・・・ 見たいんでしょう? お腹!
そういったかと思うと、
ムシ子は浴衣の腹部の部分だけを広げました。
俺は、膝を床に立て、丁度目の前にある
ムシ子の腹を見つめました。
きれい! こ、これが、お前の腹!
月の光を照らし返すような美しいムシ子の腹部が
そこにありました。
こんなに綺麗なもの、他には絶対に無いと思いました。
今日、男の子を助けた時にムシ子の腹部には
鋭い木の枝が内臓を貫通するほど深く刺さったはずです。
ですが、そんな傷跡はどこにもありません。
柔らかそうで、しっとりとしたキメ細かい
素肌の腹部です。
胸には、真っ白のブラを付けています。
・・・
・・・ 缶コーヒー! わかる?
・・・ ?
ムシ子は、何を言っているのだろう?
・・・ ? わかるって何がだ?
私たちは、この時代では、
死なない! 死ねない! 傷つかない!
は~?
ムシ子! お前、何が言いたいんだよ?
もっと分かり易く説明しろよ!
死なないって、ど~言うことなんだ?
私にもまだ分かんないこともいっぱいあるけど
私たちは時間を超えてこの時代にやって来たよね。
つまり、
この時代では、私たちの体は時間の壁に守られているの。
私たちが、ここに来る前に生きていたということは、
ここでは決して死なないってことなの。
ここで死んじゃったら、ここに来る前の世界で
私たちは存在しなくなっちゃう。
元の世界で、缶コーヒーと私は間違いなく存在してたわ。
てことは、この時代で私たちが死ぬはずないってことよ。
・・・ ?
俺はムシ子が言っている意味を考えました。
なるほど、、、、、、そんな気もする。。
ムシ子、
映画なんかではさ、過去を変えてしまうと
未来も変わってしまうってことになってるじゃん。
どんなに小さなことでも変えてはダメって言うか、
そんなことしたら未来が変わって
大変なことになるって言うか。。。
そ~なのよ! そこなのよ!
だから、
私たちはこの時代では何も変えることが出来ない。
でも、あの男の子を助けてしまったじゃんか。
すでに変えてしまっているじゃん。
それはど~なんだ?
あの男の子については私たちが助けなくても
別の何かが起きて助かっていたと思うの。
もともと、木になんて登らなかったかも知れないし。
ど~いうことだ?
私にも全ては分かんないけど、
例えば、
次郎君が菊ちゃんを探しに行ったとか、
菊ちゃんは私たちが村まで送り届けたでしょう。。。
もし、そんなことが無かったら、
木に登らなくて探しに行ってたかもしれないわ!
だって、次郎君は菊ちゃんと仲良しでしょう。
私たちが、何かを変えたとしても、結局はどこかで
過去を変えない力が働くように思えるのよ。
過去を変えられるって前提に立てば、
未来は変わっちゃうけど、
逆に過去を変えられないって前提に立てば
この世界で私たちがどんなことをしても
未来には影響しないと思わない?
私のお腹だってそう。
もともと、私たちはこの時代には存在していないのよ。
存在しないものが、
傷ついたり死んだりするはずがないと思うの。
でもさ、腹が空くのはなんでだ!
俺、おかゆを食べる前までは腹ペコで死にそうだったぞ!
いつの間にか、
俺はムシ子の腹にほっぺをくっ付けていました。
あ~ 柔らかでいい匂い、、、、、
腹の中で、おかゆが消化されているのだろうか、、、、
ぐじゅぐじゅ、、、、、ムシ子の腸の音が聞こえます。
そ~ね、私もお腹がペコペコだったわ。
なんでだろうね?
でも、例え時代を超えたとしても、
生きているってことは感情や生理現象とかもあるんだと思うわ。
だけど、私たちは、どんなにお腹が空いても、食べなくても
この時代では死なない。死ねないのよ!
なるほどな、
でもさ、俺な、お前が死ななくて本当に良かったよ!
ところで、
お前の内臓の音って変な音だな~?
腸がめちゃめちゃ動いてるって感じだ!
・・・
はあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ! (ムシ子)
いつの間に?
・・・ こらーーーーあ!
ドン!
・・・
痛ってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!
ムシ子の右こぶしが俺の頭にぶっ飛んできました。
H、すけべ!変態! 何してんの? 勝手なことすんな~!
ムシ子ー! お前の理論、少し違ってるぞー!
俺今、死ぬほどイテーーーーーーーえ!
俺! 死ぬ!
・・・?
俺の頭、コブ出来てないか?
痛すぎじゃんかよ、本当に傷つかないのか!
イテ! あ~痛!
ムシ子は何やら又、考えているようです。
そっか~ わかった気がする、、、つまり、
私たち2人が互いに起こす行為については、
そのまま感じちゃうのかもしれないわ。
きっとそうよ!
だって、私たちは同じ時代の人間なんだもん。
缶コーヒー! 試しに、やってみてちょうだい。
え?
何をだよ?
私の体を板の壁に押し付けて、、、それから、、、
それから? 、、、 なんだ?
・・・
私の、私の、お腹を、、、
あなたの拳で思いっ切り押し付けてちょうだい!
はあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ~?
・・・
ムシ子の腹の中に俺の拳をめり込ませるってことか?
そう!
私の内臓がつぶれてしまうくらい強くじゃないとダメ!
私の腸をつぶすの!
それくらいやらないと分かんないもん!
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!
ムシ子の腸をつぶす~う、、、、
俺は一瞬、ムシ子の腹部に目をやりました。
すっごい柔らかそうでキレイ! 正直そう思いました。
そのムシ子の腹を俺の拳でつぶす、、、、、、?
ゾクゾクっ! と身震いしました。
あの腹の中には腸があって、ぐじゅぐじゅと音を立てて
消化活動の真っ最中だ。
それがさっき聞いた音だ。
その消化中の腸を俺の拳で押しつぶすなんて、、、!
しかも体を板に押し付けて、その状態で、
拳を腹にゆっくりとめり込ませていくのか!
想像しただけで、
めちゃめちゃの興奮じゃんかーーあ!
こんなシュツエーションって小説でも読んだことない!
しかも、本人がそう望んでいるなんて!
信じられない! そんなことしていいの、俺! にた~
・・・
缶コーヒー! 早くしてよ!
実験なんだから、早くしろ~
缶コーヒー! あんたHなこと想像してないよね!
してない、してない、してなさ!
(それは嘘です。)目いっぱいムシ子の内臓を想像しています。
お前の腸がぐにゅ~っとなる感触なんて想像もしてないさ!
はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ?
私の腸の感触~?
だからさ、変なことしないって約束するからさ、
わかった、じゃあ、早くして!
でも本当に変なことは絶対にしないでよ!
変なことを考えてもダメ! いい!
約束よ! 約束破ったら、、分かってるよね! ぶっ殺す!
俺は、ムシ子を壁にピタリと付けた状態で、
拳を握りしめて、その柔らかい腹部中央に当てました。
(うっふふ、、、変なこといっぱい想像しています。)
丁度おへその位置です。
ムシ子は何も言わずじ~っとしています。
風呂上がりのムシ子の体から甘~い匂いが伝わって来ます。
女っぽい匂いだと思いました。
その匂いは、微かなものでしたが、
はっきり言って、強烈過ぎるものでした。
肌の匂いなのか、髪の匂いなのか、、、今まで決して知らなかった
甘~い、神秘的な匂いでした。
あっ! やられてしまったと確信しました。
俺は、この匂いから、もう絶体に逃げられない!
そう思いました。
拳を、ムシ子の腹部に押し込んでいきます。
力の全く入っていない柔らかい腹部の中に俺の拳が
抵抗なしに入っていきます。
あ~ ぬるっとした物がある!
その、ぬるぬるは、しっかりとした物で、その中に流動物が
流れている様に感じました。
実際に、かすかな音が「くちゅぐちゅ」と鳴って
ぬるぬると動きました。
そして、
そのぬるぬるを 「ギュっ!」と
腹部の一番奥まで思いっ切り体重を掛けて押し込みました。
何かが「くちゃっ!」とつぶれたように思いました。
うっ!
ムシ子の吐息混じりの声が聞こえました。
あっ! また、やられた!
俺の脳に、得体の知れない何かがグサッ!と
深く突き刺されたのです。
きっと、二度と抜けない強烈なものだと思いました。
これが、ムシ子の小腸なんだ!
ムシ子は俺の肩に両手を賭けた形になって俺たちは
ぴったりとくっ付いた状態になっていました。
ムシ子の熱い呼吸を感じます。
浴衣の首筋の辺りから、
肌っぽい生ぬる~い甘ったる~い匂いが漂ってきます。
あ~ 俺! 目まいがする、、、、
俺の拳にムシ子の腸が絡みつくような錯覚を覚えました。
腹部の奥からムシ子の鼓動が俺の拳を跳ね返します。
なんて温かな腹なんだよ!
ムシ子の、
命の鼓動、内臓、腸、体の匂い一気に俺に襲い掛かってくる。。。。
あ~ ムシ子! 俺! 俺! もうダメ! いきそう!
ムシ子! 一体お前は何者なんだ?
やめーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!
缶コーヒー! もういいわ!
私の想像ど~りだった!
私たち2人の間での行為は元の世界と同じ、すべて感じちゃう。
痛みも、快感もすべて問題なしだわ。
ただし、互いに殺し合いをしても死なないわ。
え!
俺たち、殺し合いをすんのか?
例えだよ!
つまり、あなたが私にHなことして、
私が怒って、あなたをいくら強くぶん殴っても
あなたは超痛いだけで、決して死んだりしない。
逆だって同じよ!
ふ~ 俺的には、あまりいい例じゃない気がするけど、
でも何となく分かった!
それと、ムシ子!
今お前、
痛みも、快感もすべて問題なしって言ったよな?
快感って、ど~いうことよ?
俺の拳で快感を感じたってことか?
・・・ え?
・・・
ムシ子は、一瞬、間違いなく慌てた様子です。
言ったよな! 言ったぞ! 快感って!
お前、快感って言ったよな! 絶体に言った!
快感って言った!
言ってなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!
絶体に、言ってない!
快感なんて言う訳ないじゃん!
バカ! あほう! ろくでなし!
ムシ子が快感って、
言ったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
ドン!
いてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!
早く寝ろ! バカ!
夢と幻想の森