あの横断歩道の交通事故から6日が経ちます。
あなたは原宿の病院に入院していましたが
今日で退院です。

色んな精密検査を受けた結果、特に異常は無く
体も回復してきたとの診断結果でした。

ただ、右横頭部を道路面で打ち付けたショックで一部の
記憶が断片的にありません。
事故当時の記憶については全くありません。
警察関係の人が来て、
色々聞かれたのですが、全く覚えていないのです。

 

医師の話によると、
ショック後の一時的なものだろうとのことで、
そういったケースは良くあると言うことでした。

ただ、
頭はまだ重く痛みも少し残っているのですが、日常生活には
差支えないとのことで、退院許可が下りたのです、

頭が痛い! いてて、、、
あ~ 本当にひどい目に合ったな!
6日間も店を留守にしてしまった!
俺が居ない間、
パート従業員はうまくやってくれただろうか?

あの日の面接もやり直しか!
本当についてないや!
あ~ 早く店舗の様子を見に行かないと!

 

あなたは、店の状況が気になって仕方ありません。
退院のその足で、新規オープン予定の原宿店に直行し、
又、新宿店と池袋店を回ります。
留守の間の状況を詳しく聞き、又、気になるお客様や
仕入れ先等、一通り連絡を済ませました。

まあ何とかやってくれているみたいで良かった! 一安心だ!
疲れたな!

入院で体がなまってるのだろう、やっぱり疲れるなあ!
食料調達して家に帰るか!
家が一番くつろげるからな、、、

あなたは3LDKのマンションに帰ってきました。
あ~ 久しぶり!
荒々しくネクタイを取り、スーツをクローゼットに
掛けて、パジャマの楽な格好になります。

19階のマンションのカーテン越しに
ビルの合間に沈んでゆく赤い夕日が見えます。
帰ってきたか! 良かった!やっぱし我が家が一番だ、、、
ふと窓ワクに目が行きます。

あれ?

なんだこれ? 植物? 2つも!
それも、枯れかけてるじゃないか! 汚い植物!
でも、何でこんな物がここに?
え~? 俺 こんなの買ったかな~? どこで?
思い出せない、、、明日、捨てよう!

それまでの間、水くらいやってもいっか!
あなたは、
コップに水道の水を汲んで2つの鉢にやりました。


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翌朝、
いつも通り目覚まし時計の音で、起こされます。

3LDKの19階のマンションのカーテン越しに
朝の陽ざしが刺し込んでいます。

寝起きのホットコーヒーを飲みながら、
あ この2個の植物!
左の1個に花が咲いてる!もう一つも元気になっている。
昨日夜には2個とも枯れかけていたのに?
変な植物だな? もう少し様子を見てみるか
捨てるのも面倒だし!
ゴミの日も何時か分かんないしな、、、、

 

あなたは、いつも通りネクタイを締め、仕事に出かけました。

忙しい毎日が続いています。
あなたは若き経営者です。色んな事に良く頑張って来ました。

そして、事故から1ヵ月が経ちます。
昔の友人が、あなたのマンションに集まって
騒ごうということになりました。

今まで、そんなことは無かったのですが、
あなたの復帰祝いとかの口実で、昔仲間が集まることになりました。
昔仲間と言っても、職場で知り合ったアルバイト仲間3人です。
あなたが、美術店のアルバイト以前に職場を点々と
していた時に知り合った、気の合った友人たちです。悪友?

あなたが、成功しても、そんなこと全く関係なしの連中です。
以前のあなたの殺風景な男部屋時代からの友人です。

このマンションに移ってからも、何度か尋ねてきたことがあります。
あなたに取っては、大切な仲間達であることは間違いありません。

 

3人が連れ立ってやってきました。
部屋の中をきょろきょろ見渡して、いいよな~
俺もこんなマンションに住みたーーーーい!
部屋中を子供のように走りまくっています。

お~ 相変わらず育ててるな!
あなたは、はあ~?

直ぐに、持ちよりの食料とアルコール類をテーブルに広げ、

やろうぜ! あーーー!
くつろぎながらの4人でのパーティーが始まりました。

次の日は休日です。


 

職場復帰、おめでとー! かんぱーい!

ところでお前、あれから体の調子、どう?
まあ、
相変わらず頑張ってるみたいだから、問題なさそうだけどさ!

ああ、調子はいいんだ! だが頭が少し痛くてさ。
交通事故の後遺症ってやつだよ!

だけど、本当にそれくらいで済んでよかったな!
お前、死ぬところだったみたいだから。

一人死んだしな!

・・・
・・・

え!  今、いま、  何て?

お前が事故した時、1人死んだ! お前は助かったけどさ!
本当に、ついてたよ!

 

死んだーーーーーー!?

 

あなたの大きな声でみんなびっくりしました。

死んだって、誰が?

3人が顔を見合わせて、、、お前知らないのか?

若い女が車にはねられて死んだんだよ!

ほぼ、即死だったみたい!

お前、本当に知らないのか!?

・・・

で、どんな女なんだ?

どんなって言われても、俺たちも分かんないけどさ
歳は、確か22,3だったかな、、、、
報道はなかったから、聞いた話だけどさ。

横断歩道に急に飛び出してきたとか?
ただ、信号は青だったから、
運転手はその場で逮捕されたらしいけどさ。


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パーティー後、皆は引き上げていきました。
ですが、あなたは、友人たちが話した内容が
気になって仕方ありません。

大きなショックを受けたのは間違いありません。
あの横断歩道で、あの事故で、人が死んだ!

俺は運良く、助かったのか!
急に飛び出した女が、車に引かれて死んだ!
信号が青だったにせよ、飛び出した女が不運だったのか!
青信号で何故、飛び出す?
先を急いでいたのだろうか、、、、、?

どちらにしても、俺は運よく助かった!
良かった、、、、、

 

ただ、思いもしなかったことを聞かされて、
心が動揺してしまったのです。
正直、それまで、自分の事しか考えていませんでした。
事故そのものに興味がなかったのです。
迷惑としか思っていなかったのです。
仕事が忙しくて、そのことばかり考えて、、、
過去に起きたことなど、どうでも良かったのです。

色々考えている内に、
アルコールも入ってか、ベットに倒れると直ぐに眠ってしまいました。


 

翌朝、目覚まし時計のベルで目を覚まします。
今日は休日か!
俺! 行かないと! 出かけないと、、、

でも、、、どこへ?
どこ? 何しに?

仕事は今日は休みだし、特に用事などないはずだ、、、
いくら考えても、行き先はありません!

今日はゆっくり家でくつろいだ方が良さそうだな。
あの事故以来、本当に忙しかった。
6日間の穴埋めのため、激務が続き、
それもやっと、ひと段落付いたみたいです。。
体を休めよう!休息も必要だ!

3LDKの19階のマンションのカーテン越しに
朝の陽ざしが刺し込んでいます。

寝起きのホットコーヒーを飲みながら、窓の外を
見ています。窓辺に目が行きます。

 

あれ?
右の植物にも花が咲いてる!
2つの鉢に並んで薄紫の花が咲き、
カーテン越しの朝の光に照らされて輝いています。
あ~ キレイ!

花か~ 俺、花なんて何も知らないな!
桜とかタンポポは知ってるけど、、、めちゃ苦手!
あっ!チューリップも知ってる。。。。

久しぶりにあなたは、机に向かい腰を降ろします。

俺、前に、この椅子に座ったの何時だっけ?
忙しくて、ここに座ることもなかったな。
もう、ず~っと座ってない。

あなたは、椅子にゆっくり腰を掛け、
一呼吸して、
何気なく右の一番上の引き出しを開けます。

えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!

なんだこれ! このゴミ! 落ち葉! 汚ない!
ハンドのエアークリーナーが、
確かクローゼットの中にあったはず。
よし! 掃除だ!

 

あなたは、直ぐに立ち上がってクローゼットに行き
扉を開けます。
何着ものスーツを手でかき分けて、床にあるクリーナーを探します。

バサッ!

その時、一着のスーツがあなたの頭にかぶさるように
落ちてきました。

なんだ、なんだ、スーツか、、、煩わしい奴!

え? このスーツ、
あの事故した時に着ていた分じゃん!
そのままになってたのか、、、これも処分しないと、、、

念のためにポケットをチェックしてみます。

両サイドのポケット、右内ポケット、何もありません
最後に、左内ポケットに手を入れます。

 

う! 何かある、

 

ポケットに何か入ってる! 何だろう?

何よ、なに、なに、、、、、、えっ!
あなたは自分の、目を疑います。

・・・

ピンクのハンカチ!
嘘! 何でこんなものが入ってるんだ~?

ピンクのハンカチを持って、首をかしげながら机に戻ります。
一体ど~なってるのよ? こんな物が、、、

頭が混乱してきます。
俺! なんで? こんなピンクのハンカチを、、、、、?
これって女物じゃん! 女物が俺の内ポケットに、、、

何で?

誰かが間違えて入れた! そうとし考えられない!
でも、誰が?
ひょっとすると病院で、、、?
イヤ、その可能性はゼロではないが、考えにくい、、、
病院関係者が患者の私物に勝手に物を入れるなんてこと
あり得ない!

じゃあどうして??

女物!

女のハンカチ! ピンクのハンカチ、、、、

・・・

まさか、あの事故の時の、死んだ女の物とか?
それが、何で俺の内ポケットに、、、?
どう考えても無理がある。事故とは関係ない、、、、!
勿論、死んだ女の持ち物との関係もない、
あり得ないか!

じゃあ、 なんで、どうして?

残る答えは1つしかない!
俺のハンカチだから、

始めっから俺の内ポケットに入っていた!
そう考えると、全てつじつまが合う!
つまり、これは俺のハンカチで、俺が入れたもの!

ピンクのハンカチが俺の物!!!?

 

ちょっと待った!

うううううううう、、、俺、そんな趣味はないはず、、無理!

じゃあなんで、、、、、、

考えれば考える程、あなたの頭は混乱していきます。

あれ? このハンカチ何だか湿っぽいや!
クローゼットの中の湿り気かな~
イヤ、そうじゃないみたい、、、、、
何よ、この赤い染み?

あなたは何気なく、ピンクのハンカチに顔を近づけます。
生温か~い、何とも言えない甘ったるい匂いが、
あなたを包み込んでいきます。。。。。。

 

あ~、、、、、 この匂い、、、、何だろう?
でも、、、どこかで、、、、、どこよ?

これって汗の匂い、、、?
汗の匂い、、、、、、でも刺激的な匂いだ、、、!
ハンカチから漂う香りが、あなたの脳の中に浸透していきます。

その時です、
交通事故の後遺症で残っている右横頭部の痛みが

「ドッ!」と

突き刺し、あなたはそのショックで
椅子から弾き飛ばされて、更に床でもう一度、頭を強打します。

「ドン!」


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あっ!

一瞬、右横頭部に激痛が走りました。

痛い!
丸太の橋の一方の地面に、頭を打ち付けたのです。
一瞬、目がくらみました。

ハッ!

彼女! 彼女が!

丸太の橋が崩れて、岩の谷間に消えました!
あ! 落ちた。

彼女が谷へ落ちた! 丸太ごと!

直ぐに、谷の上から下を除きます。

あああああああああああああああああああああああああああああああああ!

丸太が見えます!
そして、そして、
その丸太の横に彼女が、うつ伏せで横たわっています。
あなたは、慌てて、まるで狂ったように、
谷肌を滑り降りていきます。

何ということだ! 大変だ! 彼女が谷底へ落ちた!

 

大丈夫かーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

 

あなたの心臓は破裂しそうです!
頼む! 頼むから、、、無事でいてくれ!

頼む! 無事で、、、、

必死で彼女の元へ近寄ります。

うつ伏せの彼女を、そっと起こします!
外見には大きな傷はありません。
その美しい顔は、まるで微笑んでいるようです。
その閉じた瞳からは、
涙が一筋、白いほうを流れ輝いています。

 

大丈夫か? 大丈夫か?
何か言ってくれ!
頼む! 頼むから! その瞳を開けて、俺を見てくれ!

 

頼むから、大丈夫だと言ってくれーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!

 

頼むーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーう!

 

彼女は息をしていませんでいた。

いくら俺が叫んでも、二度とそれに応えてはくれませんでした。

 

わあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

 

あなたの泣き声が、森の中に響きます。

俺を! 俺を!

独りにしないでくれーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!

 

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