(前回ストーリー) 森での出来事 転校生(5)眠れない夜

ムシ子は亀井信孝に向かってゆっくりと歩いていきます。

・・・ ムシ子? やめろ!

・・・ お前が出て行ってど~なるんだよ?

おい! ムシ子、お前、ど~しよってんだよ?
そう言いながら、俺は、ムシ子の後について行きました。
あ~ 怖そうな奴らばっかし、、、

・・・

な~ この状況って、めちゃめちゃヤバいぞ!
ムシ子! お前、今何考えてるんだよ?

私にもよく分かんない!
でも、このままじ~っと見ていられないわ、、
村長が、ひょっとして危ないかもしれないんだよ。。。
このまま、ほっておけって言うの、、缶コーヒー!
村長は今、命懸けで村を救おうとしているんだよ!
家族思いで、村人思いの村長が命を懸けて懸命に頑張っているの。
見て見ぬ振りなんて私には出来ない。

そ~だけどさ、あいつらは本物の侍で武装してるんだぞ!
本当の刀を持っているんだぞ!
弓矢だって槍だって全て本物なんだぞ!

それにあの顔を見てみろ!
あれは俺たちの世界の人間の顔じゃあない!
怖すぎじゃん! あの目つきを見ろ! 普通じゃない!
まともな表情じゃあない! 殺気立ってる。
本当に何されるか分かんないんだぞ!
殺されるかもしれないんだぞ!

ムシ子の足は止まりません。

あ~ これだからな~ 、、、
何でお前はいつも、そんなに大胆なんだよ!

遂に、村長の居る処を通り過ぎて亀井信孝の前に出ました。

浴衣姿のムシ子の長い黒髪が風で揺れます。
ムシ子は亀井信孝の顔をじ~っと見つめています。

亀井信孝の鋭い目がムシ子の顔をにらみます。

その時です、
亀井信孝が急に馬から飛び降りて、右手を大きく後にかざし
大きな声で叫びました。

者ども! 控えるのじゃーーーーーーーーーーあ!

・・・ ?

亀井信孝はムシ子の前に片膝をつき頭を深々と下げました。
すると、他の侍たちも皆ガチャガチャと鈍い金属音を立てて
同時に馬から降りて、
亀井信孝と同様に頭を下げてひざまずきました。

お方様!

この身のご無礼、どうかお許し下され!

————————————————– (前回まで ↑)‐———————–

亀井信孝はムシ子の前に片膝をつき頭を深々と下げました。

・・・ ? ぇ~、、、、

俺はムシ子の直ぐ後で戸惑いながらささやきました。

、、おい、今、お方様って言ったよな?

ムシ子! こいつ完璧に変だ!
お方様ってだれよ?

ふ~む? だれなんだろう~? ムシ子もそ~言って俺と顔を合わせます。

変な空気に包まれていきます。 なんなのこの状況、、、?

・・・ ?

缶コーヒー、
この人たちど~しちゃったの?
バカ! 俺に聞くな!

浴衣姿のムシ子の長い黒髪が風で揺れます。

私がお方様~ ふ~む、、、、?

亀井信孝以下何十人もの侍がムシ子の前に深々と地面にひれ伏しているのです。
信じられない異様な光景です。
水戸黄門よりすげ~

・・・

お市様! ここにいらっしゃいましたか!

戦況は我らの不利にございます。
お市様は一刻も早くこの領地からお逃げくだされ!

お市様~?

えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!(この人なに言ってんの~?)

お市様って誰のこと~~~~~~~お、、、、(誰だろう? ひょっとして私に言ってるの~?)

俺はムシ子の耳元でささやきました。
お市様って、柴田勝家の嫁さんじゃんか?

お前いつ結婚したんだ? 昨日来たばっかしじゃん。
おい! ムシ子! こいつ、馬から落ちて頭打ってんだぜ!
あ~ イヤーな予感してきた。

なんだか めちゃめちゃヤバそう。。。
理由なんて知らないけどさ、こいつらお前の事をお市様だと思ってるぞ!
信じられない歴史的な誤解をしてるみたいだ!
ムシ子~ そろそろ、、、逃げた方がいいぞ!
絶対にヤバイって!

・・・ 

当て身コレクション

ムシ子は何かをじ~っと考えています。
、、、、

頭の中を整理しているようです。
なにかを考えてる!
ムシ子は、
俺が想像もしないとんでもないことを、とっさに思いつくのです。
ムシ子の悪い癖です。

・・・

・・・

・・・

おいおいおい、、、、
な~ ムシ子! まさか、ひょっとして、お前、
又、めちゃヤバイこと、やろうなんて思ってないよな。。。

・・・

・・・

・・・

ムシ子が亀井信孝に向かって毅然とした態度で言います。

亀井信孝と申したな!

なにゆえじゃ!

なにゆえ、わらわがお市と分かったのじゃ?
この姿を見て何故にお市と分かった?
申してみい!

(おい!ムシ子、わらわ って何よ?)
(お前、さっきから変な喋り方になってるんだけどさ?)

・・・ (亀井信孝が深く頭を下げます。)

ハハーーーーーーーーーーーーーーーーーーア! 

お方様が内々に目立たぬように 茶々様、初様、江様を城から
外にお逃がしなされたと聞き及んでございます。
その事情もさることながら、我ら家臣、誰もが、
例えどのように お方様が変装なされようと、
そのお美しい姿を忘れる者など決してござりませぬ。

(ドキドキ 私の事を美しいだなんて、嘘でも嬉しい)

お市の方様!

殿はお市様の身を心から案じておられました。
また、なんとしてもお方様を逃がしたいと願われております。

・・・

・・・ ムシ子が、じ~っと考えています。。。

・・・ なにを考えてるんだよ。。。。おい

・・・ イヤ~な予感、、、

・・・ あ~ ヤバイ ヤバイ ヤバイ 何かがおっぱじまる~ ムシ子、やめろ~

・・・

そ~か

亀井信孝! そなた、わらわの頼みを聞いてはくれぬか!

ハハーーーーーーーーーーーーーーーーーーア! 何なりと!

この村の食料はこれ以上取り上げるでない!
この村人たちは、わらわの恩人じゃ!
よいか!

ハッ ハーーーーーーーーーーーーーア!

ムシ子は俺をチラリと見て、言いました。
ここに居るは、わらわの付き人で缶コーヒーと申す、護衛役じゃ!
のんきな性格で、言葉遣いが変だが、よく役に立ってくれる家臣じゃ。
粗末に扱うでない!
よいな!

(はあ~? 俺ってバカじゃん)

ハッ!

では、わらわを早う城にあないせ~!

亀井信孝が一瞬動揺して身に着けた武具をカチカチと揺らせました。

・・・ し~ん

・・・

・・・ 亀井信孝の返事がありません。

ど~した? わらわを早う城にあないせ~と申しておるのじゃ、、、

・・・

お方様! ・・・
恐れながら、そればかりは、、、、、出来ませぬ!
今申した通り、殿はお方様に逃げ延びてほしいと思われています。
殿はお方様を心より慕われていらっしゃるのです。
その思いは我らが家臣とて同じ。

どうか、どうか殿の願いをお聞き入れくだされ。
なにとぞ、なにとぞ お願い申し上げます。
お方様が無事、安全な地へ移られるまで、
ここに居る我ら家臣、命に代えてもお方様をお守りいたします。

ならぬ!

亀井信孝!
表を上げ~ 皆の者も表を上げるのじゃ
よいか!
わらわの顔をよ~く見るのじゃ、、、、、

・・・

亀井信孝はじめ約30人の戦国武士達がゆっくりと一斉にその顔を上げ、
そして、すぐさま顔を伏せて前以上にひざまずきます。

ハッ ハーーーーーーーーーーーーーア!

何を聞いておるのじゃ!
わらわの顔を見よと申しているに!
わらわの顔をよ~く見て、これから話すことをよく聞くのじゃ!
よいか!

ははーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

広場に居る戦国武士が全員表を上げてムシ子と向かい合いました。

ムシ子の後ろで、
缶コーヒーが武士たちの鋭い目つきとド迫力に圧倒されているようです。
そんな息使いが伝わってきます。

よいか、皆の者、よく聞くのじゃ。
今は戦乱の世じゃ!
武士の命はもとより農民の命とて明日の命はままならぬ。
我が殿、勝家殿とて同じこと。
それが、今のこの世の定めなのじゃ。

わらわは勝家殿を心よりお慕い申しておる。
その勝家殿は皆のような忠実な家臣を持って幸せぞ、
だがな、殿とて家臣あっての殿じゃ。
わらわは勝家殿の正室じゃ、ならば、わらわとて家臣あってのお市のはず。

わらわの命はここにいる皆と伴にあるのじゃ、
お市の命は皆の命ぞ!
殿と家臣を置いて わらわが生き延びたとしても
その人生に何の意味があると申すのじゃ。
そんな人生は死んだも同前ぞ!
わらわはそんな生き方はしたくない。もうしたくないのじゃ!

今の戦況は柴田家の不利かもしれぬ。
だが勝敗は時の運、ど~なるか分からぬではないか。
もし勝利の神が柴田家に味方するならば、
逃げた わらわはもう2度と殿や皆のもとへは帰れぬ。。。。

だが、例え敗れたとしても、
わらわは柴田家の人間として死ぬことができるのじゃ。
この命が絶えても思いは永遠に柴田家のものとなるじゃろう。。。
どうか わらわを勝家殿の妻として死なせてはくれぬか。
皆の親方様の妻、お市の方様として死なせてはくれぬか。
それが、わらわのこの上ない願いなのじゃ。

・・・
当て身コレクション5 FINAL DESTINY
・・・

いつの世か遠い将来に平和な世が訪れて、
この戦乱の世に生きた柴田家の勝家殿や、多くの家臣やわらわのことが
人々によって語られ思いを巡らせられる日がやってくるであろう。
その時、柴田家の人間がどのように乱世を生き抜いたか、
その生き方、死にざまに敬意を称して語り継がれることと信じたいのじゃ。

きっと茶々や初や江が語り継いでくれようぞ。

どうかわらわを殿やみなの者と伴に居させてくれぬか。
お市は柴田家の人間であるぞ!

皆の者、この通りじゃ、、、、

そ~言ってムシ子は皆に向かって頭を下げました。

お、お方様ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

お市の方様ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

亀井信孝はじめ約30人の戦国武士達全員が腕を顔に当てて
涙を何度も何度もぬぐっています。
声をこらえてあちこちですすり泣く声が聞こえてきます。

亀井信孝!

わらわを城に、、、、城に戻すのじゃ!

・・・

・・・

・・・

亀井信孝が肩を震わせて地面に両こぶしを握って伏せています。
甲冑に覆われた背中が泣いています。

お方様ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

生きてくだされーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!

うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!(男泣き)

・・・

・・・

・・・

ムシ子はゆっくりと亀井信孝に近づき腰を落としました。

ムシ子の白い手が亀井信孝の厳つい肩に掛かります。
そなたの思い、そして皆の思い、このお市、永遠に忘れはせね。
かたじけの~思っているぞ。

だが、ならぬ!

このお市の命は皆と伴にあるのじゃ! よいか!

・・・

わらわを城に戻すのじゃ!
勝家殿はもう直、城に戻られる。
殿を迎えるのは わらわの使命ぞ!

亀井信孝!

ハッ!

そなた、
殿がわらわに逃げ延びてほしいと言ったな。
教えてやろう。殿の本心を!
勝家殿は わらわと伴に永遠に居たいと思っているのじゃ!
殿とわらわの心は一つなのじゃ。
その心を引き離すと申すのか!

わらわを城に戻すのじゃ!

・・・

わらわは支度をしてまいる!
ここでしばし待っておれ!
見慣れぬ姿で現れるが気にせずともよい。。。。

・・・

ははーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

・・・

ムシ子の悠々と又さっそうとした態度と風格は
この命知らずの戦国武士たちをも圧倒し制してしまいました。

缶コーヒー、参るぞ!
ははーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

ムシ子はその黒髪をなびかせて戦国武士を後にして悠々と歩いて行きます。
まるで、その美しい姿は輝くオーラに包まれているようでした。

俺は、ムシ子が本当のお市の方様だと完全に錯覚してしまう程でした。

村長の家の中に入って来ました。

俺は、後ろの木戸をバタンと締めました。

次の瞬間、
ムシ子の足がふらついて、倒れそうになり、俺はその体を
しっかりと両手で抱きかかえて支えました。

ど~した?

ムシ子! 一体、ど~したんだ、急に倒れそうになって。。。
どこか体の調子でも悪いのか? 気分でも悪いのか?

・・・

・・・

ムシ子の体が震えています。
おい! 寒いのか? ムシ子!

俺はムシ子の顔を見つめました。

ムシ子は、何か言いたげにしているのですが、声になりません。

なんだ? 何が言いたい?
落ち着いて言ってみろ、ゆっくりでいいから、
なんでも言ってくれ。

ムシ子は深呼吸を何度かして、声にならない声で言いました。

缶コーヒー!

なんだ、ムシ子!

私ね、わたし、、、、

うん! ど~した? ゆっくりでいいぞ、言ってみろ。

私、私、すっごい、怖かった!

怖くて、怖くて、おしっこが少し漏れたかもしれない。

はあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

お前が、怖いだとーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーお!

嘘だろう~!

さっきのお前! あれ、なんだったんだ。。。。?
怖くてあんなこと平気で言えるのか!

嘘を言うのもいい加減にしろ! バカ!
俺の方が恐ろしくて、怖くて気絶寸前だったんだからな。
ず~っと震えてたんだからな!

あのな~ あんな怖い相手を何十人も目の前にして
お前って奴は、どこまで大胆な奴なんだ!

全く呆れてものが言えね~よ!
なのに、怖かったなんて、 信じられね~!

缶コーヒー、
でも私本当に怖かったんだよ。
だって、まだ体がこんなに震えてるもん。
分かるでしょう。
ほら心臓だって、こんなにドキドキしているわ!

そ~言ってムシ子は俺の片手を取って胸にくっ付けました。

ムシ子の鼓動がめちゃめちゃ乱れて激しく打っているのが伝わってきます。

え~~~~~~~~~~え! これって心臓の鼓動?

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

まるで何かの機械のバイブレーションの様です。
ムシ子の体もまだ激しく震えています。
唇も震えています。

・・・

そ~か~ ムシ子!
本当に怖かったんだな、お前!
よし、だが、もう安心だ! ゆっくりと深呼吸をするんだ。
いいな、さあ、大きく息を吸って ゆっくりと吐くんだ。
さあ、もう一度、、、、、、、さあ、もう一度、、、、繰り返すんだ!

でもさ、ムシ子!
なんでお前が、お市の方様なんだよ?
訳がわかんね~?

そ~ね。
私だって最初は分からなくって困惑してたわ!
亀井信孝に、お方様って言われて本当にびっくりしちゃったんだよ。
でもあの人が冗談でそんなことを言うはずないって思ったの、
だから、あの時一瞬考えちゃったのよ。何故なんだろうって?

そ~言えば、お前あの時考えてたな!
で、考えた結果ど~だったんだ?

・・・

うん!
缶コーヒー、笑わないでよ!
あのね、
お市の方様と私は瓜二つで似てるのよ!
30人の侍のだれが見ても、私がお市の方様だと思う程に似てるのよ。

はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

お前が、お市の方様と瓜二つだと~!
まさか、そんな~
お市の方様といえば戦国一の美女と賞されてんだぞ!
あり得ない!

あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
ちょっと、缶コーヒー、それってど~いう意味なのよ!

(シマッタ、 ヤバ!)

・・・

アイクィットベリーパンチ 地上最強の腹パンチ大戦

・・・

い、いや、いや、
ゴメン! ゴメン! 悪かった、そんな悪い意味はないんだ。
お前だってキレイで可愛いさ! 本当だってば!
ただ、お市の方様と瓜二つって言うのがさ~。。。。ちょっと。
そんな偶然が本当にあるのかな~ってさ。。。

俺は先ほどの表での出来事を思い出していました。
そ~言えば、
亀井信孝が言ってた言葉に、
お方様が例えどのようなご身なりをされていようと
そのお美しい姿を忘れる者などござりませぬ。って。

てことは、やっぱし、ムシ子はお市の方様とそっくりなのかもしれない。

・・・

あの時、ムシ子は、亀井信孝に対して聞いた。
何故に、わらわがお市と分かったのじゃあ?
この姿を見て何故分かったのじゃ?
申してみい!

あの辺りから、ムシ子の喋り方が急に変わり、お市の方様になり切ったのか。
なるほど。
それに俺はムシ子は本当に奇麗だと思う。
色白でスリムで、すっきりした目鼻立ちはキレイそのものだ。
さっきあり得ない!とムシ子に言ったけど、
俺としたことが完全に失言だった。

・・・

だけど ムシ子は高2で、若すぎる!
お市の方様といえば確か36~7歳とかムシ子が言っていたような気がする。
ただ、お市の方様は20歳代に若く見えていたとか。。。
仮にそ~だったとしてもムシ子との年齢差はありすぎる。
何故なんだろう? う~む、、、、、わかんね~

・・・

ムシ子が俺の顔を覗き込んでいます。
缶コーヒー、私があなたの疑問に答えてあげる。

(ドキ!)

あのね、私が高2なのに37歳のお市の方様と何故間違われたのかはね、
時間のずれのせいだと思うの。

私は高2でもう少しで17歳。
お市の方様は37歳で、私との年齢差は20歳。
でも文献によればお市の方様は23歳くらいに見えていたと言われてるわ。
となれば、見てくれの年齢差は6歳だけだわ。
その差は時間のねじれが作っているのよ。
そ~考えるとつじつまが合っちゃう。

顔については、
きっと似ているのよ。
それは多分偶然だと思うけど。

・・・

なんだ、お見通しかよ!
お前って、なんで俺が考えていることが分かるんだよ!
信じられね~
でもさ、お前の推測が合ってると俺も思うよ!
そ~考えるとつじつまが合うもんな。。。

・・・

缶コーヒー、
あなたが私の事をど~思ってるか知らないけどさ、
亀井信孝は私の事を、
お方様が例えどのようなご身なりをされていようと
そのお美しい姿を忘れる者などござりませぬ。って言ってくれたわ!

私、亀井信孝のこと、好きになっちゃいそう!

あの人けっこうイケメンだしさ!

おい! ムシ子ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーお!

なによ?

にらめっこ! くっ! うっ!

ところでさ、お前! さっき言ってたよな!

ここでしばし待っておれ! って

みんなを待たせてるのと違ったっけ!

あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

だった! 急がなくっちゃ!

学生服に着替えなくっちゃね!
セーラ服のお市の方様か~!
缶コーヒー、着替えるところ見ちゃったらぶっ飛ばすんだからね!
あっち向いててよ!

お前だって俺のを見るのナシだぜ!

・・・

浴衣を丁寧に折りたたんで囲炉裏の横に置きました。

すると、その時
村長と奥さんが菊ちゃんを連れて戻ってきました。

村長と奥さんが私の顔を見るなり、家の土間に深々と頭を下げて伏せて言いました。

お市の方様!
お市の方様だとも知らず、大変にご無礼を致しました。
どうかこの度の私どものご無礼、お許しください。
申し訳ありませんでした。

え?

缶コーヒーと私は一瞬顔を見合わせましたが、
直ぐに村長夫婦のそばに駆け寄っていきました。

村長さん、それに奥様、
どうか頭をお上げください。お願いします。
さあ、どうかお顔を上げてください。
私たちは皆さんに本当に感謝しています。
本当にありがとうございました。
皆さんと過ごせたこのひと時は本当に心に残りました。

私はこれから、ある事情があって、お市として城に行きます。
恐らくもう皆さんとは会うことはないと思いますが、
皆様の事は決して忘れません。
どうかこれからも皆さんで協力し合って頑張って生きていってください。

缶コーヒーが言います。
奥さん、
奥さんのおかゆは本当に美味しかったです。
お渡ししました薬を塗って早く怪我を治してください。
本当にお世話になりました。

菊ちゃんが、おねえちゃん!もう行っちゃうの?
もう一緒にお風呂入れないの?
そ~言って私に抱き着いてきました。
私はそんな菊ちゃんをしっかり両手で抱きしめました。

・・・

菊ちゃん、
お姉ちゃんはね、菊ちゃんの事をず~っと忘れないよ!
いい、よく聞いてね!
菊ちゃんのお父さんとお母さんはね、とっても立派な人なんだよ!
だからね、菊ちゃんもお父さんやお母さんを大切にして
言うことをよく聞いて立派な大人になるんだよ! いい!

うん!

おねえちゃん、おにいちゃん、
菊は2人が大好きだよ、だから
行かないで、ず~っとここにいて。。。。

・・・

私はその言葉で涙が滲みだし菊ちゃんの体を更に強く
抱きしめてしまいました。
忘れないよ!菊ちゃん。ず~っと、ず~っと忘れないわ。
皆さんの事、決して忘れません。
私は村長と奥さんの手をしっかりと握りしめました。
本当にありがとうございました。
決して忘れません。

村長が言いました。
もったいないお言葉です。
お市様! 缶コーヒー様
この村を救ってくださって本当にありがとうございました。
このご恩は一生忘れません。

お市様と缶コーヒー様のお召しになられた浴衣は私どもの家宝として代々伝えてまいります。
そして村での、この出来事を後の世に語り伝えてまいります。
どうかご道中くれぐれもお気をつけられますように。

缶コーヒー、
じゃあ、行こうか! 自転車持っていくよ。
カバン前にくくりつけて。

おう!

亀井信孝!
待たせたな!
それでは、これよりわらわを城へ連れて行くのじゃ! よいか!

ははーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

ムシ子は、又、あっという間に、お市の方様になり切りました。
信じられな~~~~~い! なんて奴なんだ!

・・・

セーラ服のお市の方様と学生服の護衛役か、、、、

・・・

亀井信孝と家臣達は一瞬私たちの学生服姿に面食らった様子でした。
ただ、今の状況下ではどんな服装でも、ある程度納得せずにはいられません。
初めて見るセーラ服が彼らの目に一体どのように映っているのでしょうか?
私たちの自転車は米の荷車に乗せられ、その同じ荷車に私たちも乗りました。

缶コーヒーが私の耳元でささやきました。
ムシ子、お前!
よくもそんなにコロコロと喋り方や態度が切り替えられるわな!
感心するよ!
お前! 演劇部にぴったりだぜ!

ムシ子が俺の顔をじ~っと見つめて言いました。

缶コーヒー、
そなたは、わらわの護衛役じゃろ、
しっかりと辺りを見張っておるのじゃぞ、よいか!

ハイハイ!
護衛役になり切れって言うんだな。
分かってるって。。。。

・・・

でもさ、ムシ子!
お前! なんだかすっごい風格があるよな、
なんでそんなになり切れるんだよ! 信じられね~

・・・

缶コーヒー、
そなた、先ほどより何を申しているのじゃ
ムシ子とはなんじゃ?
物の名か? 人の名か? どちらにしてもおかしな名じゃ!

・・・
鳩尾の底
・・・

おい! ムシ子!
お前! 何言ってんだ!
ムシ子ってのはお前の名前だろうが! 俺がつけたあだ名だ!
俺をからかうのもいい加減にしろ! 
お市になり切るのはいいがな、
2人だけの会話の時くらいはいいじゃんかよ?
声も小さいし周囲の侍たちには分かりっこね~!

・・・

ムシ子が不思議そうに俺の顔を見つめます。
じ~っと見つめています。

一体 何だって言うんだ!
俺の顔がそんなにおかしいか?
それとも、何か顔に付いているのか?

・・・ ?

ムシ子の瞳が俺を見つめたまま、俺の何かを読み取ろうとしています。

・・・ ?

なんと美しい顔なんだ!
キレイすぎる!
ムシ子ってこんなに魅力的で憂いがあって、輝いてて、
本当に、まぶし過ぎる。
やはりムシ子が言うようにムシ子とお市は瓜二つなんだろうと思いました。

・・・ ムシ子の長い黒髪が風にまわっています。

缶コーヒー、
そなた、今なんと申した。
お市になり切るとか申したな。

何を申しているのじゃ、なり切るとはど~いう意味じゃ?
わらわはお市じゃ!

・・・

・・・ ?

だからさ、あいつらにバレなければいいじゃんか!
無理してそんなじゃべり方することないだろう。。。
俺たち2人だけの間でわな!

・・・

そなたどこか具合でも悪いのか?
案ずることはない、なんなりと申してみ~

・・・ ?

分かった分かった。。。
ハイハイ、お前は本物のお市の方様です。
じゃあ、俺も本物の護衛役になり切るからさ、、それでOKなんだろ?

お~け~(OK)とはなんじゃ?
本物の護衛役? 、、、 にせの護衛役がおるのか?
缶コーヒー、
心を乱してはならぬ! そなたは強い!
己にそ~言い聞かせるのじゃ、よいな!

・・・ は~~~~~~~~~~~あ、、、、ムシ子、お前変だぞ~~

・・・

・・・ 何かが、、、、変だ。。。。

・・・ う~む

・・・ ????? でも、、、、

・・・ ひょっとして、、、

・・・ まさか、、、

・・・ いや、そんなこと、、、

・・・ あるはずない

・・・ いくらなんでも、、、じゃあ

・・・ 試してみよう

・・・

お方様!
この荷台に積んでいる、この自転車をご存じですか?

ムシ子が俺の指さした自転車を見つめています。

しばらく、じ~っと見つめたままで、不思議そうに
細い真っ白な指で金属のフレームに触れました。

・・・ その美しい指がフレームをなぞっています。

・・・ 不思議そうな表情です。

・・・ これって演技、、、、、? そこまで必要?

・・・ 首をかしげています。

・・・

・・・

知らぬ!

缶コーヒー、
これはなんじゃ?
これが、そなたが先ほどから申しておるムシ子と申すものか?

よくできておるのう~
して、これは何をするものじゃ?

わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

嘘だろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーお!

・・・ ムシ子じゃない!

・・・ 俺の頭は完全に混乱してしまいました。

ここにいるのは本物の、歴史上に実在するお市の方様だ!
ムシ子じゃない!

・・・

直感的に分かりました。
俺の直感なんて、あてには出来ません。
自分でも分かっているのですが、ですが今回だけは違います。
これは本物のお市の方様だ!
そ~確信しました。

・・・

今俺は、あの名高いお市の方様と一緒に居る。。。。
戦国一の美女と賞されるお市の方様が俺と並んで荷台に乗っているなんて。。。。。。
歴史の教科書にも出てくるお市の方様と俺は今一緒に居るんだ。
それも、目の前に居る。

・・・ こんなシチュエーション受け入れろって言うのか。。。

でも、
噂通りの超美人だ!
歴史で言ってるのは嘘ではない!
この優雅な風貌、甘く漂う魅力、言葉で表現できないほどの美しさだ。。。
これがあのお市の方様か!

・・・

・・・

じゃあ、
一体ムシ子はどこに行ってしまったのだ?
ど~う考えたらいいのだ。。。。? う~む。。。。
ムシ子に聞こうと思っても、いない!

俺は自分なりに一生懸命に考えました。考えて考えた結論は、、、

それは、

ムシ子の体に本物のお市の方様が入ってしまった。
理由;わかんね~

缶コーヒー、
これはなんじゃと聞いておる?

ははーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

これは自転車と申す乗り物でございます。

なに? これを乗り物と申すのか?

はい! さようでございます。

お市の方様は、本当に不思議そうに自転車を見つめています。
細い指先で尚、各フレームをなぞっています。

して、どうすれば乗れるのじゃ?

はい、自分の足でこのペダルという処を踏みますと、
この2つの輪が回転して前に進みます。

そ~か、
じゃあ、城に戻ったら わらわに乗り方を教えてくれぬか?

は、はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ! かしこまりました。

楽しみじゃの~。
そ~言ってあどけない表情を浮かべ俺に微笑みました。

あ~ この愛らしい微笑み、高校の帰り道でムシ子が自販機前で
ホットティーを手にして浮かべたあの微笑と全く同じだ。

間違いない!
ムシ子の体にお市の方様が居るのだ。
これはムシ子でお市の方様なんだ!

 

ところで、缶コーヒー、
そなたには家族は居るのか?

はい! 父上と母上がおります。(俺は出来る範囲でしゃべり方を合わせました)

そ~か。。。。。。

お市の方様は、しばらく遠くの景色を見つめていました。
何かに思いをはせている風でした。
数台の荷車と侍たちの列は河原に沿った土手沿いの道を進んでいきます。
荷車の進む音と馬の足音、侍たちの甲冑の音が聞こえます。
取り囲む侍たちは全て武装した戦国武士です。本物です。
その武士たちが、俺の目の前に居るお市の方様を守りながら
進んでいるのです。

・・・

・・・

缶コーヒー

はい、お方様!

今から申す事、よく聞くのじゃ!
ははーーあ!

城の近くで降りるのじゃ!
そなたの、わらわの護衛役を解く!
父上と母上の元へ戻るのじゃ!
皆にはわらわが命じたと申す!

お方様!
何をおっしゃられます。私はお方様の護衛役でございます。
いかなる時もお方様をお守り申し上げるのが私の使命でございます。
そのようなことは出来ませぬ。
どうかそればかりはお許しください。

ならぬ!

お方様!
なにとぞ、なにとぞ私にお方様の護衛役を勤めされてください。
お願い申し上げます。
缶コーヒーの生涯のお願いでございます。
お願い申し上げます。

缶コーヒー、
そなたの心は十分に分かっておる。
じゃがな、死ぬことはない! 生きるのじゃ!
城に入れば死ぬ!
わらわの分まで生きるのじゃ!
生きて欲しいのじゃ。

もうわらわはこれ以上家臣の死を見たくはないのじゃ!
戦乱の世とは言え、
忠義のためと申して多くの大切な命が散っていく。
何故じゃ!

・・・

侍の領土争いのために家臣の命を犠牲にすることが
そんなに美徳だと申すのか?
家臣だけではない、多くの民を犠牲にする大儀とはなんじゃ?
そなたは、わらわとあの村で一日を過ごしたではないか?
あの農民たちの願いはなんじゃ?
村長殿やその奥方、菊の顔を忘れられようか。。。
あの者たちの願いは、
ただ僅かな平穏な日々の暮らしを望んでいるだけじゃろ。
なのに、その願いさえも侍の大儀で奪おうとしているのじゃぞ!

・・・

缶コーヒー、
そんな侍の大儀のために死ぬことはない!
命を粗末にするでない!
少しでも長く生きて父上と母上をいたわり
そなたは、世のため人のために生き抜いて欲しいのじゃ。
あの村の村長殿のようにな。
そなたの及ぶ範囲でよい。
死ねば、それさえも出来なくなってしまう。

・・・

今の世で、生きることは死ぬよりも苦しいじゃろう。
死は悲しみでしかない、だが生きることは夢と喜びもあろうぞ!
わらわは、そなたに夢と喜びの道を選んでもらいたいのじゃ!
長きにわたり、わらわの護衛役、ご苦労であった。
このお市が、そなたに報いることは、そなたの護衛役を
入城前に解くことなのじゃ!
分かってくれるか、缶コーヒー

・・・
腹パンチ危険すぎるトレーニング
・・・

俺の胸にとんでもない何かが突き刺さったように思えました。
俺はこの時代では単なるお方様の護衛役という家来の身分です。
お方様とは天と地との身分差があるのです。
それなのに、お方様は俺と同じ目線に立って話をされ、
更に俺の将来をも案じて道を示してくださる。
なんという崇高な人なんだろう。

・・・

お方様~~~~~~~~あ! あなた様は、、、、、

・・・

俺の目から涙が一斉に流れ出しました。
後から後から涙が湧き出し、
ほうを伝わって荷台の木の色が変わっていきました。

なんというお方なんだ!
これが、お市の方様!
心の優しさ美しさがその外見の美しさに表れているのだ!
こんなに素晴らしい人がこの世に居るのかと俺は思いました。

・・・

そして、武士でない現代人の俺でさえも
この人を命がけでお守りしたいと思いました。
あの時、
村で亀井信孝たちを前にして悠々と話した、あのお方も、
あれは本当のお市の方様だったのだと確信しました。

あんなに怖い目をした何十人もの武士が涙を流してひれ伏したのです。

・・・
間違いない!
あれはお市の方様だ!
・・・

そして俺は、この時、
このお市の方様を命がけで守ると決心したのでした。
例え、お市の方様から護衛役を解かれたとしても、
俺はこの方をお守りしたい。 そ~決心しました。

ただど~しても気になるのは、やはりムシ子の存在です。
ムシ子の体にお市の方様が居るといっても。
じゃあムシ子はど~なってしまったのだろう?

う~む、、、、、、、、、

考えられるのは1つしかありません。
お市の方様がムシ子です。
見た目にはお方様はムシ子と同じなのですから。。。
つまり、お方様の中にムシ子が居る。
当初は、ムシ子の中にお方様がいたのが、徐々に移り変わって
今は完全にお市の方様になってしまったと考えられるのです。

・・・

そんなことがあるはずは無いと思うのですが、
そ~考えないと理屈に合わないのです。

もともと、
ムシ子と俺がこの戦国時代に居ることが信じられないことなのです。
何故なんて考えるのは無意味です。
分かりっこないからです。
なら、この現状を受け入れて進むしかありません。
俺はこのお市の方様を守り抜いて見せる。
そ~決心しました。

・・・

と、その時です。

どこからともなく風を切るような鋭い音が聞こえてきました。
次の瞬間、バビュン! と音が鳴って
1本の矢が俺たちの荷台の上に刺さりました。

・・・

うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

・・・

俺は思わずビックリして飛び上がってしまいました。
矢は勿論本物です。
荷台に刺さった矢の柄がブルブルブルっと震えて音を発しています。

・・・

こわーーーーーーーーーーーーーーあ! 危ないじゃん!
怪我をしたらど~するんだ! 一瞬、そ~思ったのですが。
待てよ! 俺は何?
そ~だ、、、、、この時のために俺がいるんだ!
先ほどまでの事を振り返りました。
俺はお方様の護衛役なんだ!

俺は命に代えて、お市様をお守りする。

直ぐに俺はお方様の体を自分の体で包み込みました。
お方様の盾になったのです。
お方様を守らねば! 死なせてはならない!
俺が絶対に命がけで守って見せる!

・・・

敵襲ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーう!

亀井信孝の大きな叫び声が響き渡ります。

・・・

お方様をお守りするのだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
荷車をかためろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーお!

・・・

亀井信孝の命令で10騎程の馬にまたがった武士が我々の荷車の周囲を取り囲みました。
お市の方様をお守りしているのです。

前田軍だ! 50騎はいるぞーーー!
家臣の一人の叫び声が聞こえました。

・・・

城に向かって一気にかけ抜くぞーーーーーーーーーーーーーーーーーお!
亀井信孝の号令で荷車がものすごい勢いで走り出しました。

ガタガタガタガタガタ、、、、、、ガタガタ、、、

俺は荷台の柱をしっかりと握って、お方様の体を自分の体で
包み込みました。

お方様!
私の体をお掴みくだされ!
この缶コーヒー命に代えてお方様をお守り申し上げます。
荷車が狂ったように飛び跳ねます。
お市の方様が俺の体にしがみついて来ます。
こんな俺を歴史的な有名人であるお市の方様が
頼ってしがみついているのです。全く信じられません。

矢がものすごい勢いで飛んできます。
すさまじいごう音の中で荷台の木に矢が何本も突き刺さります。

・・・

ガタガタガタガタガタ、、、、、、ガタガタ、、、
シューッ、 シュー バビュン! ガタガタガタ、、、シュパ!
カン ストン、、、、、シュー バビュン! ガタガタガタ、、、

・・・

お方様をお守りするのじゃーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

無数の矢の中を柴田軍が進みます。
矢は荷車を守っている侍に命中し侍は一人ひとり馬から投げ出されていきます。
馬に乗った侍は何本もの矢を体に受けながらも、
それでもなお必死にお方様を守ろうとしています。

うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
信じられない!

合戦のど真ん中に俺が居るなんて、、、、、
それも本物のお市の方様が俺にしがみついている!
これは、夢なんかじゃない!
理解できない事はいっぱいあても、これは今現に起きていることです。

荷車を守る兵士の数が段々と少なくなっていきます。
それでも、なお猛烈な勢いで荷車は走り続けます。

ガタガタガタガタガタ、、ドンドン、、、、ガタガタ、、、

と、その時です。

ドーーーーーーーーーーーーーーーーン! 荷車が大きく傾きました。

大きな音と衝撃のもとに
お方様と俺は地面に投げ出されてしまいました。

荷車の片方の車輪が外れたのです。

一瞬、
俺はお方様の体を抱きかかえたまま地面に転がりました。

くーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーう!

痛てーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!

と、思ったのですが、実際には、
痛くない! なんで~?

柴田家の家臣がお方様を守ろうと馬から降りて輪になって
俺たちを取り囲みました。

幾本もの、 長い刃が輝いています。

前方より一斉に武士の集団が刀を振りかざして
こちらに走ってきます。

うおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーお!

何十人もの戦国武士が大きなかん声を発して走ってきます。
その甲冑のカチャカチャという不気味な音が段々とこちらに近づいて来るのです。

・・・

うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
ど~なるんだ~~~~~~~~~~~~~あぁ~

・・・

信孝!
刀じゃ!

ハハーーーーーーーーーーア!

すぐさま2本の刀が荷台の上に置かれました。 大刀です。

缶コーヒー
これを使うのじゃ!

そ~言って、お市の方様は、シュ! と刀を抜いて前に構えました。

・・・
ヒロインボディーブロー4
・・・

俺も同じように刀を抜き構えようとしました。 が、
え、えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!
重い!
こんなに重い物、ど~やって使ったらい~んだ! マジかよ~

・・・

直ぐに前田軍と柴田軍は激突しました。

・・・

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

・・・

前田軍の侍がなだれ込んできます。

・・・

カチン どば! バシュ カチン ガチン グサ シュッ
ガン どばん しゅ ズサ ドン カチン バシュ カチン
しゅ ズサ ドン カチン ガン どばん しゅ ズサ

・・・

前田軍と柴田軍の壮絶な戦いが繰り広げられます。
すさましい、切り合いです。
殺し合いです。
刀と刀が重なり合って火花を散らし、ものすごい音が鳴り響きます。
本当に人間が刀で切られています。
切られた体から血が噴き出しています。 うわ~ 信じられない!

すっごい!

凄すぎるーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーう!

血が飛び散って、辺り一面が真っ赤に染まっていきます。
俺やお方様にも血しぶきが飛んできます。
まさに合戦のど真ん中に居るのです。
凄みのある声がぶつかり、命を懸けた殺し合いが繰り広げられます。

・・・

ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
ウオーーーーーーーーオ! うぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

・・・

切られた侍の叫び声が響きます。
何という光景なのでしょう。まるで地獄です。
槍が侍の胸を貫き背中に血に染まった先端が突き出します。
もう、まともには見ていられません。

輪になって守りを固める柴田軍の中に、守りを破って
何人もの侍がお方様に切りかかります。

・・・

お方様を守らねば!
絶対に死なせてはならない!
うおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーお!
声だけは大きいのですが、俺は直ぐによけられてしまいます。
あ~ 防げない!

・・・

何人かがお方様に切りかかります。
お方様は構えた大刀で カチン! カチン! と敵の刀をハネ返します。

すっげーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!
お方様の剣さばきは半端ではありません。

味方の侍が守りの輪の中の敵を一瞬にして切り殺しました。

・・・

何をしておる守りに敵を入れるでない! 亀井信孝の声が響きます。
お方様を守り抜くのじゃーーーーーーーーーーーーーーあ!
良いか!
おーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーお!

・・・

前田軍約50、迎え撃つ柴田軍20少々、、、、

戦況は明らかに不利です。

ですが、
少しずつ戦況が変わって行くのが目に見えて分かります。

・・・

前田軍の数は圧倒的に勝っているのですが、
柴田軍の強さは更に勝っているのです。

・・・

強い!

・・・

同じ侍でもこんなに違いがあることを俺は初めて知りました。
特に、亀井信孝は目を見張る強さです。
きっと剣の達人に違いありません!

何人かかっても亀井信孝を倒すことは出来ません!
数人が同時に一瞬で切られてしまいます。

徐々に前田軍の数が減っていきます。
辺り一面に切られて倒れた侍のむごたらしい姿が横たわります。
血を出して死んだ者、うめき声を上げる者、
こんな地獄絵がこの世にあるのでしょうか。
これが実際の戦国時代なのか!

・・・

お市の方様が言われていた通りです。
大儀のために多くの命が散っていく!

もうわらわはこれ以上家臣の死を見たくはないのじゃ!
侍の領土争いのために家臣の命を犠牲にすることが
そんなに美徳だと申すのか?

お市の方様はこのような光景を何度も目にして来られたのだろう。
そのたびに深く心を痛められ、
そして真に平和な世を夢見てこられたのだ!

と、その時、
引けーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!
という掛け声で前田軍は一気に足り去っていきました。

亀井信孝を先頭に何人もの侍が走り寄ってきました。
全身に返り血を浴びて甲冑から血がポトポトと流れ落ちています。

・・・

お方様ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

お市の方様ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

お怪我はござりませぬかーーーーーーーーーーーーーーあ!

・・・

わらわは無事じゃ!
みなの働きでこの通り、どこも怪我はしておらぬ! 安心せ~
みなの者!ここでのこと、このお市生涯忘れぬぞ、、心から礼を申す。

怪我を負った者の手当を早よ~するのじゃ、
この争いで散った柴田家の家臣を思うと無念じゃ、
そう言って倒れた家臣たちに両手を合わせ深く頭を下げました。
ですが、敵方の侍に対しても同様に深く頭を下げました。
そして、
その目から何本もの輝く涙が地面に落ちて行きました。

・・・

亀井信孝が言いました。
缶コーヒー殿!
肩に矢が!

そう言われて、
ふと見ると、2本の矢が左肩と左腕の付け根に刺さっていました。
俺はその矢を右手で抜き取り地面に捨てました。

大丈夫です。お方様をお守り申したまでのこと。
痛みもなど感じません。 本当でした。
忘れていたのですが、
この世界では時間のねじれのため俺は傷ついたり死んだりしないとムシ子に言われていました。
実際にそ~でした。

・・・

と、その時です。
走り去った前田軍が大勢を整えて又走り寄ってくるのが見えました。
かなりの人数です。
前より多いかもしれません。

亀井信孝と他の侍が一斉に刀を抜きます。

・・・

お市様!
ここは我らが前田軍を食い止めます。
城までこの道を真っすぐ半里でございます。
何としても城にお戻りくだされ!
缶コーヒー殿、
お市の方様をどうかお守りくだされ! 頼み申した。

お市の方様が言います。
亀井信孝! みなの者、決して死ぬでないぞ! よいか! 約束じゃ!

ははーーーーーーーーーーーあ! ではゴメン!
そ~言って亀井信孝と他の家臣たちは敵に向かって走って行きました。

・・・

俺は荷台から直ぐに自転車を引きずり下ろしました。
自転車は全く壊れていませんでした。 よし大丈夫だ!

お方様!
先ほど申しました自転車でございます。
これに乗って城に向かいます。
お方様は私の後ろに脚をまたいでお座りくだされ。
私がペダルを踏んで走ります。

一瞬、お方様は戸惑った様子でしたが、俺の言う通りに
後ろの荷台に乗ってくれました。

これでよいか?

ハッ!

・・・

では、参ります。 よし、いくぞーーーーーーーーーーーーお!

・・・

自転車が動き始めると、
お方様が後ろから俺の体に腕を巻き付けてしがみついて来ました。
後ろの様子は見えませんでしたが、お方様のあまりの驚きの表情が
想像できます。

なんせ、しがみつく手の力がまともではありませんでした。
戦国時代の女性が自転車に初めて乗ったのです。
無理もありません。

自転車の後ろから多くの侍たちの争う声が聞こえてきます。
刀と刀がぶつかり合う音が鳴り響きます。
先ほどと同じような生き地獄が展開されているのです。
多くの武士が大儀のために殺し合い命を散らしていきます。
その声でお方様は今きっと涙を流しているに違いありません。
俺の背中にくっついて泣いていらっしゃるでしょう。
それを思うと俺の心も痛みました。

・・・
腹パンチ
・・・

どこから敵が襲ってくるかも知れません。
俺は力の限りペダルを踏みこんで全速で北ノ庄城を目指しました。
こんな展開が待っていようとは夢にも思いませんでした。
歴史上名高い本物のお市の方様を自転車の後ろに乗せて戦国時代を走っているのです。
勿論、お市の方様の中にはムシ子もいます。
俺の頭は混乱状況です。何が何だか分かりません。
今はただ城を目指すのみです。

・・・

と、その時です。
前方に10人程の敵が現れました。

・・・

え! 嘘! ヤッバ!

弓を構えている。

・・・

ピシャ!
一斉に矢が放たれました。

あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
ヤバイ!

・・・

俺はハンドルを切って矢をかわそうとしました。
するとその時です。
ハンドルがくるっと回って土手道から外れて横の草斜面に向かって
自転車が猛スピードで下って行きました。

・・・

ザザザザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーア! ど~したらいいんだ?

あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

加速するーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーう!

なんて急斜面なんだーーーーーー!

止まらなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!

・・・

自転車が転倒すると大変です。
俺は、ハンドルを固く握りしめて土手の急こう配を
一直線に進みます。

・・・

お方様の俺の体に回した両腕に力が掛かって、体をぴったりとくっ付けて
しがみついて来ます。
その顔は背中にぴったりと密着しています。

きっと想像できないほどの恐怖なのだと思いました。

お方様を守らなねば!
俺はお方様を守ることだけを考えて必死で操作しました。

・・・ ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーア!

・・・ え?

うわーーーーーーーーーーーーーーーーあ!  嘘だろう~

あれ何? 前方に何か見えます。

・・・

石だ! いや、大きな 岩だ!

・・・

あんな大きな岩にぶつかったらど~なるんだ? 大怪我だあ!

いや! 死ぬ! 100%

でも、
止まらねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!

あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

激突寸前にお方様の両腕を握りしめて、思いっきりペダルを蹴りました。

ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!

・・・

・・・

・・・

・・・

・・・ ぅ

・・・

・・・ ピク

・・・ ぅ、、、、、

どれだけ時間が経ったのか分かりません。。。。

う~ 、、、、、、、、俺は目を覚ましました。

どこだ! お方様、、、どこにいらっしゃる。。。。キョロキョロ

・・・ お方様~ 、、、、

・・・ お市の方様~ 、、、、、

・・・

あっ! あそこだ、、、
3m程離れた斜め下の草むらに、お方様が横向きに倒れています。
俺は必死でお方様の元に駆け寄りました。

・・・ どうか、どうかご無事でいてください。

・・・

お方様!
お市の方様ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

俺はすぐさま、お方様を守る態勢で敵の襲撃に備え、
土手の上を見上げ構えました。

絶対にお方様をお守りするのだ! この命に代えてお守りする!
それが俺の護衛役の使命だ!

この人を死なせてはダメだ!

・・・

・・・

・・・

・・・

・・・、、、、、、え?

・・・

見上げた土手の上に敵の姿はありません。
そればかりか、
辺りの景色が先ほどと違っているのです。
こ、これは?

・・・ これは、、、、、、?

・・・ ?

ここはどこだ? 一体ど~なってる?

・・・ ここは、、、、、?

辺りをキョロキョロ見渡します。
向こうにビルが建っています。
工場の煙突が見えます。 電柱も電線もあります、、、、

・・・

・・・ まさか、、、、、、

・・・ もしかして、、、、

こ、ここは、
戦国時代じゃないーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!

・・・

俺たちの居た世界だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
間違いない!

戻って来たのか!
戻れたんだ!

・・・

ムシ子と俺は戦国時代から現代に戻ってきたんだ。。。。

戻ってきた! 戻って来たんだ~~~あ、、、 信じられない!

あ~ ムシ子! ムシ子! ムシ子!

起きるんだ! 早く目を覚ますんだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

早く目を覚ませって言ってるだろう! ムシ子!
そ~言って俺はムシ子の肩を揺らしました。

するとムシ子は、

う~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~う~ っと言う

微かな声を出して目を少し開けて俺の顔を見つめました。
ムシ子は両手で腹部を押さえていましたが、
俺はそんなムシ子の体を思わず両手でしっかりと抱きしめてしまいました。

ムシ子、戻ってきたぞ! 俺たちの世界にな。。。。。
やっと、やっと戻れたんだ。。。。喜べ、な、ムシ子!
しっかりするんだ!

・・・

ムシ子は、腹を押さえたままで周囲をゆっくりと見渡しています。
そらな、俺たちの世界だろ!

・・・

・・・

・・・ ?

・・・

ムシ子!
やっと俺たち、元の世界へ戻って来たんだよ!
周囲を見てみろ! 
あの白い建物、俺たちの学校だ!
町の建物だってそのまま変わってない!
あの橋だって木製じゃあないだろう。。。。
橋の上に自動車がいっぱい行き来してる。元のままだ。。。
俺たちは元の世界へ戻れたんだよ~。。。。。

・・・

やった~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~あ!

やったぞーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーお!

・・・

そ~言って俺は、
その場で両手を高々と空に向けて立ち上がり遠くの家並みを見つめました。

良かった~、
本当に、よかったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
全くひどい目に合ったぜ!
だが、戻れて本当に嬉しいぜ!

・・・

あ~本当によかった~
けどさ、お市の方様は、あれから一体ど~なってしまったのだろう?
心配だな~
俺って間違いなく、お方様に心を引かれちまったよ。
あんな素晴らしい女性っていない!

正直、俺は
お方様のためなら死んでもいいって思ったからな!
俺の命を掛けて守ろ~って思った!

・・・

・・・

・・・

缶コーヒー!

なんだ! ムシ子!

・・・

ここはどこじゃ?

そなた、先ほどから何を喜んでおるのじゃ?
わらわの心配をしておるのじゃな?
なら安心せ~、
わらわは、ここにおるぞ!

・・・

・・・ は~

・・・

・・・

え!
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!

・・・

まさか、まさか、、、、、
こ、ここに居るのは、お、お市の方様!

・・・

えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!
お、俺は、、、、
本物のお市の方様を戦国時代から、この現代に連れて来たってのか~!

・・・

本物のお市の方様!

・・・

ムシ子、いや、お市の方様は
その場に立ち上がり坂を登って行きました。
俺も直ぐにその後を追いかけます。

お市の方様は足を止めて橋の上の自動車を指さして言いました。

缶コーヒー、
あの動いているものは何じゃ?
わらわはあのような物を今まで見たことがないぞ!

・・・

うっ わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
ど~したらいいんだ~~~~~~~~~!

 
ヒロインボディーブロー2
 

夢と幻想の森