前回ストーリー ⇒ 森での出来事 転校生(11)人格の切り替え(高2の小5)


横峯さんの別宅の前にタクシーは止まりました。

日本庭園に囲まれた和風の立派な建物でした。

缶コーヒーがキョロキョロと辺りを見渡して言います。
へ~ これが別宅なんだ!すっげ~
じゃあ本宅ってもっとすごいのかな~

俺んちと全然格が違うわ、、、!

俺、何か緊張して来たぞ、本当に茶道の作法も知らずに
こんな処に乗り込んで来て、俺たち大丈夫なんだろうな!

おい! ムシ子! ど~なんだよ?
お前、緊張しないのか?

缶コーヒー、慌てるでない!
昨日も申したであろうに、
茶は楽しむためにあるのじゃ、
それ以上の何物でもない!

えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!

お方様なのーーーーーお!

お市様でいらっしゃいますか。。。
申し訳ありませぬ!

・・・

いつの間に、変わられたのでございます。
タクシーの中では、ムシ子でありましたから、
気が付きませんでした。

よい! 気にすることはない!
今、人格の切り替えを済ませた処じゃ。
そなたは、わらわに付いて参るが良いぞ!

は、はーーーーーーーーーーーーーあ!

お方様、なにとぞお言葉には少々お気遣い下されませ。
分かっておる!
そう、難しいことを言うでない!
楽にやればよいのじゃ、、、

は、はーーーーーーーーーあ!

( なんだか気になっちゃうな~? 本当に大丈夫?)

正面玄関を入り、
枯山水の岩がそびえ立つ庭を横目に見ながら、
奥の建物の入り口に到着しました。
中年女性の案内係が丁重に2人を迎えてくれ、
茶室へと案内してくれます。

長い廊下を歩いて行きます。

枯山水の庭の向こうに、
ラベンダーの花が咲き乱れているのが見えます。

ラベンダーの花か!
わらわの時代には無い花じゃの~
じゃが、何故か心惹かれる美しさじゃ、、、

横峯殿はラベンダーの花がお好きと見える。
恐らく、心の深いお方と見るぞ!

それにしてもお方様、すっごいところでに来てしまいました。

そ~か?
安土桃山城は、もっとすごいぞ!

は?

こちらでございます。(案内係)
どうぞ、お入りください。

かたじけない!

・・・・? (案内係が一瞬お方様を見つめました)

茶室には既に10人程の男女が座っていました。

私たちを見て、何故か少し驚いた風でした。
俺はともかく、

お方様の風貌を見て唖然としたに違いありません。
その美しさは勿論ですが、この時代にない風格と
品位ある姿は格別のものでした。


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何やら隣同士で俺たちの事について話している様子です。

お方様は廊下から入った処で一旦膝を落とし正座をされて
丁重に挨拶をしました。

今日の茶の湯の席にお招き頂き誠に嬉しゅうございます。
私は、野々村美沙と申します。
こちらは、私の友人の新藤マサキさんです。

いつも両親がお世話になっております。

今日は私の父と母に代わりまして、
私たち2人が参上いたしました。
どうかよろしくお願い申しあげます。

そ~言って、お市様はゆっくりと頭を下げました。

新藤マサキです。
今日はよろしくお願いいたします。
そ~言って、頭を下げました。 ペコ

・・・

お待ちしておりました。

さあさあ、どうぞこちらにお座りください。

私は、横峯秀正と申します。
穏やかな雰囲気の50歳代と思われる
男性が和服姿で迎えてくれました。

野々村さんには色々とお世話になっております。
私の方こそよろしくお願いいたします。

野々村さんに、
こんなにご立派なお嬢様がいらっしゃったとは
実に驚きました。

・・・ あの~ 俺も居るんですが、、、

お市様は、ゆっくりと立ち上がり案内された席に
歩いて行き座りました。

俺はその時思いました。
お市様の体から輝くオーラが出ている。
ただ歩いて座る、それだけの仕草の中に、
優雅で、ゆいゆいしくて、きらやかで、上品で、
重みがあって、女らしい光を放っているのです。

その風格はすごいものです。

正しく、戦国一の美女、お市の方様が現代に出現したのです。
その姿を見て、驚かない者はいないでしょう。

空気がパ~っと明るくなっていきます。

それだけではありません、
ただお方様がそこに居るだけで、何かを制圧してしまう
そんな感じを受けてしまう程でした。
一瞬、皆が静まり返ってしまいました。

横峯さんが、茶を点て各人が茶道の作法に従って
順番にいただいていきます。

お市様は、最後から2番目で、俺が最終です。

間違いなく、そこに居る全員がお市様を
注目しているのに間違いありません。
振袖姿に戦国の世の女性の髪形です。
みんながお市様の茶の作法に注目しています。

そんな中、お市様は、少し前に出られてお茶をいただきます。

茶器を両手に持って一気に飲み干しました。

・・・

うっわ~ すっごい!
豪快な飲みっぷりです。

・・・

通常の決められた作法など全く関係ありません。

みんなは、唖然としてその飲みっぷりを見ていました。
どんな上品ないただき方をするのか興味深々だったはずです。
それをお市様は一気に破ってしまったのです。

・・・ し~ん

・・・・ お市様は一息入れて言いました。

憂いを秘めた茶じゃの~
人を想う わび茶か!

横峯殿、そなたの想い、よ~く伝わった!

誠に美味しい茶じゃ・・・

さすがに横峯さんは驚いて、手が止まったままでしたが、
気を取り直したように、言いました。

・・・

お見事でございます!

・・・

俺も最後にお市様と同様に一気に飲み干しました。
お茶の味は分かりませんが、美味しいな~と思いました。

客人はキチッとした茶道の作法を
守っているように見えました。

そんな中、

お市様に2服目のお茶が回ってきました。

1服目と同様に、お市様は茶道の作法を無視して、
一気に飲み干しました。

・・・・ お市様は一息入れて言いました。

時を超える愛の茶、、、
時のねじれを感じる茶じゃ、、、

横峯さんの顔が急変したように見えました。

・・・

横峯殿、そこにある一輪挿しのラベンダーの花は美しいの~
まるで、その花の憂いが、この茶に込められているようじゃ。



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横峯さんは、お市様の顔を見つめたまま言葉を失いました。

・・・

・・・ し~ん

・・・

先生! どうかされましたか?
他の客人の女性が心配そうに、横峯さんに言います。

いえ、

なんでもありません。
心配はいりません、
続けましょう。。。

お市様が横峯さんに言います。

横峯殿、ラベンダーの花の横にある青雲千秋は
どこで手に入れられたのじゃ?

・・・

・・・ 横峯さんが驚いた表情になりました。

・・・

その太刀は浅井長政殿の太刀じゃ、
何故に、横峯殿がお持ちなのじゃ?

・・・

え!

・・・

何故にそれをご存じなんですか?
一目でこの太刀が分かるんですか?

・・・

当たり前じゃ!

・・・

何故に、
長政殿の太刀を横峯殿がお持ちなのじゃと聞いておるに。

・・・ あ~ ヤバそ~

は、はい。
この太刀は我が浅井家の代々伝わる家宝です。
私は横峯を名乗っていますが、元は浅井です。
養子に出たせいで横峯を名乗っています。
今は、浅井の性に戻すつもりです。

とその時、

お市の方様は、胸の扇を抜いて立ち上がりました。

オーラがはじけました。

横峯さんは圧倒されて、お方様を見上げ
思わず片手を後ろに付けてしまいました。

・・・

横峯殿、今なんと申した!
浅井の名を改名したじゃと!
そなた、何を考えておる!
たわけたことを申すでない!

声は大きくありませんが、お市様の迫力は
並々ならぬ、すごいものでした。
戦国の世に生きる女のスゴミが体から吹き出し
相手を圧倒してしまいました。

俺は、一瞬驚いて、

お市様! お市の方様!
ど~か、ど~か、お気をお沈め下され。。。
何卒、何卒、我慢してくだされませ、お方様!
お願いいたします。

・・・

周囲の人がビックリ仰天して、目をパチパチさせて
事の成り行きを見守っています。

信じられない事ですが、若き女子高生のお市の方様が
その場を圧倒的に制しているのでした。

一瞬、お市の方様は興奮されましたが、直ぐに我に返られて、

横峯殿、
誠に、ご無礼致した。
許して下され。
わらわは少し、頭を冷やして来た方が良いようじゃ。
庭のラベンダー畑を見にまいります。

・・・

さあ、缶コーヒー、参るぞ!

は、はーーーーーーーーーーーーーーーあ!


——————————–ラベンダー畑で


ラベンダー畑を、お市様と2人でゆっくりと歩きました。

缶コーヒー、何を思っているか申してみい!

・・・・

・・・・ し~ん

・・・・

言えぬのか?

・・・・

缶コーヒー、
ど~すれば良いのじゃ?
わらわは、折角の茶の湯の席を台無しにしてしもうた。

横峯殿は、
長政殿と同じ血を引く子孫じゃった。
わらわとも深い縁のあるお人じゃった。

・・・

それを、それなのに、
そんな尊いお方を、
わらわは皆の前で恥を晒せてしもうた!

長政殿はわらわが愛する唯一のお人じゃ。
なのに、
兄信長は、わらわから長政殿を取り上げてしもうた!
じゃが、長政殿の愛があったからこそ
わらわは今まで生きて来られたのじゃ。
人には言えぬ、わらわの胸に秘めた本心じゃ!

 

今思うに、
わらわは、あの時、長政殿と一緒に死ぬべきじゃった!
あの戦火の中、長政殿は最後にわらわに言ったのじゃ!
例え我が身滅びようと、浅井の名は後世に残るとな!

あの時、わらわは長政殿の腰の、あの太刀を抜いて
腹を切ろうとした!
じゃが、わらわの手を握りしめて長政殿が言ったのじゃ、
お市! 死ぬでない、生きよ! とな。。。

・・・

・・・ お市様がラベンダー畑にうつむいています。

・・・

お市様が泣いています。
後姿で見えませんが、
いっぱいの涙を流しているに違いありません。
ラベンダー畑に向かって涙を流しています。
ですが、今の俺には、その涙を止めることは出来ません。

・・・

長政殿~~~~~~~~~~~~~~~~~~お!

どこじゃ、

どこじゃ~~~~~~~~~あ、
殿は何処にいる~~~~~~~~~~~う~

お市を、このお市を、、
殿の元へつれてってくれ~~~~~~~~え!

このラベンダーの花の中に殿がおるのか?

長政殿が、この花の中におるのじゃな、、、

どこじゃ、どこじゃ、

殿はどこじゃ~~~~~~~~~~~~~あ~~~!

会いたい、殿に会いたい

長政殿~~~~~~~~~~~~~お~

殿~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~お~!



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あ、殿がいる。
あそこに、長政殿が立っている。。。。
ラベンダー畑の花の中に殿が立っている。。。

殿がわらわに向かって微笑んでいる。。。。

殿が、わらわを呼んでいる。

殿~~~~~~~~~~~~~~~~~~~お!

・・・・ ヤバイ

お方様~~~~~~~~~~~~あ~!

しっかりなされませ~~~~!

缶コーヒー、
わらわを、長政殿の元へ連れて行くのじゃ!
そなたは、わらわの護衛役ぞ!

頼む! 頼む! 缶コーヒー

わらわを長政殿の元へ連れて行ってくれ!

わらわの生涯の頼みじゃ!

あ、、、この花の向こうで長政殿がわらわを
待っている。。。。

殿~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~お!

お市様は、ラベンダー畑の中に向けて、よろけるように
歩いて行きます。

・・・ ヤバイぞ~

・・・ ヤバ過ぎ

・・・ 何とかしなきゃ!

・・・ ど~したらいいんだ!

・・・

お市様ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

俺はお市様の後ろから、その体をしっかりと抱きしめました。

・・・

お市様の体が震えています。
興奮のあまり息が乱れています。
俺は、お市様の体を後ろから
きつく、力いっぱい抱きしめました。

お方様~

俺の目から涙が噴き出しました。
あ~ お市様~ 可哀そうに、、、

お市様、
なんと哀れで不びんなお方なんだ!
余程つらい思いをされているのだ!
お市様の心中を察すると俺の心は張り裂けそうに痛みました。

・・・

俺なんかには想像も出来ないような苦しみや
つらさを味わって来られたんだ。
そして、それを乗り越えて来られたんだ。

だからこそ、今日のお茶会を
あれ程までに楽しみにしておられたんだ、、、
それなのに、このお茶会で、
これほど大きなショックを受けられるなんて
あまりにも酷過ぎる!

・・・・

缶コーヒー、茶席に戻るぞ!

え?

詫びるのじゃ!

腕を放せ! 痛いじゃろ!

は?

参るぞ!

・・・ あの、、?

・・・ もういいん?

・・・ すっごい回復力、、早~

。。。

茶席に戻ってきました。

皆が、恐る恐るお方様を見つめています。

・・・

・・・ し~ん

・・・ マジ、変な感じ、、、

・・・ し~ん

お方様は、皆の前に正座して、深く頭を下げ
神妙に言いました。

横峯殿、皆さま
誠、ご無礼をいたしました。
心よりお詫び申し上げます。
もし許されるなら、皆様にお茶を一服点てさせて
頂きとう存じます。

お方様は、静かに頭を上げられて横峯さんを見つめました。

・・・

横峯さんは、穏やかな表情で言いました。

それはいいですね。
皆さんもきっと喜ばれるでしょう。
ねえ、みなさん、ここはぜひ私以外の点てるお茶も
いただいてみてはどうでしょう。。。

そ~言って、横峯さんは客人の方を見ました。

・・・

客人のみんなは、無言の神妙な顔つきでしたが、
直ぐに笑顔になって、頭を縦に振りました。

・・・

さあ、野々村さん、
ど~ぞこちらへ、よろしくお願いいたします。

お方様は、横峯さんと入れ替わる形で炉の前に正座しました。

俺にはお茶の点て方は良く分かりませんでしたが、
その動作はゆるやかに迅速でメリハリがあって
鮮やかな動きに見えました。
特に茶筅での手首を使う速さがすっごいと感じました。

みんなが、ため息をつきながら
感心して見入っているのが分かりました。

先ずは、横峯さんに一服お茶を点てました。

横峯殿、ど~ぞ

横峯さんは、
茶器を両手に取り一気に飲み干しました。

え~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~え?

横峯さん、お茶の先生じゃん。
その先生が、お茶の作法を無視して、いいの~?

俺は、そ~思いました。

一息入れて、横峯さんが言いました。

・・・

わび茶の中に
互いの心を強く結びつける思いが込められていますね。
よ~く伝わりました。

・・・

実に美味しい茶です。
お手並み、お見事です。

お市様は、客人1人1人に丁重に茶を点てて行きました。

なんと、驚くことに、
その全員が、一気に茶を飲み干しました。
そして、満足げにうなずいています。

え~ ど~なってるの?
み~んな作法なんて無視してんじゃん!
こんなのあり~?

俺もお市様の点てたお茶をいただきました。
勿論、一気飲みです。

うっわ~! ビックリ!
こ、これって、ど~なってるの?

これがお茶かよ~
美味しいーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!

感動です。

お市様が思いを込めて点てられたお茶の味でした。
その時、俺は茶の湯の意味を悟らされました。

茶の湯は作法ではない!
茶の湯は心を伝えるもの!
茶の湯は心でいただくものだってことが分かりました。

遠き昔に千利休があれ程までに多くの大名の心を
虜にしたのが分かったような気がしました。

俺はこの茶で、お市様の虜にされてしまった。
そ~感じました。

・・・

それはそうと、ここでのこと、
みんなにど~説明をしたら納得してもらえるのだろうか?
俺は考えていました。

ない頭を絞って、あることを思いつきました。

だから俺は、思い切って、

皆さ~ん、
すみません、僕の話を聞いてください。

美沙さんと僕は今高2で高校の演劇部に所属しています。
次の文化祭で美沙さんは戦国時代の、かの有名な
お市の方様の役を演じる予定です。

それで、美沙さんはお市の方様になり切る様に
普段の生活の中でも、その練習をやっています。
先生から、そう言われているんです。

それで、横峯先生にお願いいたしまして、
今回の、このお茶席でもその練習をさせて頂いています。

・・・

・・・ し~ん

・・・ やっぱし、無理か~

・・・ し~ん

・・・ ん?

客人が互いの顔を見合っています。。。
何かを話しています。

その時、
ある中年の女の人が言いました。

で、あなたの役はなんですか?

はい、僕はお市の方様の付き人です。
お方様の家来です。
いつも側にくっついています。

クスクスクス、、、、クスクス、、、

小さな笑いが、段々と大きくなって、
男の人が、

ワハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、と
噴き出すように笑い出し、

すると、それが隣に伝わって、
皆が一斉に大笑いし始めました。

ボーイッシュで男友達みたいな彼女は隠れ巨乳でした! 飲み会とかで盛り上げてくれる面白い女子を半泣きアクメに追い込んだ!

いや~ 横峯先生、
見直しました。こんな傑作はありませんよ!
先生もお人が悪い!
でも横峯先生は、本当に心のお広い方です。ね~みなさん!

・・・ ザワザワザワ、、、ウンウン、、ザワザワ、、

・・・ いい感じの雰囲気じゃん、、、いけるかも

笑いによって、場が急に和やかになり、
温かい雰囲気に変わって行きました。

横峯さんが言います。

いや~ 皆さん、驚かせて申し訳ありません。

いつも硬いお茶の席を何とかしようと思いましてね、
仰天イベントを企画してみました。

笑いのあるお茶会も味のあるものです。
茶の湯の道は作法ではありません。

茶の湯は心を伝えるもの!
茶の湯は心で飲むものだと私もよく分かりました。

・・・ やった~

・・・ 調子いいじゃん、、、

客人の中の1人の中年の男性が言います。

お市の方様、
もう一服、私のためにお茶を点てて頂けますか?

・・・

お方様は、その男性の顔をじ~っと見つめました。
そして、静かにうなずくと、
手際よく茶を点て男性の前に差し出しました。

その風格は何とも言えない程の美しいものでした。
キラキラと輝いています。
オーラが滲み出ているようです。
そのオーラがお茶の中にしみ込んでいきます。

点てたお茶を男性に振舞います。

男性は、ぐ~~~っと、その茶を飲み干しました。
すると、
明らかに表情が、パ~ッと明るくなっていきました。

・・・ 男性は明らかに驚いている風です。

・・・ 何も言えないままお市様を見つめています。

・・・ し~ん

・・・ お市様が男性を見つめます。

ど~じゃ?
勇気が湧いて来たであろう!

その茶は戦国の武将が苦戦の中で勝ち戦へと
乗り出す時のための、

勇気の茶じゃ!

わらわの兄信長に点てた茶じゃ!

そなたは今、困難な状況にあるのかもしれぬが、
必ずそれは乗り切れる!
断じて、負けはせぬ!
その茶の味を忘れず困難を乗り越えて行くのじゃぞ!
よいな!

・・・ 男性の表情が変わりました。

は、はーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

ありがたき幸せ、この茶の味、決して忘れませぬ!
必ず乗り切って見せます!

・・・

周囲の人が、くすくすと笑っています。
高田さん、なかなか演出がうまいわね~え。。。
役者になり切ってるわ! クスクス、、、、

・・・

年配の女性が言います。

お市様、今度は私に一服点ててください。

お市様は、その年配の女性を見つめました。
そして静かにうなずき、茶を点てます。
その手の動きは今までになく早く時間をかけています。
滑らかな心地よい音が響きます。

皆がその華麗で鮮やかな手元に注目しています。

そして、
お市様の美しい、その姿に皆が吸い込まれていきます。
戦国の世にあってこのようにして、
お市様は茶を点てられていたのでしょう。

・・・

お茶が、年配の女性の前に差し出されます。

女性は、作法を付けてそのお茶を飲み干します。

性格のきつそうな表情が、お茶を飲むことによって
う~っとりと和らいで行くのが分かりました。

・・・ ?

えっ! うっそ!

ど~なってんの~

女性の目が潤んでいきます。
ど~しちゃったん?
泣いてるの~? なんでなん? 信じられんわ!

・・・・

分かり申したか?
その茶の和の意味が、、、?
そなたは決して1人ではないぞ!
和の心が有れば、伴に幸せになれると言うことじゃ。
よいな!

・・・

はい、
ありがたきお言葉です、
このお茶の味は生涯忘れません。
頑張ってみます。

・・・・

みんなが、クスクス笑っています。
中江さん、なかなかやりますね~、、、
その気になってますよ!
涙の演出なんてすごいです。クスクス、、、ハハハハ、、

中年の男性が聞きます。

ところで、
お市様は、どこで茶の湯を習われたのですか?

わらわか?
わらわは、茶の湯を習ったわけではない。
利休が安土城に参った時、伴に茶を飲み交わしただけじゃ。
1日中互いに茶を点てておったわ。。。

利休?

利休と言いますと千利休の事ですか?

そ~じゃ、
千利休の茶は心の茶、
それに対して、わらわは無の茶を点ててやった。

心の茶は容易く、無の茶は容易くはない!

わらわは、利休に言ってやった。
心の茶のみだと、いずれ命取りになるぞとな!

・・・

とその時、横峯さんが言いました。

お市様、その無の茶をぜひ点てて頂きとうございます。
ね~皆さん。ど~でしょう。

皆が一斉に前に身を乗り出すようにして言いました。
ぜひお願いいたします。

・・・

お市様は、
皆の顔をじ~っと眺めました。

・・・

よかろう!

・・・

先程のわらわの無礼の埋め合わせじゃ!
無の茶を点ててしんぜようぞ!

ただし、飲んだ後の批評はせずともよい!
それぞれが、胸にしまってその茶の味を持ち帰るがよい。

そ~言うと、お市様は手際よくお茶を点て始めました。

次々とお茶は出されていきます。

飲む前の表情と飲んだ後の表情は、見るからに違っています。
全員がもれなくそ~でした。

俺も、無の茶を一気に飲み干しました。

一瞬、体の中に衝撃が走りました。
これが、お市様の無の茶!

信じられない!

大きな衝撃が体中を突き抜けて、
そして、徐々に空白の世界へと吸い込まれて行くのです。
思考能力が停止状態です。

あ~~~~
まるで自分が赤子になった時のような感覚でした。
汚れの無い、清純で、清楚で、キレイな、うぶな
世界がそこにはありました。
忘れていた世界です。

それは、私たちに何かを訴える味でした。

素晴らしい! 無の茶!

・・・

このお茶会で起こった奇妙なことを、ここの客人が
他の人に話したとしても、先ず信じてはもらえないと
俺は思いました。

あくまでも文化祭の練習の高校生が横峯さんの計らいで
お茶会の席に花を添えたと言うことだけが残るだろう。
そ~思いました。

 

客人は満足をした顔で、
何かを感じながらも、文化祭頑張ってね! お市様!
そ~言って帰って行きました。

お茶会は終わりました。

残った客人は俺たち2人だけになりました。

お方様、
じゃあ、我々もそろそろ帰りましょう!
そ~じゃな!

缶コーヒー、
今日はわらわの為によく頑張ってくれた。
わらわも、この上なく楽しい思いをさせてもろ~たぞ。
礼を申すぞ! かたじけない!

・・・

お方様が楽しんでくださっただけで、
俺は満足です。
自分のこと以上に嬉しく思います。
良かったです。

お方様が、じ~っと俺の顔を見つめます。

・・・ あ~ お方様! キレイ過ぎです。

・・・ 抱きしめたい!

缶コーヒー、
わらわは今一度、ラベンダー畑を見てみたい。

・・・

2人は庭に出て少しラベンダー畑を歩いていました。

・・・

そこへ横峯さんがやって来ました。

お市の方様、
今日は誠にありがとうございました。

俺は言いました。
横峯さん、
もうお市の方様と呼ばなくてもいいんです。
文化祭の演劇の練習に合わせてくれなくていいんです。

・・・

横峯さんが言います。
お市様、改名の件ですが、実際の戸籍は
私の性は浅井です。
法的には正確には改名はしておりません!
ただ、横峯家へ養子に来た都合上、
先方への儀もありまして、一時的に横峯の性を名乗っています。
ですが、先程も申し上げましたが、早い内に
浅井の性を名乗る所存です。

 

浅井秀正!
そなた、性の重みを忘れるでないぞ!
決して軽んじてはならぬ!

よいか!

は、はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

横峯さんは、
地べたに正座し、顔が地面にくっ付く程に
頭を下げてしまいました。

・・・・

もうよい!
頭を上げい!

はっ!

どうぞ、横峯さん立てってください。(俺)
服が汚れてしまいます。

秀正殿、
今日のお茶会は実に楽しかったぞ!
このお市、久しぶりに心癒された気がする!
かたじけない!

じゃが、途中でのわらわの無礼な振る舞い許せ!

お市の方様、
気になさられないようにしてくだされ。
私はお市様にお会いできたことを光栄に存じております。
増してや、お市の方様に茶の湯を振舞っていただいたこと、
この秀正、生涯決して忘れることはございません。
幸せに存じ上げます。

お見事な茶の振る舞いでございました。
感服致しました。

あの~ (俺)
横峯さん、少し質問してもよろしいですか。
先生は、ここにいらっしゃるお方を本物の
お市の方様だと思われているんですか?

あの、マサキさん、
質問の意味が分かりませんが?

ですから、
横峯さんは、この令和の時代に、戦国時代のお市の方様が
本当に実在すると思われているんですか?

・・・

マサキさん、私には事情はよく分かりませんが、
ここにいらっしゃるお方は、お市の方様です。
私には分かります。
私の遠い先祖と縁のあることに間違いありません。
私の血が無条件にそれを教えてくれています。

秀正殿、
不思議なことじゃ、わらわは今日、このラベンダー畑の中に
長政殿の姿を見た!

このラベンダーの花は
時を超える力が秘められているのかもしれんの~
一時、時を超えて、わらわは愛する殿と会えたのじゃ!

秀正殿がわらわに振舞ってくれた茶の湯の味のようにな~

憂いを秘めた茶
人を想う わび茶

時を超える愛の茶
時のねじれを感じる茶

秀正殿、
わらわは浅井長政殿の妻じゃった。
長政殿に愛され、わらわも殿を愛し、
伴に永遠の愛を誓ったのじゃ!

そして今日、このラベンダーの花の中で、
わらわは長政殿と出会えたのじゃ。

ほんの一時じゃったが、長政殿がわらわに微笑んでくれた。
わらわは幸せじゃった。

時を超える愛があった。

絶対に見逃せない腹パンチ不可領域

そなたも、
その愛をいつまでも大切にするのじゃぞ!

は、はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

横峯さんが涙を流しています。
その肩が上下に動いて泣いています。

お市様、
ありがたきお言葉でございます。
ラベンダーの花の意味が今やっと分かりました。
長政殿とお市様がこのラベンダーの花の中でお会いできたように、

私も、

時を超える愛を

このラベンダーの花と伴に、これからも追い求めてまいります。
この私の愛は戦国の乱世の時代から由来しているものでした。
偶然ではありませんでした。見えない糸でつながっておりました。
だからこそ大切にして行きたいと思います。

私は画家です。
この愛を、この深い思いを絵に描きながら、
これから先も探し続け、求め続け、追い続けてまいります。
そして必ずたどり着いて見せます。

無の茶の味を思い浮かべながら、自分に正直に生きてまいります。

浅田秀正殿!
このお市、長政殿と2人でそなたを見ておるぞ!

 

ラベンダー畑の花が輝いています。

 
ZONE-16「恵美子」ファーストコンタクト
 
夢と幻想の森