ソフトテニス秋期地区大会 ダブルス 決勝戦

日の出丘高校  公古谷奈々/水戸静香(組)
秋日山高校   野々村真紀/葉山理恵(組)

現在ゲームカウント 3:3    4ゲームを先取した方が勝ちです。
特別ルール:
ファイナルゲームに限ってはポイントが7ポイントとなります。
サーバーは2ポイントごとに入れ替わり6:6のデュースの場合は
先に連続2ポイント取った方がゲームの勝者となります。


 

ブーン!

ものすごいスピードのボールが理恵の右方に飛んできます。
理恵がカットに入ります。

ですが、カットボールは返しただけでほとんど威力はありません!
素早く奈々が追いつき、更に強烈なボールを理恵の左を
狙って打ち返します。

理恵は素早く反応しまたカットに入ろうとします。
あっ! 間に合いそうにない、、、?
ですが何とか相手コートラインすれすれにセーフで返しました。

そのボールは更に加速されて奈々の回転ボールが
変化球となって理恵の裏をかくように左横に飛んできます。

真紀が後ろから叫びます。

左ーーー!

理恵は上半身をねじってラケットをいっぱいに伸ばします。
ポンという音とともにボールが高めに上がって前衛、静香の前に飛びます。

そのチャンスを待ちかねたように静香が猛烈な
スマッシュを理恵の右横に放ちます。



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理恵は体を更に反転させてラケットを出すのですが、
一瞬のことでボールを追うことが出来ません。

静香のボールは鋭角に地面をとらえます。
後ろから猛烈な勢いで真紀が走ってきてボールをポンと高めに返します。
その返却ボールには球威はほとんどありません。


真紀は直ぐに自分の持ち場に走ります。

奈々が左手をボールに向け構えるとほぼ同時にバシッ!と
真紀の後ろ左ラインすれすれを狙い撃ちします。
真紀は走りながら両手にラケットを握り後ろ方向に
なんとか打ち返します。すごいプレーです。


会場がドッと湧きます。

高めに上がった球威のないボールが奈々の前に落ちます。


バシッ!


強烈な音とともに奈々のスマッシュが理恵の右横方向に打たれます。

 

あっ! 間に合わない!

 

理恵は全速で走りながらラケットをいっぱいに伸ばして
ジャンプします。

 

ラケットの端にボールが当たり跳ね飛ばされてコートの外へ
飛んでいきます。アウト

理恵は地面に着地するのですが、完全にバランスを崩し
一瞬手を付き、体が回転するように地面をころげて、
タイミング悪くベンチの角に腹部を打ち付けました。


うっ!

ラケットが地面をはうように飛び散ります。

うめき声は観客にも聞こえました。

理恵は地面にくの字になって動くことが出来ません。


ゲームポイントは 5:3

日の出丘高校  公古谷奈々/水戸静香(組)5
秋日山高校   野々村真紀/葉山理恵(組)3

となりました。日の出丘高校 2ゲームリードの優性です。

水樹サキと真紀が慌てて理恵のもとに走ります。

プレーは主審によって一時ストップされました。
理恵の腹部は、おへそ当たりにスチール製ベンチの座りの端の角の部分が
一瞬、食い込み、内臓が「ぐちゃっ!」と音をたてました。
強烈な痛みが理恵の腹部を襲い、息をすることきません。
理恵はお腹の中身が間違いなくつぶれたと思いました。

 




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うーーーーーーっ!

 

私はもうダメ! 内臓破裂で死んじゃうんだわ、、、、!

こんなことになって、、、、、

すみません! 水城先生!

ゴメン! 真紀先輩!

今まで本当にありがとう、、、、、、、

おかあさん!

 

理恵の意識はもうろうとして薄れていくのですが、
その向こうから
ラケットを持った白のテニス着姿の誰かわからない人が
近づいてきます。

 

「こらーーーーーーあ! 理恵!」

起きろ!

ここであきらめてどうするの!
あんた私の苦労をどーしてくれるのよ! ちょっと理恵!

え! あなただれ?

理恵はその姿に焦点を合わせます。

あーーーーーーーーーーーーーあ!

理恵だーーーーーあ!

もう一人の私!

また会えた! 会いたかった!

私と同じ姿の理恵が私の体を抱っこして
言いました。

理恵! 負けないで! 負けちゃダメ!
ここで頑張らなきゃ!
このまま止めたら一生後悔する!
まだ終わっていなーーーい!

自分のために負けちゃダメ!

 

理恵は抱っこしてくれてる理恵に首を縦に何度も振って
わかってる、理恵! 私! 負けない!

自分に負けない! 頑張るから!

 

すると理恵の姿がす~っとぼやけてきその顔が
日の出丘高校の前衛の水戸静香の顔に変わりました。
しっかりして! 頑張って! 頑張るのよ!
静香は理恵の体を抱っこしたまま元気付けました。

理恵がトラブルを起こして一番近くにいた静香が
いち早く理恵の元に駆けつけたのです。

 

水樹先生と真紀先輩も駆けつけてくれました。
水城先生は理恵の顔色を冷静に見つめています。
真紀先輩も心配そうに理恵を見つめています。

一瞬の出来事のはずなのに時間がゆっくりと
流れているように理恵は思いました。

 

タンカーが運ばれてきます。

水城先生が2人の救急要員に会釈で合図します。
救急要員が理恵の体を両側からタンカーに載せようとします。

 

その時、
水戸静香が理恵の手首を掴んで無理やり引き起こしました。

「さあ! 頑張って! やろう!」

理恵は立ち上がったのですが、突き刺す腹部の激痛で
またうずくまってしまいます。
静香は理恵にハッパを掛けて言いました。

 

ダメーーー!  大きな声が響きます!

 

そう言って理恵の体を肩で支えてポジションまで運びました。
そこで理恵も言います「大丈夫です!」
私!もう回復しましたから! そう言って、
自分の持ち場でラケットを構えました。

 

大歓声が湧き上がります。
理恵に拍手が寄せられます。

 

おい! おい!
あの前衛の名前なによ?
どっち? 腹の方? 引っ張った方?
両方さ?
すっげーーーーー!



プレー再開のホイッスルが鳴りました。




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ゲームポイントは 5:3 です。
奈々と静香のコンビネーションによる理恵に対する
徹底攻撃の手は緩みません。

 

理恵のトラブルなど無関係です。

ばしっ! ブーン 強烈な奈々のスマッシュが理恵の左右を
めがけて飛んできます。
静香も理恵をめがけて打ち込みます。

光る汗が飛び散ります。

真紀先輩がコートいっぱいに走り、打ち返します。

シュー!っという高速の球が奈々と静香を狙います。

長時間の打ち合いが繰り広げられ、
ゲームが展開がどうなっていくのか誰も想像できません。

 

ただ、
ゲームポイントは 6:3 です。

7ポイント先取でゲームオーバー。

秋日山高校にはもう後がありません。
大ピンチを迎えているのです。

両チームの選手はいずれも、もう体力の限界です。
おそらく立っているのがやっとかもしれません。
全身から流れる汗が両コートの表面の色を変えていきます。

 

もう気力だけの勝負といった感じです。

ポイントは6:3で真紀/理恵側の劣勢ですが、
試合内容は五分五分の勝負です。

普通なら6ポイントの日の出丘高が勝つと誰でもが思います。
ですが、全くそんな空気ではありません。

 

日の出丘高校  絶対に勝つ!
秋日山高校   絶対に負けない!
の対決が続きます。

 

奈々のサービスが豪速球で放たれます。
真紀がそれを上回る速度ではじき返します。

そのボールを奈々が真紀の左横に微妙な距離で思いっ切り
打ち返しました。
明らかに理恵を狙ったボールです。

 

ああ、、、、、っ!

強烈ボール!

一瞬、誰もが決定打と思ったボールです。

理恵は素早く反応し上半身をねじってカットに入ります。

 

あれっ?

 
その時、理恵は不思議に思いました。
ボールがゆっくり飛んでくる、、、、?
なんで?
奈々の振りは今まで以上に大きく見えたのですが、
実際のボールはゆっくり飛んでくる、、、、?
素早くボールに追いつき、
理恵はラケットの中央でボールをカットし真下に落とします。セーフ
理恵側のアドバンテージです。

 
真紀先輩のサーブです。
真紀先輩が今まで以上にボールを高々と上げ、
全身を弓のようにそらしジャンプした状態のままサーブしました。

真紀は「ハッ!」と気合を入れボールを叩きつけます。
バシッ!と音がしてシュー!と飛んでいきます。

静香はレシーブできません。

 

ポイントは6:4

うわーーーーーっ! 先輩! すっごい! なに今の?
あんなサーブが出来るならもっと早く出してよ!

もう1度「ハッ!」という気合で今度は奈々に向けてサーブが
放たれました。さっきのと同じボールです。
奈々が先輩の高速サーブをしっかりとレシーブし、更に勢いをつけて
理恵の右横やや遠めを狙って打ち返します。

真紀に取ってこのサーブは秘密兵器です。
普段は決して出すことはありません。
成功確率40%なのです。
それを2度も出したのですが、奈々には通用しません。

レシーブされた球が豪速球となって理恵を襲います。

 

あーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!

 

理恵が先ほどカットできず転倒したコースと全く同じです。

歓声が上がります!

 

剛速球が近づいてきます。
のはず!

 
ですが、、、、あれ~?

 

なに?、、、、なんなの?

なんで?
どうしてこんなに、ゆるいボールを打ち返してくるの?
私がさっきここで転んだから?
奈々さんは私を気遣ってわざとゆる玉を打ち返してるわけ?


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イヤ、そんなはずないわ!
それにあの振り方は今まで以上に強力だし、私を見つめる
あの目の輝きは真剣勝負そのもの!

 

2連覇の女王が私に本気で襲い掛かっている!
じゃあなぜ?

なぜ、こんなゆるいボールを?


あっ! これってどこかで経験した、、、?

この感覚は、、、確か、、、

はっ! これってあの時の朝のホームルームで

佐藤先生にチョークを投げられた、あの時と同じ。
すっごいスピードだったらしいけど私にはゆっくりの
スピードだった。

 

確かあの時、理恵の訓練は大きな刃物で私の腹部を突き刺し
解剖するような訓練の後だった。
さっき私はベンチの鋭い角で腹部を深く突き刺された。
ベンチの角はスチール性でちょうど内側に曲がっていて
外からは分からないけど内側は、まるで刃物のように尖っていた。
そこに、あの勢いで体が回転し、お腹が斜め上に向いた瞬間に
ベンチの角がお腹を突き刺した。

 
ひょっとして、何か関連があるのだろうか?
ベットの上での理恵の訓練と、、、
お腹の腸の中に何かスイッチのようなものがあって
それがONになって時間がゆっくり流れだしたとか?
まさか?

奈々のボールがゆっくりと近づいて来ます。

理恵は素早く走りしっかりと構えてボールを真正面で受け止め
相手右ラインすれすれを狙って撃ち落としました。セーフ

 

ポイントは 6:5

となりました。

サーブチェンジです。

奈々と静香は何かを伝えあいます。
ゆとりのある表情ではありません。
何かに追い詰められているような厳しい表情です。
理恵のプレーを見て、
二人とも急に険しい表情になったようにも思えました。
水戸静香のサーブボールを理恵が受けます。
素直なボールを素直に返します。

 

何度も何度もボールが両コートを行き来し、
互いが相手のスキを見合っているのです。
後衛の打ち合いです。

なが~い打ち合いが続きます。

秋日山高校には後がありません!
もう1点取られると負けです!
勿論、真紀も理恵もそのプレシャーの中で戦っているのです。
その1点は、もうここまでくれば実力以外の要素で
決まる可能性は十分にあります。

 

つまり「運」です。

ですが、水城サキは「運」は練習量についてくると
教えてきました。

一方、
高木圭三は「運」は実力で掴み取れと教えてきたのです。

両選手とも両監督の教えを守り猛練習に励み
監督を信じてついて来たのです。

その時、奈々が「静香!」と叫びます!

何かが起ころうとしています。

 

奈々が猛ダッシュで前衛の静香とポジションを変わります。
奈々が理恵に全速で走り迫ってきます。
その後ろから静香のスマッシュボールがネットすれすれで
理恵の左横に飛んできます。

理恵は一瞬、奈々に気を取られて目がボールから離れますが、
ボールを見失うことはありません。

理恵は奈々にカットされるのを避けながら、相手方ネット前にポトンと
ボールを落としました。セーフ

1ポイント追加です。

 

ポイントは 6:6  デュース

連続2点先取したほうが勝ちです。

歓声が沸き上がります。
一瞬、みなが総立ちになって観客席がうねりを放ち始めました。

何ということでしょう。
大変な試合になりました。

 

正しく、因縁の試合です。

 

水城サキと高木圭三も立ち上がります。
互いにコートを挟んで向き合います。
水城サキは真っ白なスポーツウエアー姿で片手を胸に
もう一方の人差し指を唇に当ててベンチの前を歩いています。

高木圭三は上下目立たないラフな姿で両腕を組み、
やはり、そわそわと落ち着かない素振りでベンチ前を往復し
何か独り言を言っているようにも思えます。

二人の視線はたまに合うのですが、意識的に直ぐにそらされます。

どちらにしても、二人の心境は落ち着かないのは間違いありません。

 


 

真紀のサーブです。
まるで弓のようにそった美しい体からジャンピングサーブの
鋭い球が放たれます。

そのボールを奈々が猛烈な音とともに打ち返します。
それが、しばらく続きます。

意を突いたように奈々が真紀の逆を突いて左後ろに
ボールを打ち返します。

一瞬ボールはアウトかと思われましたが後ろライン上に
かかりセーフです。

通常なら真紀先輩は迷うボールは全て事前に打ち返し態勢をとります。
ですが、今回は一瞬、遅れたと理恵は思いました。

 

ポイントは 7:6 マッチポイント

 

選手達はもう気力だけで戦っています。
理恵もそうです。
誰が、倒れても不思議ではありません。
もう誰も体力に余裕など少しも残っていないません。
仕草にふらつく様子も見て取れます。
体力の限界は、もうとっくに過ぎてしまっているのです。
もう選手には周囲の大きな歓声も聞こえていません。

ボールだけに全てが集中し、勝敗ですら忘れかけているのです。
そんな試合があるでしょうか?
奈々も、静香も、真紀も、理恵も 4人とも全力を出し切る!
ただ今はそれだけ。

絶対に勝つ! 絶対に負けない! その意味すら忘れて
ひたすらボールと相手の動きに全神経を集中させているのです。

 

自分がどれほど限界を超えているのかも分からない、
ポインも正確には分からない。
ただひたすらボールを追いかけ猛打で返す。
観客の10人中10人がコートの4人が放つオーラに、
その必死な姿に、心打たれているに違いありません。

 

その時です。

 

大きな歓声が上がりました!
真紀が奈々の強烈なボールを打ち返しポジションに
戻ろうとした時、バランスを崩して、


転倒したのです。


ああああああああああああああああああああああああ、、、、、!


真紀が!


真紀が転倒!

一斉に観客のどよめきが響きわたります。



現在、日の出丘高校のマッチポイントです。

これが決まれば日の出丘高校の勝ちです。

絶体絶命の大ピンチ!

観客全員が総立ちです。


足がふらついて起き上がれない!


あ~  決まるのか!
終わったのか!


奈々がボール方向に左手を出しスマッシュの構えに移ります。


次の奈々のスマッシュで決まりです!


地面に手をついた状態で真紀が奈々を見ます。


「間に合わない!」 理恵 許して!

 

次の瞬間、

 

また大きな歓声がまた沸き上がります。


うううううううwwwwっわああああ!

奈々の打ち返したボールが

青空に向けて大きく高~く舞い上がったのです。

観衆の首は横から大きく上に向き下に降りてきたボールを追います。

そこにはしっかりと立った真紀の姿があり、
空から降ってきたたボールをバシッ!と打ち返しました。


デュースアゲインが続きます。



わーーーと言う歓声とともに
観客から大きな拍手が起こります。

見た! 今の見た!

公古谷奈々のプレーすっごい!
俺もう感激して今日は絶体に眠れないわ!
さすが、2連覇だけあるな!
おれ、サインもらおう、、、
おれも、、、
アホ!

奈々コールが会場から湧き上がり収まりそうにありません。


大変な試合になってきました。
単なる決勝戦ではありません。
人の心を動かすような壮絶な試合内容です。

奈々の1打は賛否両論あるでしょう。
ですが、奈々がこれまで死ぬほど練習を重ね努力してきた
ソフトテニス人生の中で、その時とっさに選んだ1打です。

観客の惜しみない拍手が奈々に向けられます。


高木の目に涙がこぼれます。


奈々! お前って奴は、、、、


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長い白熱の試合が続きます。
未だ過去になかったすごい試合となりました。

初めての真紀/理恵(組)のアドバンテージです。

一体どうなるのでしょう?

もう互いに小細工的な作戦など頭の中にはありません。
そんなものが通用する相手ではないのです。
互いにそれが分かっています。
ミスをしないように、相手のスキを狙って最大限の強力スマッシュと
フェイント攻撃で正面から立ち向かう以外にありません。
正面から正々堂々と立ち向かう道しかないのです。

 

ソフトテニスの基本を精一杯やるだけです。
自分が持っている力を100%出し切る!
自身のフィーリングと一瞬の判断力をフル回転させて
体力の限界をも超えてプレーする! それだけなのです。
相手の前衛の静香が理恵に向けて超近距離のスマッシュを
打ち込みました。

 

あっ!

 

理恵は不可能と思える相手前衛からのスマッシュをカットし
ネット際に落としました。セーフ



1ポイント獲得です。

 

試合終了!

 

ですが、
4人は直ぐに自分のポジションに戻って構えます。

 

試合終了のホイッスルが響きます。

 


4人の選手がネットを挟んで並びます。

日の出丘高校  公古谷奈々/水戸静香(組)
秋日山高校   野々村真紀/葉山理恵(組)

勝者:秋日山高校 野々村真紀/葉山理恵(組)と主審が告げました。

 

公古谷奈々と野々村真紀がネットを挟んで固く抱き合います。
2人の目から涙があふれます。

 

奈々が言います。
真紀!私はあなたと対戦出来て本当に嬉しい!
それにしても強いね! 見てよ、この手!
あなたの玉を受けてこんなになっちゃった。ね!怪物さん!
開いた手は真っ赤で皮がむけて血が滲んでいました。

真紀が言います。
奈々!私はあなたを目標にしてどんな時でも頑張ってこれた!
いつもあなたが心の中にいて私を支えてくれた。
ありがとう奈々!
私は今回もあなたに負けたわ!あなたは真のチャンピオンだね!
そう言って、皮がむけ血がにじんだ手を広げて見せた。

静香と理恵も固く抱き合っています。
理恵が言います。
静香さん!あの時一番に私の処へ来てくれて、抱っこしてくれて
ありがとう。本当に嬉しかったわ。あなたのスマッシュ
すごすぎだよ!また教えてくれる?

静香が言います。
さん付けなしだよ、わたしもそうするから理恵。
ところで理恵!後半の理恵の動き目に見えなかった!
あれって何? 私も出来るようになりたいから教えて?

4人の表情はみんな明るく顔からは笑顔が溢れ、
まるでキラキラと輝いているようです。

自分の全てを出し切った喜びと満足感で身も心も
晴れやかでした。

 

高木は水城の処へ歩いていきます。
高木は言います。
水城先生! 今日は本当に有難うございました。
今日はいい試合が出来て本当に良かったです。
イヤーーーあ! あの子たちに1本やられました。
実は私は勝敗ばっかりにこだわっていました。
ですが、そんな自分が恥ずかしいです。
見てください!あの子たちの顔を!

こんな気持ちになったのは生まれて初めてのことです。
あの子たちから一番大切なものを教えてもらった気がします。
ソフトテニスの監督をやらせてもらって本当に幸せです。
今日は本当にありがとうございました。
そう言って丁寧に帽子を脱いで一礼し、
その場を立ち去ろうとしました。

 

水城サキが高木の後ろから声をします。

 

高木先生!
あの、、

はい!  なにか?

2年前の、、、、

はあ~?

 

2年前の先生の言われたの、、、
まだ有効期限は過ぎていないのでしょうか?

高木は、きょとんとした顔で、

有効期限?  2年前?

一体何のことを? 有効期限? なんでしょう?

 

高木先生!
私と交際してくださいませんでしょうか?

ずーーと高木先生のことを思ってまいりました。
ですが、今日のことを思うと、
あのように言うしかなかったのです。
申し訳ありませんでした。

 

ええええええええええええええええええ!

 

すると、、、

すると何ですか?
水城先生は2年前から今日のことを既に予想されていたということですか?

はいそうです。
高木先生と私が親しくなれば今日の試合に影響するかもしれませんし、
いえ、今日の試合はきっとなかったと思います。

 

ですから、私は自分の気持ちを抑えてまいりました。

私は高木先生のことが
「好き」です。

 

高木は水城サキに対して今まで、
高慢ちきで、冷たくて、だから憎くて、ぶっつぶしてやりたい女!
実際、高木はそれを目標にして生きてきたと言ってもいいです。
それが今、水城サキの最後の1語で

 
可愛くて、いとおしくて、キレイで、賢くて、素直な女に
急変したのです。
その心の変化にかかった所要時間は 0.1秒

 
高木は、我慢できなくなって
水城サキに走り寄って、ぎゅーーーっと!抱きしめました。

ですが、それは場をわきまえての、一瞬の出来事でした。

ですが、見逃しはしません、
奈々、静香、真紀、理恵の4人はそんな二人を見つめながら
ぽか~んと開いた口が閉じません。

理恵が言います。

私たち、あの二人を結びつけるのに戦ったん?

奈々が、、、だね!

4人が同時にうなずきます。
この決勝戦の本当の勝者は一体、誰だったのでしょう?

真紀がこけた時、奈々がスマッシュをしていたら?
静香が理恵を無理やりポジションに運ばなかったら?
勝利の行方はどうなっていたでしょう?
高木は試合に結局は負けてしまいましたが、
水城サキから交際を申し込まれた。これを負けと言えるでしょうか?

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