私は今日も、自分の部屋で、いつも通り勉強をしていました。
最近、母は私の体を心配しているようです。
あまり勉強ばかりする私を見て、気づかっているのです。
部屋のドアの外からノックが聞こえました。
母だと分かりました。
は~い! 入って、いいよ!
母が言います。
そんなに勉強ばかりしなくてもいいんだよ。
お母さんはね、あなたが元気でさえいてくれたら、
それだけで嬉しいんだから。
成績は気にしなくていいんだからね。
分かってる!
私も成績は、気にしていないから。
でも、今の私には勉強しかないし、勉強している時が一番楽なの。
私の体は大丈夫だから心配しないでね。
ありがとう、お母さん。
・・・
そう!
どんな事情かは知らないけど、無理だけはしないでね。
いい!
体を壊すと、もともこもないんだからね。お願いだよ。
このミルクティーを飲んで、少しは休憩しなさい!
ここに置いておくから。。。
カップに入ったミルクティーが机の横に置かれました。
お母さん! このミルクティーは?
あなたが今日、学校から持って帰ったミルクティーを温めたのよ。
飲みたかったんじゃないの?
これを飲んで、温まっりなさい。いいわね!
うん! ありがとう!
そう言い残して、母は部屋から出ていきました。
ミルクティー
あいつ!
あいつが、私に買ってくれたミルクティーだ!
缶コーヒーの奴!
私は、今日の学校でのことを思い出しました。
授業中に転校生1日目なのに、一方的に親しく私に話しかけてきて、
勝手に私と賭け事をして、勝手に賭けに負けた、あいつ、缶コーヒーの奴!
今日の朝、校庭であいつが私にぶつかって、
帰りに私がその仕返しをした。
自転車で逃げようとする私を邪魔して、
しつこく追いかけて来たあいつ。
あのイチョウ並木の道端で2人で話をしたこと。
このミルクティーは、
その時に、あいつが私に買ってくれたものだ。
これを受け取った時、
私の両手の中に温か~いものが広がって心が癒された。
ミルクティーの温度ではなく、
なにか分かんないけど、とっても優しいものだった気がする。
だからその場で飲むのは、もったいない気がして家に持って帰ったんだわ。
あれって、なんだったんだろう?
そして今、あの時のミルクティーが私の机の上にある。
母が温めてくれた、あの時のミルクティー。
私は、カップを取って、そのミルクティーを一口飲みました。
あ~ なんて美味しいんだろう、、、、、
これが、自販機のミルクティー缶なんてとても思えないわ!
信じられない!
なんて優しい味なんだろう! とっても美味しい!
その、まろやかな味と香りが、
私の体の隅々までしみ込んで、
私の心を癒してくれる気がしました。
あいつが、あそこで、私にくれたミルクティー。
そう言えば、あの時、私は今までになく不思議だった。
そうだわ、、、、今までの私とは違っていた。
なにが?
あの時、何故か私は、
勝家とお市の最後について思いを寄せていた。
2人の自害がどのような形で行われたのかを色々想像し、
どんな思いで2人が果てていったのかに思いをめぐらしていた。
そして私なりに納得しようとしていた。
戦国時代に散っていった勝家とお市の2人に、
特別なロマンスを感じていた。
でも、何故そうだったんだろう?
今までの私なら、そこまでは考えたり、想像もしなかったはずなのに。
日本史の授業で、お市の辞世の句で手を挙げてしまった。
今までなら、そんな目立つことはしないし、数Ⅱでもそうだ。
今日の私が、今までの私と違っているなんてありえないけど、
・・・ でも
でも、何かが違ってた気がする。
理由は?
理由は1つしかない。
缶コーヒーの奴だ!
今日の私に何らかの形で全て関係している。
今日下校時に、
私は、あいつのお尻を思いっ切りカバンでぶん殴って、
自転車で一目散に逃げようとした。
元々私が男子のお尻をカバンでぶん殴るなんて、
今までの私には想像もできない。
あの時、結局、あいつに捕まって、それが機会で、
このミルクティーをあいつに買ってもらい、それが今ここにある。
今朝、あいつが私にぶつかって以降、ず~っと私に関係している。
今もだ。
あの缶コーヒーの奴!
あいつは、一体、なんなの?
私は一通りの勉強を終えてベッドに入りました。
ベッドで布団を頭からかぶると、
おーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!
ムシ子―――――――――――――――――――――お!
こんなのって、俺が、バカみたいじゃんかーーーーーーーーーーあ!
今日のことが思い出されて、
私は、お布団の中でクスクスと声を出して、笑ってしまいました。
あいつ、、、、、
翌日の体育の時間は硬式テニスの練習です。
学校には校舎の直ぐ横に、野外テニスコートが4面あります。
授業は男女に分かれて各1面のコートを使用します。
まず、基本の素振りをやって、
次はサーブの練習です。
その日は風が強くてボールが思った方向に飛んでくれません。
横からの殴り風で、ボールが大きく流されてしまい、
コート外までも流されることもありました。
先生は、
風を読んでサーブをするようにと言うのですが、
風向きが色んな方向に変わっていくためにめに、
うまくサーブが決まりません。
横のコートで男子も苦戦しているようです。
サーブは皆で列を作って並び、順次打っていき、
打った後、走ってポジションに走って行き構えるところまでを
何度も繰り返すのです。
直ぐに順番がやってきます。
こんなに風が強くては、ボールなんてまともに打てないわ、、、
私だけでなく、みんなそう思っていると思いました。
ヒューヒューと吹く風に前髪が乱れます。
私の、長い髪は後で一つにまとめているのですが、それも
大きく風邪で揺らされますれ。
あ~ また、私の番がやってくる。
ヤダナ~ ほこりっぽいし、枯葉が飛んできちゃうし、
最悪だわ!
私の番です。
風でボールが流されないように低めに上げて、
え~い! バン!
あ~ ボールが、、、ボールが~、、、大きく外れて
横の男子のコートまで飛んでっちゃう!
あ、、、、、男子のサービスコートに落ちちゃった!
一瞬、男子の方を見ると、
缶コーヒーが両手でセーフセーフと合図して大笑いしながら、
手をたたいて喜んでいるのが見えました。
くそ~ 缶コーヒーの奴! 私をバカにしてる!
あのバカ! ぶん殴る!
そして、缶コーヒーが何か手で合図しているようです。
なになに、、、、、
どうも、
あいつは自分の打ったボールで缶コーヒー1本を賭けるって言ってるようです。
ボールがセーフならあいつの勝ち、アウトなら私の勝です。
無視! 無視!
でも、ちょびっと気になるので、チラチラと男子の方を見ていました。
すると、缶コーヒーがサーブラインに立っています。
ボールを持って真剣に前を見つめています。
ボールを高~く上げました。
膝を曲げていき、態勢を前かがみにした状態からボールを
追うよう飛び上がり全身を弓のように伸ばしました。
私は、一瞬、え! すっごい! 正直にそう思いました。
次の瞬間、ハッ! と気合の声がして、
ラケットが力強く振られました。
バン! と変な音がして、
ボールは野球場のとんでもないところへ
飛んでいき、打った本人も地面に転がっています。
私は片手で口をふさぎ、もう一方の手をお腹に当てて、
その場にしゃがみ込んでしまいました。
あきれ返って噴き出してしまいまいた。
めちゃめちゃ可笑しくて、
なんて、バカなんでしょう。
あんなの見たことない!
お腹が痛くなるほど笑って、
可笑しくて可笑しくて、もう笑いの限界です。
あ~ 可笑し!
声を出さずに笑ったので、目から涙が出て来てしまいました。
みんなに分かるとヤバいので、
しゃがんで笑いを押さえるのがやっとでした。
あ! また、私の番がやってきました。
風の少し収まるのを待って、ボールを低めに上げて、
えい! バシッ!
低めにシャープにボールを打ちましたが、逆に低すぎて
ネットに掛かってしまいました。
それでも、
直ぐに走ってコートの真ん中に走り出てラケットを構えました。
その時、スゴイ風の音がして枯葉がいっぱい舞い上がりました。
突風です。
と、その時、周囲の女子の中のだれかから、
危ない!
と言う高い叫び声が響きました。
私はその声に直ぐに反応して一瞬、周囲を見回しました。
あ! 大きな板が私の方に飛んでくる!
私の目の前に1枚の板が近づいてきますが、何故か動けません。
私は目を閉じました。
すると、次の瞬間、誰かが私の体を抱きかかえて、
ばっ!とその場から移動して、私は抱かれたままの状態で
地面に転がりました。
その直後に、ガガン!という大きな音が聞こえました。
何が起きたのかよく分かりません!
でも、
少し先を見ると、体育祭で使用した1枚の大きなボードが
落ちていました。
風にあおられて、板が舞い上がり、それがちょうど私の
いる場所に飛んできた事に気づきました。
あ~ 危なかった!
私! 大けがをしている処だったんだわ!
でも、助かった!
なんで?
え!
だれかが私の体を抱きしめている! だれ?
私の体の下にだれかが居て、私を両手で抱いている。
男子の体操服だわ! え? 男子~!
だれ?
私は、その男子の顔を見ました。
え、嘘! あんた! 缶コーヒー!
なんで、
・・・
・・・ なんで、
缶コーヒーが私を抱いてるの? わかんない? ど~なってるの?
なんで私と一緒にいるの?
・・・まさか
まさか、缶コーヒーが私を助けてくれた?
あの大きな板が私に衝突するのを助けてくれたの?
本当に間一髪で助かった感じだわ。
あの状態で助けようとすると自分も巻き添えで危なかったのに、、、、
直観的にそう思いました。
それでも、私を! 助けてくれた!
缶コーヒーは目を閉じたままです。
ど~しちゃったの?
目を開けて!
お願いだから、その目を開けて、、、、、、
でも、目を閉じたままです。
え! まさか!
・・・ まさか、、、嘘!
死んじゃったの! 缶コーヒーが死んじゃった!
そんな~
悲しさが急に込み上げて、体中に広がっていきました。
うわあああああああああああああああああああああああーーーーん!
私の目から一気に大量の涙が溢れだし、私は大きな声で泣きました。
死なないで!
死んじゃあダメ!
うわ~ん うわ~ん うわ~ん うわ~ん うわ~ん うわ~ん
死なないでよ! お願いだから!
お願いだから、死んじゃあダメ! お願い! お願い!
お願い! お願いだから、、、 ドンドンドンドン!
私は泣きながら必死で缶コーヒーの胸を拳でたたきました。
神様! お願いです。
どんなことでもします。
缶コーヒーの命を助けてください。お願いします。
お願いします。お願いします。
ドンドンドンドン!
ドンドンドンドンドンドンドン!!
ヤメロ! 止めろ! 止めろ~! 死ぬ!
やめろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーお!
ムシ子ーーーーーーお! やめろ! 止めろってば! ムシ子!
胸がめちゃめちゃ痛てーーーーーーーーーえ! 痛てんだってば!
・・・?
・・・え
・・・生きてる、、、
缶コーヒー! あんた、死んでないの?
ハアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーア!
なんで俺が死ななきゃならないんだよ!
勝手に俺を殺すんじゃねえ! このバカ!
・・・!
あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
あんた、今、私の事、バカって言ったわね!
ああ、言ったさ!
バカにバカって言って何が悪いんだ! バカ!
あーーーーーーーーーーあ! 私もう怒った!
バカにバカにされるなんて、もう許せない! 最悪!
先生やみんながやってきました。
先生が言います。
おい! 2人とも大丈夫だったか? 危ないところだったな!
いや、こんなことが起こるなんて予想もしていなかったよ。
間一髪で大事故に繋がる処だったよ。
2人とも怪我がなくて本当によかった。
でも、君!
あの状態で、よく彼女を助けられたな!
本当によくやったよ!
身の危険をかえりみず、彼女に飛び込んでいったんだからな。
本当に勇敢だったよ!
ありがとう!
みんなが私たちを取り囲んで拍手をしました。
私は、
缶コーヒーの顔をじ~っと見つめました。
そして、言いました。
あ、あの、、、、、、缶コーヒー!
なんだよ?
わ、私を助けてくれて、ありがとう! ペコッ!と頭を下げました。
い~んだよ! それよりさ、
ムシ子、お前、さっきだけど、
お願いだから死んじゃあダメ! お願い! お願い!
な~んて言ってた~~?
それも、泣きながらさ!
・・・え
あんたバッカじゃないの?
なんで私が、そんなこと言うのよ、なんで私が泣くのよ!
あっそ! じゃあ、俺の気のせいか?
俺! 初めっからぜ~んぶ聞いてたんだよな~! 目を閉じてさ!
・・・
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ!
初めっからーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
神様! お願いです。
どんなことでもします
缶コーヒーの命を助けてください。お願いします。 な~んてさ!
あれも俺の気のせいだったんだな~
クククク・・・
・・・ク、何て奴!
もう怒った! 許さない!
私の手で、お前を抹殺する! 覚悟しておけ缶コーヒー!
———————————
現国の授業が始まって、
最初に昨日の漢字の小テストが返されました。
名前を呼ばれて前にテストを取りに行きます。
缶コーヒーが呼ばれて席を立ちました。。
あれっ! 缶コーヒーの奴、右足がなんとなくおかしい、、、?
気のせいかもしれませんが、ほんの少しだけ、
ひこずっているように見えます。
ひょっとして、あの体育の授業が原因とか、、、、、?
私を助けた時にやったのだろうか?
私の、勘違いかもしれない。気のせいか、、、!
ムシ子! 俺のテストの結果はこれよ!
そう言ってチラッと点数を私に見せました。
9点です。
何だか、自信満々の態度です。
この現国の小テストは、
昨日あいつが勝手にコーヒーを賭けているものです。
私も名前を呼ばれて小テストの採点を受け取りに席を立ちました。
缶コーヒーが私が席に帰るのを待ち構えています。
いかにも早く見せろって表情をしていますが、
私は、無視して、でもテストを缶コーヒーの机の上に
ポイ!
と裏にして置きました。
缶コーヒーは時間をかけてゆっくりと、私のテストの紙をめくって
下から覗き込むようにして点数を見ています。
缶コーヒーがバタッ!っと机の上に顔を付けました。
なんでなんだ! ムシ子! またかよ~
私には見なくても点数は分かっていました。
今日の学校の授業は終わりました。
長い1日に思えました。
今日は、私の掃除当番です。
直ぐには帰宅できません。
今日は女子4人です。
まともにやると結構な重労働です。
机を全部後ろに移動させて、
モップで床を拭きまた机を元に戻すのです。
教室の外の廊下もモップがけをします。
あと細かいことが色々とあります。
いかに、手早くやるかは、
共同作業と分担作業の組み合わせで決まります。
あ~ やっと終わったわ!
他の女子は書店で参考書を見るとかで、一足先に帰っていきました。
あとは、
私が、窓側のカーテンを閉めるだけです。
いつものパターンです。
最後のカーテンを閉めようとして、校庭を見下ろすと、
一人の男子が玄関先をゆっくりと歩いています。
あっ! あれは! ひょっとして缶コーヒー、、、、、
なんで、今頃、帰っているんだろう?
・・・?
私はいつも通り、自転車置き場まで歩いて行きましたが、
もうその時には、缶コーヒーの姿はありませんでした。
自転車で校門を通過した時、校門を出たすぐ横に誰かが
いるような気がしました。
キューーーウ!
私はブレーキでストップし、後ろを振り向くと、
缶コーヒーの奴が校門の花壇の上に腰を掛けていました。
・・・
私は、少し迷ったのですが、
思い切って声をかけました。
ひょっとして、
足が痛いたのかもしれないと一瞬思ったからです。
ねえ! 缶コーヒー!
こんなところで何やってるのよ!
早く帰らないと、悪い人に誘拐されちゃうんだからね!
まあ、そんな物好きもいないっか~ うんうん!
じゃあ、、、、え~っと!
・・・
・・・
缶コーヒー! あんた! 足が痛いの!
・・・!
家に電話してるんだけどさ、迎えがさ、、、、
その内、繋がるさ、、、、、だから大丈夫!
それに、
ゆっくり帰るかどうか迷ってるところなんだ!
家もそんなに遠くないし、
ねんざだってさ!
今保健室で湿布してもらってた!
2~3日は痛いけど、すぐに治るって!
特に今日は痛いってさ!
・・・
・・・
乗って!
ハア~、、、、、、、、、、、、、?
後ろに乗って! 私の自転車の後の荷台に乗るの!
さあ早く!
でも、それって校則違反じゃあ、、、、!
お前みたいな、優等生が校則違反すんのって、ヤバクない?
うざい奴!
校則違反は破るためにあるんじゃない。
破らなきゃ作った人をがっかりさせるだけ!
作った人を喜ばすための違反だから、良いことなの。分かった~
早く乗って!
俺は、ムシ子の理屈にかなった変な考えに、かなり納得して、
ムシ子の自転車の後ろに乗りました。
前の荷台には2つのカバンが載ってるせいか、
ムシ子の運転は少しバランスが取れず、グラグラとしました。
少し進んだところで、急に自転車が止まりました。
え! なに?
どうしたんだよ? ムシ子! 急に止まって?
ムシ子の手が横を指しています。
え! なに? その手?
ムシ子の人差し指の方向を見ました。
ハア―――――――――――――――――――――――あ!
自販機!
・・・
まさか! お前?
・・・
早くして! 私のは分かってるでしょう?
・・・
な、なんて、女なんだ!
ハイ!ハイ! 賭けだもんな! くそーーお!
俺は自転車から降りてベンダーから2缶買って1缶を
ムシ子に渡しました。
はいよ! これは、お前のミルクティーで、
こ俺の葉の、お前のおごりのコーヒーだな! 分かってるさ!
ありがたくいただくよ!
ムシ子は昨日と同様に、缶を大切に両手で包み込んで、
俺に顔を見られないように向こうを向いて、
ゆっくりとカバンの中へ入れました。
きっと昨日と同じように、微笑んでいるに違いないな!
昨日のムシ子の顔が浮かんできました。(めちゃ可愛かった)
俺も今回はポケットの中に入れました。
俺はムシ子に言いました。
分かってるさ! 言われなくても!
今日のことは今日中に済ませろって!ことわざ、あるんだろう?
あ~あれね、、
あれは、あの時、私がその場で勝手に作っちゃった、ことわざ!
はあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
お前って奴は、どこまで俺のことバカにしてるんだ!
缶コーヒー君!
なんだよ? くそ!
私にミルクティーを買ってくれて本当にありがとう!
ウッ!
・・・(なんだこいつ、やけに素直じゃん!)
別に、、別に大したことじゃないし、俺が賭けに負けたんだから、、
そう気にしなくていいからさ!
うん! 全然気にしてないわ!
俺んち、あの土手の橋を渡ったところだから。
学校まで、歩いてもそう遠くない距離なんだ。
土手道に入っていきました。
すっごいガタガタ道です。
大きなグリ石がゴロゴロ転がっている細道です。
缶コーヒー! なんでここって舗装してないのよ~?
そんなこと俺に言うなって!日本政府に言ってくれ~!
缶コーヒーの両腕が私の胴体にしっかりと絡んでいます。
私の体を後ろから両手で抱え込み、
顔を背中にピッタリと着けています。
両腕は私のお腹の前で固く組まれています。
ガタガタ道だから、仕方がないと言えばそうなのですが、、、
ガタ! ガタ! ガタ! ガタ! ガタ! ガタ! ガタ!
自転車がすっごい振動します。
その度に、缶コーヒーの両腕が私の胴体を強く抱えます。
缶コーヒー! その腕って、、、何とかならない?
なるわけないだろー! こうしてないと落とされちまう!
ガタ! ガタ! ガタ! ガタ! ガタ! ガタ!
落ちる時は、私から手を放して落ちてよ! いい!
そんなことよりしっかりハンドルを握って運転しろー!
落ちる時は道連れだからなっ!
ガタ! ガタ! ガターン! ガタ! ガガ! ガターン! ガタ! ガタ!
あ~ 缶コーヒーの腕が私のウエストに食い込んで来る。。。。
なんてことなの、、、、、!
あ~ まだまだ橋までは遠い!
こんな状況であそこまで行けるだろうか?
こいつの腕が、私のウエストを締め付けて、
中の内臓を刺激している。。。
ヤバイ! ヤバイ!
こんな状況が起こるなんて、、、、、! 想像もしていなかったわ
どうしたらいいの? どうしよう?
缶コーヒーに私の性癖を絶対に見破られてはダメだ!
絶対に!
あ、、、、、、、、、
私のお腹の中にある腸がぬるぬると動いている、、、
それを缶コーヒーの両腕が固く締め付けて、
ねじるように無理やり移動させている。。。
あ~ サドルが、、、サドルの振動が、、、
私のあそこを刺激して、更に振動が内臓まで突き上げてくる。。。
ガタ! ガガ! ガターン! ガタ! ガガ! ガターン! ガタ!
あ~ 変な気持ちになりそう、、、、、
何か他のことを考えなきゃ、、、、、
え~っと、、ラベンダーは今は季節でないな、、、、そんなの分かってる!
え~、、、今はパンジーとバラがキレイだから、、、花柄を取ってやって、、、と
あ~ 内臓が絞めつけられる、、、、、腸がねじれて熱くなっていく、、、、
あそこが、あそこが、湿っぽくなっていく、、、、だめ、、だめ、、、
橋まで、もう少しだわ、、、、、我慢するのよ、、、、、我慢!
ガガ! ガターン! ガタ! ガガ!
ガッターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
自転車が大きく揺れてハンドルがクルっと回転してしまいました。
私はギューーーッ!とハンドルを持ち直し、前を見ました!
前と言っても土手の斜面です。
なんと自転車は土手の斜面を加速しながら走っているのです。
むし子ーーーーーーお! ハンドルを放すなーーーーーあ!
缶コーヒーが、私にめちゃめちゃ強く抱き着いたままで、
後から叫びました。
私はまばたきもせず、
大きく目を見開いて、
握ったハンドルの両腕を固く突っ張って前方だけを見ました。
え! 嘘!
その前方には、すっごい大きな岩のような石が置いてあります。
それに向けて、まっしぐらに自転車は下っていきます。
あの石なに?
聞いてどうなる!
方向を変えるんだーーーーーーーあ!
方向なんて変えられません!
おい! ムシ子!
なに? 缶コーヒー!
あれにぶつかったら終わりだ! 飛び降りるぞ!
だれが?
俺とお前の2人だ! 一緒に!
私には出来ない! あなただけにして!
バカ! 死ぬぞ!
ああああああああああああああああああああああああああああああ、、、、!
ガッチャン!
・・・
・・・
・・・
どれくらい時間が経ったのか分かりません。
気が付くと、俺の少し離れた斜面に、
不自然な状態で、うつ伏せになったムシ子が見えました。
あっ! ムシ子! ムシ子が大変だ、、、、!
俺は、直ぐにムシ子の処に飛んで行きました。
そして、
ゆっくりと優しく、ムシ子の体を仰向けに起こしました。
おい! ムシ子!
ムシ子ってば! 大丈夫か?
ムシ子は、目を閉じたまま反応がありません。
それもそのはずです。
あんなに大きな石に、この急斜面を自転車で加速してぶつかったのです。
信じられない大きな衝撃を受けたに違いありません。
俺は、運よく助かったのかもしれませんが、
普通なら、大怪我をしているところです。
ムシ子! 悪かった! 俺のせいでこんな目に合わせてしまった。
取り返しのつかないことをしてしまった。
ムシ子! どうか目を開けてくれ!
頼む! 頼むから!
ムシ子の顔は驚くほどに、キレイで美しく輝いて見えました。
目を閉じたムシ子の乱れた前髪を、指でそっとなどりました。
お前! こんなにキレイだったのか、、、、、!
その時、急に悪い予感がしてきました。
まさか、まさか、死んじまったんじゃないだろうな!
嘘だろう! お前が死ぬなって! そんなのあり得ないよな!
あっ!
救急車を呼ばないと!
慌てて、ポケットからスマホを取り出して119番をします。
え! なんで? 全く反応がない! 119番
何度かけても反応なしか。なんでだ!
さっきの衝撃できっと壊れたんだ! クソー! こんな時に、、、
ムシ子! ムシ子! ムシ子の片手を握りしめて神様に祈りました。
あ~ 神様! ムシ子を助けてください!
そのためだったら、俺は、どんなことでもします。
だから、どうかこの子をお助け下さい!
この子は強情で口は悪いですが、頭が良くて可愛いやつなんです。
だから、
神様! お願します。
一生に一度のお願いです。
どうか、この子を助けてください。お願いします。
その時です、俺が握ったムシ子の手が動きました。
あっ! 生きてる!
良かった! 本当に良かった、、、、
あ~ 神様! ありがとうございます。
と、その時です。
バサッとムシ子が急に上半身を起こしました。
うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
俺はビックリして、後ろに転げてしまいました。
こらーーーーあ!缶コーヒー! 私を勝手に殺すな~!
それに何よ今の、、、?
私が強情で口が悪いって!
神様がそんな奴を助けてくれると思ってるの?
バ~カ!
はあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ!
ムシ子! お前! いつから聞いてたんだよ?
缶コーヒーが仰向けにしてくれた時から!
ハーーーーア!!!!
じゃあ、今まで、なんで目をつぶってたんだーーー?
いい加減にしろーーーお!
じゃあ、言っちゃうけど、缶コーヒーだって
なんで、テニスコートで目を閉じてたのよ!
それは、、、、、、
・・・
お相子でしょう、、、、プラスマイナス、ゼロ!
・・・
行こうか!
ああ、、、!
自転車が、あんなところまで飛んでってる。
動くかな~あ、、、、、?
なんとか自転車を2人で土手の上まで運びました。
汚れは有るけど、壊れてないみたいで、よかった~
さあ! 缶コーヒー、後ろに乗って、、、、
行くわよ!
早くして!
ムシ子が2つのカバンを前のカゴに入れながら言いました。
おい! ムシ子!
なに? 缶コーヒー?
あれはなに?
あれって?
橋だよ!
橋って?
鉄骨の橋が木になってる、、、!
バカがアホウになったか、、、!
2人は同時に土手の上から自分たちの周囲を見渡しました。
ムシ子は無口のまま辺りを見ています。
俺も沈黙です。
ガシャん!自転車が倒れる音がして、
ムシ子が急に俺の体に抱きついて来て来ました。
ムシ子はその顔を俺の胸に埋めて目を閉じています。
ムシ子の体がブルブル震えているのが分かりました。
俺はそんなムシ子をしっかりと両腕で包み込んでやりました。
ムシ子の強烈な恐怖が伝わってきます。
俺も大きなショックが体を突き抜けていきます。
信じられないことが、今2人の目の前で起きているのです。
一体、これは!
どうなっているんだ!
土手の上から見る周囲の景色が一変しているのです。
前とは全く違った世界が広がっているのです。
ここは、、、ここはどこなんだ?
夢と幻想の森